中居氏の事件について、報道は今やフジテレビの問題となって久しいです。それも、あまり報道されることは少なくなりました。私は、この件について、1月26日から三回にわたってこのブログ、フェイスブックに書きました。それは、産婦人科医として、また性暴力被害者サポート広島の理事として、性暴力の被害に遭った人たちの診察やケアに当たることが多い私にとっても無視できない問題だったからです。たとえ、地方の一産婦人科医にすぎなくとも。いくつかの疑問や意見を書かずにらはいられませんでした。
その被害者とされる渡辺渚さんの本が出版されると知って、発行前からアマゾンに注文をし、購入しました。よくあるゴーストライターが書いたものではなく、全部彼女が書いたものだそうです。それを読んで、二点のことを書いておきたいと思います。
一つは、本当にひどい目に遭い、一旦心も死んでしまい大変なPTSDになった彼女の回復の記録は、とても大切で、すべてのケアに携わる人たちは読んだほうがいいと思います。わたし自身、多くの学びがありました。傷ついた人にどのような声かけをし、どう寄り添ったらいいのかが、被害者の立場から、しっかりと語られています。
そして、あの絶望からよくここまで立ち直ったその強さに感嘆しますし、私たちに多くのことを教えてくれて、本当にありがとうと感謝したいと思いました。
もう一点。彼女は、とてもひどい目に遭ったことはこの本の中の「心が殺された日」というタイトルの中でわかります。
「2023年6月のある雨の日、私の心は殺された。
仕事の延長線上で起きた出来事だった。それが原因で、私は"PTSD・心的外傷後ストレス障害"になった。PTSDとは生命を脅かされるような出来事(トラウマ体験)がきっかけで起きる精神疾患だ。PTSDになった要因のトラウマ体験は、私にとって一生消えない傷となった。
あの瞬間、恐怖で身体が動かなくなって、「助けて」が届かない絶望感と大好きな人たちの顔が頭に浮かんだ。どんどん自分の身体と心が乖離していって、幽体離脱のような感じだった。真っ暗で冷たい井戸に落とされたかのように、どれだけもがいても救われることはなくて、意識はあるのに死んでいく。」
彼女がはっきり「仕事の延長線上で起きた」と書いているように、どうしてこんなことが起こってしまうのかというと、私は、これはフジテレビそのものの問題であると思います。それは、この事件が起きてからの数々の報道を見るまでもなく。このテレビ局が女性をどうとらえてきたのかということです。これは、あの文春の記事の訂正について、鬼の首でもとったかのように、「文春が廃刊になるような大誤報だ」とフジテレビの朝の番組でコメンターたちが言っていましたが。誰が当日彼女を誘ったかという、そんな問題ではありません。そんなのは小さなこと。
それまでに彼女たちが度々タレントたちとの会食に呼び出されていたことも含めて。わたしが、この本を読んで、とても不愉快だった所はここです。
ただ一つ違和感を感じていたのは、”アナウンサーは常に完璧でいなければならない”ということだ。
新入社員のころに衝撃を受けた言葉があった。理想のアナウンサー像について説諭された時、「入社して3年は恋愛をするな。しても、絶対にばれるな。アナウンサーは人気勝負。現場のスタッフから好かれることが大事だから、もし恋愛が週刊誌とかにバレたら、あなたを好んで起用してたおじさんたちが拗ねちゃうよ」と言われたことだ。(略)「ノーと言ったら嫌われる、自分を使ってもらえなくなるのではないか」と思い、多少のハラスメントのようなことにも目をつぶった。「そういうのにうまく対応できるのが一流のアナウンサーだから」と飲み会で言われた時は腹が立ったが、しょうがないと受け入れた。(略)恋愛ももちろんしなかった。・・と。
この部分です。今だにこんなことが言われる会社があるということが、絶望ですね。
「おじさんたちが拗ねちゃうよ」!!これは、私の若いころのことを思えば、理解できないわけではありません。上司に嫌われてはいけないと。でも、それから五十年も経っているのです。世の中は変わってきているのです。この会社では、アナウンサーという職業についている女性が、いまだにこんなに扱われていることに、とてもとても違和感と、腹立ちを覚えました。そういう風土のテレビ局の中だからこそ、こんな事件が起きてしまったのだと思います。
今、フジテレビは、こういう風土も含めて変わらなければ、これから先はないということになるでしょう。その意味でも、彼女は期せずではありますが、そして、大きな犠牲を負いましたが、会社の救世主ともなったのだとさえ思います。
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