ボリショイサーカスの司会をしたこと(3)
京都のホテルにいます。明日から、斎藤洋さんのお母様の絵の遺作展が開かれます。それに行くのに、朝早くに出発するのはしんどいので、診療を終えて今日の内に来ました。京都に到着すると、西宮にいる姪と一緒に食事をしました。そして、ホテルに入っています。明日は、個展の他にも、特別養子縁組の養親と赤ちゃんに会う予定もあります。そして、その後、明日じゅうに広島に帰る予定です。次の日も休みなのですが。
斎藤さんのお母様の遺作展はこれです。
私が何度か見せて頂いたお母さまの絵の中で、何より好きなのはこれですが。これはきっとどなたも好きになる絵だと思いますし、斎藤洋さんがずっと手元に置いておきたいそうです。当然です。もちろん、これ以外から、どれかを選ばせて頂こうと思います。本当にすごいですよねえ。生前にお会いして、拝顔させていただきたかった!!
ところで、ボリショイサーカスのキオの魔術の続きです。前回の続きから。
ボリショイサーカスの幕が開いて4日目の7月4日8時10分、第二部キオの魔術が始まったこの時、正面最前列に6人の男女が居並んでいた。
推理小説家の松本清張、東大教授で東京マジシャンズクラブ会員の上野景福、推理作家の戸板康二、特殊撮影監督の円谷英二、漫画家の西川辰美、シャンソン歌手の石井好子の面々である。
6人はキオが演じる20のマジックのうち、三大魔術といわれている「空中での男女のすりかえ」、「ライオンになった美女」、「美女の火あぶり」の謎ときに挑戦、その回答に対して、翌日キオが答えることになっていた。
「ソ連の世界的魔術師がなげかける謎に、日本の文化人が頭脳をしぼって立ち向かう一代推理ゲームが展開」することになったわけである。
30年以上も前の話だが、いまでもワクワクしてくるような企画ではないか。この企画を思いたった編集部のアイディアにも脱帽させられるが、これを堂々と受け入れた神、そしてキオの潔さにも驚かされる。のるかそるか、一丁やってやろうという、気合が感じられる。サーカスのPRとして、これほど話題を呼ぶ企画はないだろう。受け入れる側からすれば、もしも三つとも簡単にトリックの秘密が見破られたら、動員にも影響するリスクを背負わされている。それでもこれが話題になることを見通して、バクチに乗るところに、この興行に賭ける切羽詰まった神たちの思いが込められている。
海外のサーカスの日本公演の宣伝で、売れっ子のタレントをつかって「○○に連れていって」というのがあったが、サーカスそのものを宣伝するのではなく、タレントの力に依存するこの宣伝方法の安易さから比べれば、サーカスそのものの力に勝負を託そうというこの意気込みから、興行に賭けるまさに真剣勝負の迫力がヒタヒタと伝わってくる。
この日ソ推理合戦の一部を、「空中での美女の取り替え」を例にとり、どんな結果になったのかを紹介しておこう。
このマジックは、10メートルの間隔をおいて二つの四面素通しの鳥カゴがあらわれ、右に男性、左に女性がのって空中に浮かび上がり、幕が上がって人間が隠れた次の瞬間、サッと幕が下りると、男女が逆になっているというもの。時間はわずか10秒というスピードだ。
このマジックを見たふたりの文化人の推理はというと・・・
戸板康二「髪と衣装を籠の中でとりかえるのだ。日本人にはロシア人の顔はよく判らないから、見破れない。
まず、男が女に扮し、女は男になって登場する。幕がおりると、籠の中で歌舞伎の早変わりを演じるわけだ」
松本清張「三面鏡がカゴのなかに仕掛けられていて、それぞれの背後に、ウリふたつの男女がかくれてすり替わる」
これに対してキオは、翌日記者の前に姿を現し、それぞれの推理への回答を出している。「空中での美女の取り替え」については、こう回答している。
「みんな零点です。早変わりも鏡も不可能です。また、カゴは空中に浮いています。下から見上げれば天井は見えるし、三階から見下ろせば、底も見とおしでしょう。替え玉が天井にへばりつくことも、底にかくれることも出来ないはずです。みんな見当ちがい。タネのヒントはもっと実に簡単なことですよ」
以上で引用は終わります。これらの文章があんまり面白かったので引用させていただきました。私、これらの謎解き、舞台のそでから何度も何度も見ているうちに、この三つとも、わかったのです。美女とライオンに、黒柳徹子さんが美女役で出演なさったことがあると。でも、このからくりはぜったいにだれにも口外しないとキオさんと約束なさっていたそうです。私には、そんな約束なんてありませんでした。きっと、学生風情の私に、からくりがわかる訳がないと、キオさんやサーカス団の人たちの意識にも乗らなかったのだと思います。
私、ロシア語の会話の本を買って、にわか勉強ですが一生懸命勉強したものですし、サーカスの団員さんたち、ピエロや通訳の姉弟さんや楽団の方たちとも仲良くなって、とても楽しいアルバイトでした。来週初めには、注文した本二冊が届くはずです。読んで、またお伝えしたいことがあったら、またお話ししますね。読んで戴いてありがとうございました。
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