「生理を休む」
私のクリニックの待合室のエレベータの横の一番目立つ所に貼っているポスターです。
昔は、「生理で休む」。私の若い頃は「生理休暇」を遠慮しないで取るために、職場をどうすればよいのか、というような議論が必要でした。今でも同じような状況に置かれている人が沢山います。生理が辛い、でも、それを我慢して職場や学校に行かないといけない、さぼってはいけない・・。
特に、まだ生理が始まって間がない少女が苦しんているのを、むしろ母親やおばあちゃんが我慢させていることがあるのですね。自分が若かった頃と同じ様に考えて。カイロをお腹にあてて寝ておきなさい、とか。一度、そんな我慢をさせ続けて、ついに「この子は異常ではないか」とクリニックにお嬢さんを連れて来たお母さんを怒ったことがあります。「痛み止めは体に悪いから」我慢させて来た、という方に。こんなに痛いのを我慢させ続けたことの方がよっぽど体に悪いでしょ、体だけでなく、精神的にももしんどいでしょ、と。そしたら、その後、父親、お母さんの夫から、「あんた、女房に何を言うたんか」と、ひどく怒って電話がかかってきました。「うちの女房は、世界一の女房だ。その女房を怒ったな」と。「お嬢さんを我慢させ続けて来たことを怒ったんですよ。お嬢さんが可哀そうじゃないですか」と反論しましたが、以来、お母さんたちを怒るのはやめました。我慢させられ続けたお母さんたちも被害者だと思うようにして。
でも、単なる痛み止めではどうしてもつらい人もいます。その若い人たちに、月経困難症に効く低用量ピル、OC(オーラルコントラセプション)と同じもので、LEP(ロードーズエストロゲンプロゲスチン配合薬)をお勧めすると、まず「そんなものを飲んで、副作用が心配ありませんか。将来、不妊になるのではありませんか」と尋ねるのは、まず付き添って来たお母さまたちです。「ピル=副作用」なのですね。そう、教え込まれているのですね。
そんな、将来不妊になるような薬を世界中の女性たちが飲んでいるはずがありませんし。子どもが欲しくなったら、やめればいいのですよ。そしたら、また元のリズムが戻ってきますから。それより、今、辛い彼女が楽になることを考えてあげたいですね。痛いのは、もしかすると、子宮内膜症などが潜んでいるかもしれませんし。そしたら、その方がよほど不妊に結び付くのです。
低用量ピルは、いまでは進化して、毎月生理様の出血がなくてもいい、120日に一回、すなわち年に3回生理様の出血。それもほんの少量のがあればいいというのもあります。これは、重宝する人が増えています。
今では、ディナゲストという、お薬もあります。これは、OCやLEPと違い、エスロゲンが含まれておらず、黄体ホルモンだけです。これを飲み続けると、まず月経がなくなります。飲み始めには時々不正出血があることがありますが、それまでの月経のように量はありませんし、痛みもありません。その内、それらも止まります。
ある高校生。それまで痛み止めもほとんど効かない(効かない薬だから、効かないのですが。生理痛には、普通の痛み止めでは効かないことがよくあります。子宮を収縮させるブロスタグランディンの働きを抑える痛み止めでないと)。まず効く痛み止めとLEPを処方しましたが、不正出血が続きました。それで、ディナゲストを処方しました。そしたら、劇的に効きました。お母さまが、「こんなに楽になるなんて」と言われます。それまで彼女は度々学校を休んで寝ていなければならなかったのです。もう学校も休まないですむようになりましたと。では、続けましょうね。いつか、妊娠を望むようになったら、やめましょうねと。彼女はすっかり笑顔です。
昔は、生理休暇などで仕事を休んでいました。今は、ポスターにあるように、「生理を休む」なのです。そもそも、中学生や高校生のようなまだまだ妊娠を望まない内に「妊娠に備えて」毎月の生理はなくてもいいのですよ。
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