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兄の文章から⑧おしまい

今回で兄の文章は終わります。兄の文章からの③からご紹介した「陶芸閑話」も今回ですべてです。じつは、以前、兄のホームページが消える前に読んだ文章が、どうしても探せませんでした。それには、ある牧師さんの事が書かれていました。兄と気が合ってた?というか、尊敬する牧師さんがある教会を追われたと。その後その牧師さんが亡くなってしまったようで、兄は「絶対に許さない」と激しく書いていました。私がそれを読んだのは、兄が亡くなった後なので、兄が消してしまったのではありません。兄しかそのホームページの操作はできないはずなので、どこかにあるはずなのですが。またそれが見つかれば、ここにご紹介するかもしれません。

紆余曲折、激しく生きた兄だったと思います。が、陶芸と出会って本当に良かったと思いますし、その心の内にはこんなことを考えていたのだとわかりました。よく家に行っては話をしてきましたが、もっともっと話せばよかったと、それがかなわなくなった今、残念に思います。


6.粘土


粘土とは何か。簡単にいうと何百万年もかかって岩石が風化したものである。


その化学構造や産地による成分などは複雑多様で閑話の素材としてはふさわしくないと思うので触れないことにして、興味のある人には資料を提供しようと思う。


造成地などで粘土が露出しているのを良く見かける。それを少しもらって帰るとオリジナル作品が出来る。


やってみると簡単ではない。石やごみが多くてそのままでは手捻りは何とかなるが、ろくろ成形は無理だ。


それを使えるようにするため通常は水簸(すいひ)という作業をする。粘土を水に溶いて泥水にし、石などを沈殿させ分離した細かい粒子を沈殿させる。これを繰り返すと次第に粒子の細かい粘土が出来る。


この作業は大変なので専門業者が介在することになる。競争原理が働くので研究工夫して特徴のある粘土を製造する。市販されている物が100種類以上ある。


大作では割れやすいもの、水漏れしやすいもの等様々である。


粘土を選択する時、焼きあがりの色などの風合い、粒子の大きさをまず考えるが一番大切な要素は耐火度である。色合いは魅力的だが熱に弱く温度を上げると表面が水膨れの状態になるものもある。


私は遠賀川の川底の粘度を使ってみたことがある。1250度で焼いたところ崩れて床の棚板に流れついてしまった。


魅力があるが合わせ持つ弱点を克服するために、砂やシャモットを混ぜる等の工夫がされる。


何を作るかによって最初に、適した粘土の選択が重要になる。


新宮焼のところで産地について述べたが佐賀県で信楽産の粘土を使っている窯もある。私の教室ではおもに信楽の粘土を使い、物によっては唐津、萩土等も使っている。


信楽は種類も多く生産量も多いから勝手が良い。産地によっては品切れが多く何カ月も待たなければならないものもある。


掘り尽くしてしまって、以前のような美しい発色は難しくなった産地もある。


似たような土を調達して調合していると言われる。土というようなものではなく石をガンガン粉砕している工場にも行ったことがある


7.釉薬


私が使用している釉薬の半分は、長石等の原材料を購入し自分で調合している。


ミカン灰釉、孟宗竹灰釉等は自分で調達している。近くのミカン山で剪定されたミカンの枝葉を燃やしている。その灰をもらって篩にかけ数カ月水につけて、あく抜きをすると自分だけのオリジナルな釉薬が出来る。


素焼をした粘土に水に溶いた釉薬を吸わせると表面に釉薬がつく。本来釉薬は自然発生的なもので、加熱した時に灰がついたもので、ならば初めから灰を付けて焼けば良い。美しく丈夫で肌触りのよいものが出来る。成分を分析し人工的に合成した灰も使われるようになった。


様々な金属等を調合した現代釉薬も市販されている。


窯を持つと釉薬を作りたくなる。自分だけのオリジナルな釉薬が出来るとうれしいものだ。身近かな草木や火山灰などを利用するとマスコミが面白がって取り上げる。


多くは挑戦するものの、釉薬のメーカーでは専門の技術者が、他にはない素晴らしい釉薬を開発するべく日夜努力している。素人が簡単にできる世界ではないことにやってみて気付く。一時の遊びにしかならない。最終的に諦める。


 私の作品には土のぬくもりにこだわって、あえて釉薬を使わないものも少なくない。釉薬を使わないものは評価しない人たちもいるが。


8.窯


昔から使われてきた木材を燃やす窯は、材料の確保や大気汚染の問題、労力等からあまり使われなくなった。年に1回の大量焼成に失敗して倒産した窯元もある。


反面電気、ガス、石油を熱源とする窯の性能が向上した。焼成途中で木材を供給することによって穴窯、上り窯で珍重される灰被りと同じようなものが出来る窯も作られるようになった。電気窯で途中からガスを送り込んで還元焼成の出来るものもある。コンピューター制御で組み込まれたプログラム通りに温度管理をするものも普及してきた。


 以前新しく出来た施設から陶芸指導の要請があった。必要な機材などがすでに用意されていた。窯を見て、これは良くないと懸念を表明した。案の定1回の焼成で崩れてしまった。私は納入した業者に引き取らせて別の販売店から購入させた。得体のしれない業者が格安で売り込みに来ることがある。その販売店は目先の利益のために有望な納入先を失うことになった。


 有名な家電メーカーが小型の電気窯を売り出したことがある。宣伝文句は数時間で高温にできると言うことだった。短時間で温度を上げることは技術的に難しいことではないだろう。それを実行したら作品はどうなるのか。

9.10.11は兄の文章から③に先に載せています。


12.陶芸とは


そもそも陶芸を始める時点で、「陶芸とは何か」などと考える人はいないだろう。物作りに興味のある人は、日常手にする食器等を自分で作ってみたいと思うのがきっかけで始める。世界に一個しかない自分で作った食器に料理を盛る、花器に花をいける。


そして長年楽しく頑張ってきたある日考える。


陶芸って一体何なのか。


実用品は安くて使い勝手の良い物がいくらでも売られている。


以前出張教室であなた方は今、将来陶芸をするための基礎的な勉強をしているのですよと話したことがある。自分は今、陶芸をしていると思っていた人たちは不審な顔をしていた。


陶芸とは何か国語辞典で調べてみると、美しい陶磁器を作る芸術であると要約される。そして芸術とは美を表現する人間の活動とその産物であるとされている。


東日本大震災で被災した人が仮設住宅で繭飾りを作り始めて、心の復興が芽生えてきた例が報道されている。物作り、音楽、スポーツ等で生きる力を与えられるのは珍しくない。陶芸も人に生きる力を与えることが出来るのだ。


先に記したリハビリセンターで、ある日突然手足の麻痺によって思うように生活出来なくなった社会の第一線で活躍していた、地位も名誉も第一級の社長や病院長が、全員片手での作業であったが、何かを作ることが出来た喜びを見てきた。陶芸を通して生きる希望を持つことが出来た。私の陶芸は、土のぬくもりを通して人に癒しを、感動を、問いかけを提供できればよいと思っている。   


     参考文献


陶芸入門  江口 滉  文研出版     


陶芸を学ぶ②  京都造形芸術大学編  角川書店


陶芸の伝統技法  大西政太郎  理工学社


陶芸の釉薬  大西政太郎  理工学社


原色陶器大辞典  加藤唐九郎編  淡交社


土のぬくもり  藤原啓  日本経済新聞社


唐津焼の研究  中里逢庵  河出書房新社


茶道具に親しむ  細川護貞監修  婦人画報社


茶碗の見かた  細川進三  徳間書店


茶碗の見かた  赤沼多佳  主婦の友社


釉から見たやきもの  芳村俊一  工芸出版 

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           3.11  花は咲く

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