再び広島市「平和ノート」について③
教科書ネットの先生たちが、地道に教科書についての分析をしたり、声を上げたりしていらっしゃることは傍から見て知っていましたが。でもここまで熱心に取り組んでいらっしゃるとは。その先生たちの、この度の平和ノートから「はだしのゲン」を削除した問題ついての分析に、目からうろこの思いでいます。確かに、単にはだしのゲンの問題だけでなく、小学校、中学校、高等学校、すべての平和ノートの点検が必要でした。全体を見ると、明らかになっくるのでした。なんの意図なのかと。
教科書ネットの先生たちの長い文章もいただきましたが、ここでは、縮小版をそのままアップさせていただきます。この分析は、まったく正しいと思います。
1.広島の平和教育の大きな財産である『はだしのゲン』をひろしま平和ノートから削除したこと
『はだしのゲン』は、子どもたちがゲンの言動に自分自身を重ねて、戦争や原爆被害の実相や戦争の不条理さを学ぶことができる優れた平和教材である。特に、作者中沢啓治さんの解説や、作品論などの多数の研究書や資料があり、多面的で多角的な学習課題を工夫して提示できる優れた平和教材であり、先人の実践の蓄積がある特別の平和教材だといえる。そういう意味で、広島市教委が『はだしのゲン』を削除したことは、人々に非常に大きなショックを与えた。オンライン署名change.orgに20日間足らずで56000人以上の署名が寄せられたことは削除ショックによるやむにやまれぬ切実な行動だったとも思える。なぜ市教委は「大きな話になると思わず」にゲンを削除したのか、その理由を実証的に考えていく必要がある。
2.改訂会議の合意形成なしに『はだしのゲン』が削除された問題性
2023年2月8日開催の教育委員会会議での事務局の報告は次のようになっている。
「2013年から平和ノートの使用を開始し、2019年に改訂の必要性を検証するために広島市立学校平和教育プログラムと平和ノートの検証会議を開催した。2020年から2年間、検証会議の結果に基づき作業部会で試案を作成し、推進校で試行授業を行い、改訂会議で意見を加えて改訂試案を作った。」
両議事録を読む限りコイや浪曲についての意見はあるが『はだしのゲン』を削除するという合意の記載はないし、差し替え教材の合意の記載もない。しかし、第2回の改訂会議では作業部会からの差し替え教材についての審議が始まっている。
私たちは市教委に作業部会の会議録の開示を求め、作業部会がどのように意思形成を行い、なぜ『はだしのゲン』を差し替えたのかを明らかにしたいと考えている。また、作業部会の権限も明らかにする必要がある。差し替え権限のない組織が、明確な意思形成過程を経ずに『はだしのゲン』を差し替えたのであれば、そこに『はだしのゲン』を削除するなんらかの意思が働いて削除したのではないかという、教育への不当な支配が疑われる問題が生じるからである。
3.削除されたのは『はだしのゲン』だけではなかったことの問題性
ほかにも削除された重要な教材があった。
中学3年で教材「第五福竜丸」が削除されていた。「第五福竜丸」の削除は原水禁世界大会誕生の大きな原動力になった反戦反核の市民運動の意義を削除することにもなる。
高校1年では被爆者である中沢啓治さんのインタビュー記事から被爆体験が削除され、残った部分には中沢さんが原爆をテーマにした漫画を描く理由が短く述べられているだけである。削除された壮絶な被爆体験を読むことで、「…戦争は絶対にしちゃいかん。核兵器を絶対になくしていかなくちゃいけない」という強い思いが伝わるが、削除した記事では反戦反核の強い思いは伝わらない。
『はだしのゲン』「第五福竜丸」「中沢啓治さんの被爆体験」が削除されたことで、平和ノートから反戦反核を願う市民の思いや運動が削除されたとも言える。
4.代わりに差し替えられた主要な教材の問題性
差し替えられた主要な教材は、高校1年教材で美甘章子(みかもあきこ)さんが父進示さんの被爆体験を描いた『8時15分~ヒロシマで生きぬいて許す心』と広島市作成「美甘章子さんインタビュー映像」、中学3年教材での美甘章子さんの言葉と活動の紹介である。
美甘章子さんは現在アメリカで心理療法をする広島の被爆二世である。2020年に『8時15分』が映画化され、2022年8月6日には広島大学のイベントで映画の上映会と舞台挨拶をしている。中学3年の教材には次の言葉がQ&Aとして使われている。
Q父の美甘進示さんからの教え A「戦争ではどの国もひどいことをしていたし、日本も例外ではない。アメリカが悪いのではなく戦争が悪いのであって、立場の違う人たちのことを理解しようとしない、もしくは自分の利益追求に走ってしまう人間の弱さが戦争につながる。どちらが悪いという考え方は全く意味がない」とたびたび説かれ、橋渡しをする人間になるようにと育てられました。 |
原爆を落とした「アメリカやアメリカ人を恨まず許そう」という美甘さん個人の意見を補助説明なく平和学習の結論のように生徒に提示することは適切とは思えない。「悪いのはアメリカ人ではなく、戦争だ」という父の言葉をそのまま受け入れ、戦争の原因や仕組みを考えない美甘さんの抽象的な意見も適切な教材とは思えない。なぜなら平和教育は、事実を知ることを通して、戦争の原因や仕組み、非暴力による解決方法などを考え、戦争による「解決」を否定し、核兵器を非人道的な兵器としてその廃絶をめざす学習を進める教育であり、戦争の責任の問題を考えていく力を育てる教育であると私たちは考えるからである。平和教育のこのような性格は、日本国憲法の精神(平和主義など)に基づくものでもある。
この本『8時15分』は高校1年で教材に使用されている。そのあとがきに美甘章子さんは「共感と許す心こそが自分の感情の奴隷となることなく、より自由な物事の捉え方をすることができる」「どれだけ辛い目に遭ったか、どんなに不公平な出来事だったか、どんなにひどい扱いを受けたかについてじっと念じ続けてとらわれている状態から自らを解放できると、その分、自己成長と癒しのためのエネルギーと心の余裕が作り出せる」と主張している。心理学者としての主張が誤っているわけではないとしても、被爆者や被爆者と共に生きる人たちに対して共感と許す心を持つことが、平和を築くために必要な事実を学ぶ意欲を育てるとは思えない。
さらに、「あの戦争で敵同士であった二つの国が、今は最強のパートナーとしての協力体制により、平和と協調が確立されたことを世界の人々に語りかけ」たいとも述べている。このあとがきは教材にはなっていないが、広島市教委は、日本はアメリカを「許し」「共感」して日米で平和をつくろうという美甘さんの主張を平和ノートのまとめのように位置づけている。この主張は必然的に核の傘の下の日米安全保障体制の肯定につながるので、広島の平和教育の目標である核廃絶とは異質なものだと思える。市教委が美甘さんの主張を是認するのであれば、広島の平和教育の方向が大きく変質したといわざるを得ない。
以上です。
今日のテーマにふさわしくないのですが。一昨日の日曜日の午後は、カープ。誕生日を迎えたわが友、「8.6ヒロシマ平和の夕べ」の大切なスタッフと一緒に行きました。負けたので試合については言わない。この私がかぶっている帽子。ひっくり返すとこのようにお好み焼きになります。エコバッグと同じ仕組みです。「この帽子はお好み焼きなの」というと、はあ?先生、何を言ってるの?とわけがわからない風でしたが、変身させると、とても感激して下さいましたよ。お好み焼きにした表と裏も、アップしますね。
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