緊急避妊薬のOTC化に反対します。続きです。
ある日、性風俗で働いている若い女性が来院しました。まだ新人で慣れていない時に、客に強引に本番をされてしまったと、泣き顔でした。それは大変。もちろん、緊急避妊薬をお出しして、すぐに飲んでもらいました。私は、必ず面前で内服してもらいます。そして、これからはちゃんとピルを飲んで予防をしましょうとお話ししました。すると、そこにその風俗の経営者から電話がかかってきました。
「その子に沢山薬を出してくれ」と。それはできません。あらかじめ渡しておくということは禁止です。あくまでも、緊急避難としてある薬です。今後、危険なことが予想できて、そのために渡しておくということをする薬ではありません。私はできないと言いました。そしたら、怒鳴られました。「その度に取りに行くのは手間だろう。渡しておけばいいんだ。つべこべ言わないで渡せ」彼女の心身に対する配慮等、まったくありません。そもそも本番がないといわれて、この世界に入ったのに。話が違うと彼女は泣きます。結局これからはピルを飲むことにして、緊急避妊薬をあらかじめ沢山渡すということはしませんでした。やはり怒鳴られると怖くて、経営者の話を突っぱねるのには、勇気がいりました。
これは、私のところでの半年の間に受診に来た風俗で働く女性たちのデータです。
風俗で働く女性たちの体や命の尊厳を守る、例えば危機があった時の回避を逃れるシステムやトレーニング等は全くなされていません。避妊は確実なピルで、性感染症の予防はコンドームで、というような配慮もされていません。
おそらく、緊急避妊薬がOTC化されると、もっとも喜ぶのは、風俗の経営者だろうなあと私は本気でそう思います。
OTC化を望む人たちは、女性の体は、自分で守ると言われるのでしょう。欧米では、自分で買うことができるのにと。でも、欧米と日本では、まったく事情が異なります。
だって、日本では欧米で行われているような性教育ができていません。そもそも、中学校でも、性交や避妊は教えられないという、「教えると、したがるから」というような、こんな陳腐な文科省なのですよ。15歳、中三でも、性交も避妊も教えられない、でも、性犯罪の法律が定めている性の自立は「13才」という、こんな矛盾した状況で、若者たちがどこで性を学んでいるのでしょうか。OTC化の前に、なぜ、もっと性教育をちゃんとしろと言ってくれないのでしょうか。いえ、私はちゃんと学校に出かけて子どもたちに性教育を教えているという人、それは私もそうなのですが、でも、国全体からみると、そんな教育が受けられたのはとてもラッキーなほんの一部の子どもたちなのです。まだまだ文科省の歯止め規定を気にする地方の教育委員会や管理職がほとんどであると言っていいでしょう。
性は生殖。もしもまだ妊娠しても産めない状況であるのなら、ちゃんと避妊をしなければならない、こんなことがちゃんと教えられていない、学んでいない若者たち。特に、男たち。
私は、そんな状況で緊急避妊を求めて駆け込んで来る人たちに、それらを伝えられるチャンスだと思っています。もしもOTC化されて、薬局で自由に緊急避妊薬が売られるようになると、喜ぶのは、男たち。「あとで薬を飲めばいいじゃないか、生でやっても大丈夫」と、今でも言っている男たちをそれこそ野放しにしてしまう。そんな若者たちに、薬局のカウンターで「コンドームはこう使わないといけない」とか、ピルを飲みましょう」とか、そんな指導をして下さるのでしょうか。風俗の経営者が沢山よこせと言って来た時に、体を張ってでも、拒否して下さるのでしょうか。
それらの回答がない限り、私はOTC化には反対します。性教育がちゃんとできるようになった時こそ、私は喜んでOTC化に賛成するでしょう。でも、その時は、イギリスのように、産婦人科なり、保健センターなりで指導と共に処方する緊急避妊薬は無料で。薬局では教育がセットされないので少し高く。そしてもちろんその時には、ピルも無料で手に入るし、もっと他の国々で採用されている様々な避妊法も解禁されているでしょうね。
そして、そんなあたり前の国になることを阻んできたのは、統一教会を中心とする宗教右派と、それらに依存した政治家たちであると、最後に私は、はっきりと言っておきますね。
『河野美代子からだの相談室』
ここをクリックすると私の体の相談室と著書の販売があります。
ぜひ覗いてみて下さい。
| 固定リンク
コメント