伊方原発運転差止広島裁判・切明さんの陳述
先日の伊方原発運転差止広島裁判の口頭弁論での切明千枝子さんの陳述書が広島裁判のホームページに公開されましたので、ここにもそれを転載させて頂きます。
字が小さくなってよみにくいかもしれません。本分の部分だけ写真でなく転載します。
本日は貴重な意見陳述の機会を与えてくださり、心から御礼申し上げます。私は切 明千枝子と申します。今年93歳になります。
私が原爆に遭ったのは、広島県立第二高等女学校4年生の時、15歳でした。動員 先の専売局注 1から、先生の許可をいただいて、病院に行く途中、比治山橋(注 2)のたもと でした。ピカッと光って、私は叩きつけられ、気がつくとガレキの下でした。なんと か這い出して、広島市内の方を見るともう一面火の海でした。申し上げたいことは沢 山ありますが、2つのことだけ申し上げます。
ひとつは雑魚場町(注 3) で建物疎開の作業をしていた一人の下級生のことです。建物疎 開組は爆心地から近いこともあって全滅でした。一人だけ奇跡的に助かったのです。 この人は戦後結婚し、子どもも設けましたが、37歳で亡くなりました。直接には胃 がんでしたが、わかったときには全身にがんが広がっていたそうです。原爆には生き 残ったが、放射能の魔の手からは、逃れられませんでした。
もう一つは温子(たずこ)ちゃんと澄子(すみこ)ちゃんのことです。2人は母の実 家の、私のいとこです。年も近く仲良しでした。2人の父親は日銀広島支店に勤務し ていましたが、遺体も見つかっていません。母親は建物疎開ででていました。これも どこでなくなったかもわかりません。もう一人長女がいましたが、彼女の遺体もわか りません。たずこちゃんとすみこちゃんの2人だけが舟入(注4)の家の中にいて助かった のです。
2人は下着姿で宇品(注 5) にあった私の家に逃げてきました。傷一つない綺麗な体でし た。家に着くとすぐ寝込んでしまいました。2日くらいしたら血便を出し始めました。 母は、当時誰も放射能のことは知りませんでしたので、赤痢にかかったと思い、私は 2人に近寄ることさえ許されませんでした。高熱が出て、「水、水」と水を欲しがりま した。体に斑も出てきたそうです。1週間くらいしてでしょうか、2人は亡くなりま した。お棺がないので、桐のタンスの引き出しに遺体をいれて、宇品の翠町(注 6) の桜土 手の、その堤の根元付近で2人を焼きました。
裁判長、放射能は恐ろしいものです。 福島原発事故が起こったとき、夫(悟【さとる】氏)がすぐ「山田に電話せい!」と いうので電話しました。山田さんというのは元福島大学学長の山田 舜(あきら)(注7)さ んのことです。夫とは「さーちゃん」「しゅんちゃん」の間柄の幼なじみでした。山田 さんは「放射能というのは目にみえんし、ここらにもとんできとるかもわかりゃせん のだけども、おれは原爆のことがいやで福島まできたのに、また放射能にやられるか と思うと腹が立って腹が立って地団駄をふみたくなる。」といっておられました。また 山田さんは、「あちこちにできとるんだろうが、原発は人間が作っちゃいかんものだ。」 ともいっておられました。
裁判長、私は、やっぱり原子力なんて、ましてや核兵器なんて人間がいじってはい けないものだと思います。生命(いのち)にどんな恐ろしいものをもたらすか。人間が 核や原子力を制御できると思っているのか、事故が起きたらどうするのか。実際ある 資料(「国際原子力事象評価尺度」(注 8))によると、60年あまりの間に7回、チェルノブ イリ原発事故や福島原発事故を含めて、放射能を大量に出す事故が世界のどこかで起 きているというではありませんか。人間が制御できるものではございません。
伊方原発は船から見たことがあります。「あれが伊方原発だ」と人から教えられて初 めて気がつきました。海岸にへばりついているような原発で、事故でもおきて倒れて きたら瀬戸内海は全滅すると思いました。なんであんなところに原発なんか建てたん だろう、と腹立たしい思いをしたことを憶えております。
私は年もとり、もうたいしたこともできません。が、このお話しをいただいた時、 すぐに原告になることを決めました。それが私にできることだったからです。
裁判長、今回裁判では、賢明なるご判断の上、伊方原発の運転差止を是非とも命じ ていただきたいと思います。 ご静聴ありがとうございました。
(転載ここまでです。)
こうして過酷な人生を生き抜いてこられた被爆者の方たちが、命を振り絞るようにして陳述して下さることに頭が下がります。放射能の怖さを心底体験していらっしゃるからこそですね。もしも原発の事故が起きた時には、その放出される放射能が、どれだけ人体に悪影響を及ぼすことでしょう。その上、もしも原発にミサイルでも飛んで来た時のこと考えると、身震いするほど怖いものがあります。
切明様、本当にありがとうございました。お体のお早い回復を祈念しております。
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