性暴力の被害に遭うということ③薬物を用いた犯罪
詩織さんが受けたような、どう考えても、何か薬物を飲まされたのに違いない、意識がない間にレイプされたという被害は、私の現場でも、実はとても多いのですね。
カラオケでアルコールではないのだけれど、飲み物を飲んで、意識がなくなったという人。その人はそのままカラオケの部屋で被害に遭いました。
新幹線の中で隣に座った人にとコーヒーをどうぞと差し出され、飲んだところ、意識がなくなって気づいたときにはホテルにいたという人。その人は、バッグからお金も無くなっていました。
合コンでいつの間にか意識がなくなり、気づいたときにはホテルにいたという人も。この人は、翌日すぐに来院されたので、傷ついたところをちゃんと診察することができました。合コンの相手も分かっているので、警察に行くことをお勧めしましたが。
スナックで気分が悪くなってトイレに立って、それっきりトイレから帰って来なかったという人もいます。その前に「あちらのお客さんからです」と飲み物をプレゼントされ、それを飲んでいました。荷物も置いたまま、どこかに連れていかれていたと。
この日本の社会は安全な社会だと思われていますが、実は、知られないところで犯罪は沢山起こっているのです。
こんな事件の加害者は、特別なお薬を手に入れて使うのではなく、日ごろ使われている睡眠導入剤や安定剤でも、十分に犯行を犯すことができるのです。具体的には、薬の名前はここでは出しませんが。自分が使うからと病院で薬を処方してもらい、それを飲み物に入れる、それでもう飲んだ人は、眠り込んでしまいます。
もしも、薬を飲まされたのではと思うときには、できるだけ早く来てほしいのです。当院でも、睡眠薬や覚せい剤、抗うつ剤、モルヒネなどを尿から検出できるキットを用意しています。10分以内に結果が出ます。念のため、その尿も冷凍しておけば、証拠として保存できる可能性があります。
一度、麻薬の反応が出て、ビックりしたことがありました。患者さんになにかお薬を飲んでいないか、よーく思い出してもらったら、その数日前に咳止めを飲んでいたということが分かって一見落着したこともあります。
また、時間がたった場合、ひと月以内なら、髪の毛から薬物が検出できるそうです。髪の毛からとなると、私のようなクリニックでは無理ですが、犯罪の捜査ということで、鑑識でやっているとのことです。
ただ、私が悲しいのは、そのような「物質的な証拠」がないと、被害者の供述だけでは起訴されなかったり、裁判になっても有罪にされないという事実です。密室で起きる犯罪ですから、物的証拠はなかなか難しいのですが。それに、自分に起こったことのあまりの事実をとらえきれなくて、病院に行くなどの行動をとるのに、時間がかかることもあります。供述だけでも、状況証拠をきちんととらえたり、被害者の訴えをしっかり聞いて、この供述は信頼できるか否か、それをちゃんと判断してほしいのですね。
そうでないと、今回の詩織さんの事件や、私がかかわった事件の犯人は、決して罰することができないということが、続くでしょう。性犯罪の法的な対応が日本は40年も欧米に遅れているというこの事実をかみしめています。
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コメント
すごく不愉快で不公平な事件に合われた詩織さんのお気持ちを察します。息子の保育園の園長に不満をいったら迷惑だからやめてくれ、やめないのだったら業務妨害でうったえると被害届を出されそうになりました。誰かの口をふさぐ世の中になってしまいましたね。怒りを沈めながらも園長は金儲けをするために保育園を株式会社にして園児と親をを選別しています。自分たちに都合のよい親と園児ばかりあつめてます。
投稿: 愛ちゃん | 2017年10月 2日 (月) 16時34分
科学捜査の発展に尽くしてきた東京都で我が父親の苦労はそういうことだったのかとおもうとびっくり致します。もっと柔軟な科学捜査の適用がなさればと感じた。
投稿: 愛ちゃん | 2017年10月 3日 (火) 13時07分