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緩和ケア医先生へ。

 緩和ケア医さま

 先生の在宅医療に対しての真摯で献身的なお仕事ぶり。常々尊敬申し上げています。私の身内の治療にも、大変お世話になりました。

 それらをふまえた上で、この度、先生の4月15日のブログ への反論を書かせて戴きます。コメント欄に書こうしたのですが、あまりに膨大になりますので。このことで、先生との関係が悪化することがありませんように、それを望みながらそれでもあえて書かせて戴きます。

 先生は、4月14日のNHKの「プロフェッショナル」を見られましたでしょうか。胃癌の手術をはじめとする治療に取り組む名外科医のルポでした。他のドクターから治療が不可能と言われた方たちが沢山来られ、その方たちへの精一杯の治療をなさる、その姿に大きな感動を覚えました。

 中でも、私が一番心打たれたのは、ある亡くなった患者さんの妻からのお手紙でした。それを読んで、先生は、激しく泣かれました。

 もう、抗がん剤もできません。後は、悔いのないように余生を充実して生きて下さいと言い渡した患者さんです。その方が亡くなった後、妻からの手紙には、先生にそう宣告された後、その方は、先生に内緒であるワクチンをうっていたと。慣れない妻に注射をしてくれるように懇願し、わらにもすがる思いで、そのワクチンにすがっていたと。こんなことは、とても恥ずかしくて先生には言えませんでした、と。でも、治療が無いと宣言された患者がどんな気持ちになるのか、それを知って戴きたくてこの手紙を書いたと。

 私は、今回の先生のブログは、「胃癌の減量手術は無効」という論文の紹介でした。しかし、その論文はそれだけで、それ以下でも以上でもありません。あくまでも「胃癌の減量手術は無効」であるだけです。

 でも、先生はそれに続いて、一般論として言うと、「癌が大きい(=癌細胞が多い)と効きません。抗がん剤は、癌細胞の少ない段階(=癌が小さい段階)で効果が期待できる治療法です。」と書かれ、しかも

「治療は望めず延命効果を期待しての治療となります」とまで書かれています。

 それは、あまりにも現在のがん治療の世界をご存じない、言い過ぎではないでしょうか。

 医療の進歩、がん治療の進歩は、目覚ましい物があります。そして、抗がん剤が劇的に効く癌もあるということをご存じの上での言葉なのでしょうか。

 私の分野、婦人科での卵巣がんがその例です。卵巣がんは、シスプラチン、カルポプラチンなどのプラチナ製剤が劇的に効きます。それにタキソールなどの他の抗がん剤を組み合わせることで、治療の成績がものすごいというほど上がってきています。

 私が臨床の場で出会う、とても進行した卵巣がんの方は、その化学療法をどれだけ頑張って治療して下さるか、それを知った上で、患者さんを紹介します。時には、それが県外の場合もあります。通うのがしんどくても、生きるために、それだけの意味がある場合もあるからです。病院によって治療成績が大きく差があるのも事実ですから。

 そして、大切なことは、Ⅲc期やⅣ期の方は、まず抗がん剤で治療をする場合がほとんどです。腫瘍が大きく、腹水がバンバンにたまっている方でも、抗がん剤の治療で腹水は引き、癌腫も小さくなり、それから根治手術をする、それによって、回復するのです。

 同様の治療は、乳がんでも行われます。

 決して癌が大きいと「抗がん剤は効かない」ではないのです。大きくとも、進行していようとも、抗がん剤は効く!医療はそんな所まで来ているのです。

 私は、私が医師になったころには、かわいそうに、半年の命だね、と言っていたのと同じような人が、今では10年生きている姿を見ています。

 ありがとうございました、治療は全部すみました。抗がん剤で治療して、手術して、それに追加の抗がん剤を行って、すっかり元気になりました。今は、どこにも癌は無いと言われました、と、電話をかけて来られる方も、一人や二人ではありません。それは決して一部の例外的なことではなく、それが治療のガイドラインとなり、世界的に行われている一般的な治療となっています。腹水もたまり、腹腔内を癌腫が占めているようなⅢc期の治療成績、10年生存率はいまや50%にもなっています。

 しかし、今、こまった事態が起きています。「抗がん剤は効かない」「医者に殺されるな」という近藤誠氏の論で、抗がん剤の治療を拒否する方が出ているということです。データーを示して、一生懸命お話ししますが、抗がん剤は「悪」「副作用で苦しいだけ」という刷り込みが強い場合は、説得をあきらめることもあります。

 一方、さきほどのプロフェッショナルで出てきた場合のように、治療法がないと医師に宣告されることが、どれだけ残酷なことであるか。私ごとですが。夫が31才、私が30才、子どもたちが2才と3才の時に彼は進行した胃癌にかかりました。とても進行していたので、先生たちからは、無理です、とはっきり言われました。手術も広範囲でした。リンパ節にも行っていたし、胃は全摘、脾臓も肝臓の一部もごっそり取って戴きました。当時はまだ患者本人には告知しない時代です。私は、希望を持って頑張ります、といいましたが、ドクターは首を振られました。
 その後の抗がん剤の治療、栄養剤と消化剤と言って出された薬を私は飲んで欲しくて、ほしくて。その薬を飲ませることが私の彼の治療を支える大きなよりどころでした。基本的には、いい手術をしていただいたと思います。そして、無理と言われた夫が生きたことも事実なのですね。

 お話ししたいことは沢山あります。

 私が心配するのは、今回の先生のブログが「がん検診を受けましょう」「早期発見をしましょう」という方向に集約されていますが、それでも、今、現に治療をしている患者さんたちを傷つけてはいないか、ということなのです。「あきらめない」。もしかして、明日、効果のある抗がん剤が発表されるかもしれない、そんな切ない思いを持って病と闘っている方たちも沢山いるということを私たちは常に忘れてはならないと思います。

 先生には、失礼なことをしたかもしれませんが。私の意をお汲み取り戴ければ幸いです。

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コメント

河野美代子先生の産婦人科の領域におけるがんについての篤い情熱を他の診療科の先生に伝える情熱は素晴らしいです。一昨日からNHKの番組を拝見しながら河野美代子先生のブログを見て思うと、風俗業界で働く現場の実態と昨日のNHKの十代のアスリートと指導者の無月経でも良い成績を残したいっていう現場や今自分が職場や組合から喰らってる仕打ちをみると、やっぱり性教育や産婦人科領域からの労働安全衛星やアスリートを産婦人科領域から支える下地をつくる意味って重要ではないでしょうか、すごく昨日のNHKの番組をみてないてしまいした。女性が無月経でもかまわないというのはたいした命の軽視や女性が生むなというアプローチにつながり強いては日本が疲弊している根幹なのではと考えてます。先生の今日のブログをみて元気がでて、治療頑張ってみたいです。増田あけみさんの十代の頃から記録がほしくて無月経で排卵障害をおこして 良い卵がなかったという意味に近い発言を見るにつけ、早く日本がきちんと誰でも未来型の性教育や知識をもち人生について考える社会を作ろうと声かけられる社会にしなければと感じます。色々なところで女性の性が無視されてるからこそ河野美代子先生みたいな先生も必要です。明日も卵巣チェックのため受診と採血です、今度こそ成功したいとおもっているこそ、先生のブログをみて元気がでて、感動しました、先生の正義の道を貫いてください。

投稿: 愛ちゃん | 2014年4月16日 (水) 10時02分

河野先生にも緩和ケア医先生にも,いつもいろいろな情報やお考えをお聞かせいただき,感謝の気持ちで一杯です。

投稿: | 2014年4月16日 (水) 20時01分

はじめまして、昨年婦人科系の癌の手術をした者です。
ちょっと稀な癌のため(詳細は省略させていただきます)、いわゆるガイドライン的なものがなかったのですが、先生方と相談の上、まずは手術を受けました。
病理診断の結果、断端陽性?のため追加で放射線治療と抗がん剤治療も行い、現在は特に問題なく経過観察となっております。
しかし、身内は乳がん(腫瘍の大きさは3cmほど)の治療の時に、まずは抗がん剤で腫瘍を小さくしてから手術となりました。その結果、こちらも経過観察中となっております。
他にも、Ⅲ期でリンパ節に転移などもあったのに、抗がん剤と放射線でほとんどの腫瘍が消滅したいう知人もいます。
色々な考え方があるのは承知しておりますが、「大きな腫瘍等に対しては、抗がん剤の効果は期待できない」との記事には、本当にショックを受けました。
できることなら、記事の訂正をお願いしたいです。

投稿: がん患者 | 2014年4月17日 (木) 12時30分

何年もブログを読ませていただいていますが,初めてコメントします。
がん患者の家族だった者です。4年の闘病の末亡くなりました。
私の家族も,NHKの番組の妻の手紙にあるように,医師に「抗がん剤も期待できない。有効な治療がない。」と言われた後は,ありとあらゆる民間療法に走りました。まじないや,詐欺まがいと分かっていても,何もせずにはおれないのです。
真っ暗闇の中で,嘘でも「治る」「良くなる」と言ってくれる人が,一筋の光なのです。
家族で医療従事者でもある私は,民間療法をバカにする医師と,死に物狂いで民間療法を続ける本人との間でとても苦しみました。
「死を受け入れて,穏やかに最期を過ごす,,,」理想ですが,果たして何割の末期患者がそう出来るのでしょう。
今でも,どうしてあげれば良かったのか,何をすれば「死を受け入れて穏やかに」してもらえたのか,分からないでいます。
原因も分からず,早期発見の難しい癌でした。
河野先生が,癌患者の切ない思いを良く分かってくださっていてうれしかったです。
緩和ケア医先生のブログもいつも読ませていただいており「近くにあれば相談に伺えたのに,,,」と思っています。
お二人の関係が悪化することがありませんように心からお祈りいたします。

投稿: アプリコット | 2014年4月17日 (木) 15時02分

先生のブログと緩和ケ医さんのブログを両方読んでいます。
今回の件は、お二人の医師としての、立ち位置がちょっと違うように思いました。
先生の訴えたいことも理解できますし、緩和ケア医さんが伝えたいことも理解できます。
たんに、いち記事でなく、これまでのブログの内容の流れからです。
癌患者にとって、両方の情報は、特に末期がんの患者とその家族にとって、とても大切な情報だと思います。
期待を持つのは大切なことですね。でも過剰な期待はどうなんだろうとも思います。

投稿: やんじ | 2014年4月17日 (木) 17時35分

河野先生の思いに感服いたします。
また緩和ケア医先生なら真意をわかっていただけるはず、という信頼も伝わってくる文章だと私は思いました。

患者さん毎に様々な状況がありますし、考えもつかないようなこともあると思います。
私も含め医療者全員にいえることですが、考え付く限り配慮のある対応をするよう心がけたいですね。

大変勉強になりました!

今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

投稿: 橋本クリニック | 2014年4月17日 (木) 18時30分

「がん患者となりました。」というブログに「がん患者と主治医との間のコミュニケーションが何故うまくいかないか」ということが書いてありました。参考まで

http://ameblo.jp/gantoissho/entry-11825667860.html

投稿: クリ | 2014年4月18日 (金) 13時30分

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