「貧困・家族」について⑦誰か向き合ってくれる人。
そろそろこのシリーズも終りになります。「貧困・家族」というくくりでお話ししましたが、貧しい人は、みんな何もできないのかとか、家族がいない人はみんな貧しいし生きるのが困難なのかとか、いろいろと反論があるでしょう。
私も書きながら、ずっと考えて来ました。
はだしのゲンの中沢啓治さんが、おっしゃったことがあります。被爆後の広島では、家族が原爆で殺され、身よりが亡くなった少年少女たちが、駅前で靴磨きなどをしながら、日々食べることに必死でした。食べるためにはなんでもしなければ生きられなかった時代です。中には、やくざの下請けのような仕事に組み込まれ、命を落とす子どももいました。身よりのない子どもこそ、使いやすかったのです。
そんな時、原爆で父親と姉弟を殺された中沢さんは、「おふくろが生きていてくれたからこそ」と、しみじみおっしゃいました。そうでなかったら、私もどうなったか分からないと。
誰か一人でいい。自分のことをしっかり見つめてくれて、そして生き様を支えてくれる人がいたら。その人は親でなくともいいのです。
ある少女がいます。16才。生きるのに大変だった少女。ずいぶんいろいろとありました。16才にしては十分すぎるほど苦労しました。親も彼女の居場所が分からないくらい、一人で生きざるを得なかった彼女です。その少女が妊娠して、そして考えたあげく、やはり中絶をとなりました。相手は18才。誰がみても、まだ子育ては無理ではないかと思うカップルです。
そして、中絶の前処置をする日。彼女から電話がかかりました。
「先生、やっぱりおろせんわ。めっちゃ泣かれた」と。「とにかく、来なさい、おろすのをやめて産むんだったら、しなければならないことが一杯あるからね」
で、程なく来た彼女に話を聴きました。18才の彼は懸命に働いています。その彼が、中絶することを話すと、
「おれがお前と赤ん坊のためにこれだけ一生懸命働いているのに、それが分からんのか」
とはげしく泣いたというのです。これだけ彼女と向き合い、必死で訴えてくれた人は彼女にとって初めてではないでしょうか。結局、彼女は中絶することをやめ、二人で働きながら生活しました。彼は、朝4時に出勤すると。彼女は2時に起きて、お弁当を作ると。彼女も夕方から居酒屋で働きました。彼女は過労で足がむくんでしまうほどでしたが、元気な女の子を産みました。
もちろん、若い二人が子どもを育てるのには、大変でしょう。ずっとずっと子育てをしなければならない、誰か大人が見守ってあげないと、と思います。今、断絶していた母との関係も改善しつつあります。
18才の少年がそうだったように、向き合ってくれる人、見守ってくれる人は誰でもいいのです。親でなくとも、祖父母でも、または福祉の関係の人でも、だれでも。しっかり見てくれている人がいるかどうかで、若い人は生きることができる、そう感じています。
最後に。今、日本はこんな社会ですが。取り上げた毎日新聞のシリーズを書いた記者さん、それから永山則夫の番組を作ったNHKのディレクターさん、それから昨日後編が放映されたNHKのドラマ「足尾から来た女」(今でも、こんなドラマができるんだと大きな感動でした)などなど、まだまだ良心的なメディアの人たちが沢山いることも救いであると思っています。
読んで下さってありがとうございました。少し休憩してまたシリーズを書きたいと思います。
(前回の入学金が払えず大学に入学できなかった少女についてですが。母親は、働きながら彼女とまだ下に二人の子、計三人の子を育てています。母子家庭の収入で、三人の子を育てるのは、それは大変なことです。母親に言及したご意見を戴いていますが、傷つく人がいるかもしれませんので、アップはしていません。大学の入学は贅沢だというご意見も同じくです。そう、大学に行く人、行かない人も沢山います。でも、彼女がそれを望んだ、でも、「お金」の都合で叶わなかったということが残念なのですね。)
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コメント
大学進学がかなわなかった少女のお母様に伝えたいのですが、下にまだお子様がいるのに、養育費をきちんと払ってもらってない可能性もあるのでは、もしかしたら過去にさかのぼったら養育費を請求できるし、ましてや口約束にしろ大学進学の費用は払うと約束したのだから父親のお給料を差し押さえたり財産を差し押さえたりしたほうがよいのではとおもいます。今すぐ弁護士にした方がよいのではとおもいます。大学進学の費用だって養育費用なのだからきちんと出してほしい。女の子は大学進学するしないでは実は配偶者の質が違う、配偶者をこちらから選べる利点こそ女の子には教えてほしいとおもいます。母子家庭の女の子には大学進学は贅沢だというのであれば女の子の進学の意味をまるでわかってないとおもいます。配偶者をこちらから選べる、大学進学だけで離婚したときもすぐ就職できるからこそさせるべきだとおもいます。また、十代で赤ちゃんを迎えた夫婦の暖かさやそれを支えたまわりの暖かさは頭が下がります。本当に出産を決意させた旦那様の泣き付きかたはえらい、拍手です。そういう男性が本当に増えてほしい。本当に大学進学をあきらめさせた父親は寂しい人生を歩むなとおもいます。本当になんとかして検事になってほしい。
投稿: 愛ちゃん | 2014年1月26日 (日) 11時35分
少しずれますゴメンナサイ。私の知り合いに中学高校とパーフェクトに1位。
高校在学中の全国模試もいつも500番くらいでした。しかし父親が
「女が賢くなったら生意気で嫁の貰いてが無くなる」と大学へ行かせないと
担任や校長が何回も「我高始まって以来の成績なので何処でも受かるから
是非大学を受けさせてくれ」「いや女が偉いのはいけん」と・・結局
彼女は大手のメーカーに事務員として就職しました。私が「親の悪口」を言うと
彼女は「ええんよ。お父ちゃんの言う通りかもっしれんけえ」とニコニコしてた。
このお父さん、酒を一緒に飲むたびに「娘に悪いことをした」と泣いていました。
きっと、車を買うからと言った父親もいつか後悔してくれないでしょうかね?
それを願います。
投稿: ⑦パパ | 2014年1月26日 (日) 13時43分