ストリップ嬢の涙。
その昔、私がまだ大学病院の医局で安い給料で働いていたころ。ある町の小さな開業医さんでアルバイトをしていました。そこは、産婦人科も内科も小児科も外科もなんでもする町医者です。
そこの近くにストリップ劇場がありました。まだ今のような風俗もなく、ソープランドはトルコ風呂と呼ばれているような頃でした。ストリップ劇場は大人気で盛況だと聞きました。
ある日、そこのストリップ劇場で働いている人の人工中絶がありました。ふつうに中絶の手術をし、帰る前の診察をしていると、
「先生、ガーゼ、いっぱい入れておいて」
と彼女が言いました。えっ?と驚きました。その後すぐに舞台に立つと。出血しないようにガーゼを入れておいてということなのです。言う通りにした後で話しまた。
「今日、もう踊るの?休んでいた方がいいよ。」
と言ったものの、今日の舞台はもう決まっていて、それに穴をあけることはできないと言います。
「そう、大変じゃねえ。厳しいね。」
と言ったら、彼女はじっと私を見て、ポロッと涙を一つこぼしました。
まだピルなんてない時代です。彼女に何があって、誰との間の妊娠なのか、そんなことは全然わかりませんし、聞くこともしません。
分かっていることは、彼女は産んでも育てられない妊娠をしてしまい、仕事に穴をあけないように、仕事の隙間を縫うようにして、人工中絶を受けなければならなかった、その日もまた裸を晒して仕事をしなければならなかったということだけです。
もう30年以上経った今でも、あの時の彼女の涙はずっと私の脳裏あります。
中絶したその日にガーゼをいっぱい入れて、踊ったであろう彼女のことを、単にプロ意識と言うつもりはありません。ただ「女は悲しい」と思います。
男と女の行為で妊娠しても、その結果を背負うのは女なのだと、男が内診台に上がるわけではない、男が痛い思いをするわけではない、全て女性が引き受けなければならないことなのだと、それが言いたくて、28年前に「さらば、悲しみの性」も書いたのですが・・・。
あのストリップ嬢の相手の男性は、彼女がそんなしんどいことをしているということを、きっと知らないままだったのだろうなと思います。
昨夜、別府の我が家まで来ました。姉と妹と一緒です。徳山から竹田津まで周防灘フェリーに乗りました。そしたら、大しけですさまじい揺れでした。ドーン、ドーンと波も打ち付けて、窓ガラスにぶつかります。怖くて。これなら陸をずっと走ればよかったと後悔しました。
乗用車は私たちだけ。後はトラックだけです。トラックの運転手さんはトラックで休まれたのでしょう。客室は私たち三人のみでした。普通なら、喜んで一人一室で寝転ぶのでしょうが、揺れでそれどころではなく、疲れました。 途中の下松サービスエリアで朝ごはん用にパンを買いました。私が買ったサンタさんとトナカイのパンです。これとリースのパンも買ったのですが、食べてしまいました。通りすがりにいつもここでパンを買います。
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コメント
わたしはこういった話を聞くたびに、相手の男が死んだら、絶対に女に生まれ変わって同じような境遇に遭う運命にあるのではないかと思います。
それを自分でどのように生きていくかの選択肢はあるとしても、何人もの女の人生をめちゃくちゃにして生きたのなら次の人生に望みはナイのではないかと。。
やはり、生まれた環境に幸不幸はありますよね。それを親や環境のせいにせずに努力して生きたなら、きっと救われる道はあると思うし、すべてをネガティブにとらえて暮らすようにはならないのではないかと思うのです。
最近DVでの離婚が増えて、貧困の片親家庭が増えたという報道がありました。幼い子供を抱えて朝晩働いて収入は10万くらいしかないとか・・・暮らせるわけがないです。でもDVで逃げていては生活保護の申請もできないとか。
宗教的にどうこうはないのですが、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』と宮沢賢治の『雨ニモマケズ』を読んで、また、さらに感じたことです。
女が損って思いたくないですから・・・
投稿: ふぁん | 2013年12月12日 (木) 20時23分
女性の悲しくも強い姿を感じました。
よいお話とは言えませんが,感動的なお話です。
投稿: もみじ日記 | 2013年12月12日 (木) 21時26分
初めまして。25歳のOLです。中学生の頃、父に手渡されたのが、先生の『さらば、悲しみの性』でした。父は、結婚前に先生のご講演を聴かせて頂いたそうです。
中学生ながらに、リスクを背負うのは女性なんだな、と思いながら読んだのを覚えています。学校では教わらないことばかりでした。
当時は少なからずショックも受けましたが、大切なことを教えて頂いたこと、先生と父に感謝しています。
投稿: みっちゃん | 2013年12月13日 (金) 22時55分