岸恵子さんの素敵なエビソード
一泊二日で大分に行って来ました。行きも帰りも関門大橋の修理のための大渋滞でつらい思いをしました。帰りは渋滞が分かっていましたが、高速道から下に降りて関門トンネルを通るのもややこしいし、そのまま行こうという夫の意見に従いました。帰りは午後4時15分に家を発って到着が11時45分。7時間半もかかってしまいました。
車の中では、録音してある音楽を聞いたり歌ったり、韓国語のスピードラーニングを聞いたり。そして夫が寝ている時を除いて話をしたり。
行きのいいお天気の、何とかまだ残っている紅葉の景色を見ていて、先日読んだ岸恵子の「私の人生ア・ラ・カルト」の中の一つのエピソードを夫に話しました。とても楽しい話なので、私が要点を話すより、その一文を転載しますね。岸恵子さんの文章は、色彩が豊富でとても柔らかく美しいのです。
第7章「時代を渡る風」の中の「ひとコマの美」というタイトルでした。友人の女優さん、アヌークエメと共に赤いトライアンフで南フランスに向かってドライブしていた時の30才そこそこの頃の一コマです。以下途中からですが、転載です。
『 幌を上げ、髪を風になびかせて、所々に群生するコクリコに彩られた、波打つ麦畑のパノラマを眺め、印象派の絵の中を走っているようないい気分だった。突然、パックミラーの中に白い物体が浮かび、ぐんぐんと加速してきた。
「ポリスよ」
あっという間に近づいてきた白いバイクは、並走しながらピシッと敬礼して笑顔を見せた。息をのむばかりの美青年だった。その稀有なる美に敬意を表して、私は車を路肩に止めた。
「まさか、スピート違反じゃないでしょ?」
アヌークが婉然と笑った。その笑みにも少し翳りのある美がさざめいた。
「今、百キロも出していなかったけど」
負けじと私も言ってみながら、ヘンよ、と思った。その頃のフランスにはスピード制限はほとんどなく、目に余る暴走以外は二百キロぐらい平気で飛ばせた。
「マダム、百キロの低いスピードで中央車線を走っては高速車に追突される危険があります」
「あ、コクリコに見とれて・・・・」
「コクリコ・・・・?」
おうむ返しにつぶやくと、白いバイク氏は麦畑の中に消えた。泳いでいる。キョトンとした私たちの車に暫時の後、両手いっぱいに摘み取ったコクリコの花が投げ入れられた。
「旅の道連れに、車にお似合いのブーケです。ボン・ヴォワヤージュ」
美男氏はエンジンをふかし、燃える陽炎の中に遠くなっていった。「何て小粋なの」アヌークが歓声をあげた。
幾歳月が過ぎ、洋の東西を覆う暗雲の中で思う。あれはやはり特筆すべき、美と洒脱のひとコマであったと。』
この美しい文章のエピソードを夫に話した時、夫は、
「そんな、人の畑にかってに入って花を取ったらいけんじゃない」
と言ったのですよ。なんと無粋な!!
まあ、本当にそう思ったとしても、相手が言ったことにまず共感をする、そして一呼吸おいて反論をする、そんな会話の基礎がまだできていない!!
いつもこんな会話の繰り返しで、今さらがっかりもいないけれど、しばらく私は無口で運転したのでありました!!
今回の大分へは私の兄の病気のお見舞いが目的でしたが、少しだけ夫の実家に寄りました。この季節に行くことは初めてでしょうか。庭に皇帝ダリアが咲いていました。夫は小さい時から見ていたようですが、私は初めて見ました。背の高い、大きな花はまさに皇帝のようにすっくと立っていました。
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コメント
「しばらく私は無口で運転したのでありました!!」このくだりがウケました(申し訳ございません)
それにしてもフランスのポリスはなんと粋なんでしょう!それとも美女とお近づきになりたくてわざと声を掛けたのでしょうか?まるで映画のワンシーンみたいなお話でステキでした☆
投稿: ふぁん | 2013年11月25日 (月) 11時05分
洒落というか粋というか。
さすがフランスらしいエピソードですね。
投稿: もみじ日記 | 2013年11月25日 (月) 15時16分
コクリコの花を抱えた美青年ポリスの余韻にひたっていたら,
まあ,なんというご主人のリアクション!
思わずコーヒーを吹いちゃいました。
映画のワンシーンのようなイメージを一刀両断のもとに断ち切る
ご主人のひとこと。
そしてむっとして車を走らせる先生。
お二人を乗せた車が
鮮やかな紅葉の中を走り抜けていく・・
という
これまた映画のワンシーンのような様子を思い浮かべて
二重のドライブストーリー。
投稿: hoch | 2013年11月25日 (月) 18時12分
とあるジャーナリストの話ですが。
フランス人は「ツンとして、澄まして、気取っている」という思いを抱いていたのですが、PKOで派遣されたフランス軍士官はずいぶん気さくに応対してくれたので、ふと疑問を口にしたら士官曰く
「あー、それはフランス人じゃなくてパリっ子のことだよ」
とのことでした。
文中の場所は南仏とのことでしたので、そんな感じなのでしょう。
件の警官はフランス人というよりイタリア人気質に思えてしまいますが。
投稿: めかちゅーん | 2013年11月25日 (月) 22時39分
昔は、野に咲く美しい花を見ると、折って家に持ち帰りたくなったものですが、最近は、その場で美しさを愛でることが宝です。
若さも素晴らしいですが、老いも良いものです。
投稿: 老人 | 2013年11月26日 (火) 16時12分
ふぁんさま
それに、100キロでゆっくりだなんて、これもすごいと思いました。こうのみよこ
投稿: こうのみよこ | 2013年11月28日 (木) 17時26分
もみじ日記さま
こんな行動は、日本人では絶対無理、と思いますね。そんなフランスで強く生き抜いて来た岸恵子さん、素敵な本でした。こうのみよこ
投稿: こうのみよこ | 2013年11月28日 (木) 17時27分
hochさま
お恥ずかしいことです。あんまり夫の悪口は書くまいと思うのですが。悪口ではなく、一つエピソードとして書いてしまいました。こうのみよこ
投稿: こうのみよこ | 2013年11月28日 (木) 17時29分
めかちゅーんさま
そうですね。イタリアっぽいですね。でも、岸恵子さんの本には、ユーモアとウィットに富んだフランス人の話が一杯出てきました。こうのみよこ
投稿: こうのみよこ | 2013年11月28日 (木) 17時31分
老人さま
どうも、私は年金をもらう立場にありながら、どちらかというと、まだ若者に入っていると思ってしまいます。いつから、そんな達観した心情になれるのでしょうか・・・。こうのみよこ
投稿: こうのみよこ | 2013年11月28日 (木) 17時33分