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「原爆市長」続きです。

 昨日に続いて、「原爆市長」のほんの一部ですが、転載します。

 『おそらく、広島市歴代の市長で、木原市長ほど苦労した市長はいなかったであろう。市長はしばらく、いまの第一助役室で執務していたが、私が助役に就任して、市長室に移った。どの部屋も例外なく、ドアもなければ窓枠もなく、焼けただれたままの部屋であった。でこぼこのコンクリートの床、その部屋のまん中に、ありあわせの小さな机と椅子をおいて、市長は腰かけていた。

 あの年の冬は、庁舎を修理する財源も、資材もなかった。文字通りの吹きっさらしで、市長室にも助役室にも、吹雪が真っ白に吹きだまった。まして他の各課の事務室にいたったは、役所などというようなものではなかった。

 暖をとる木炭もなかった。焼け跡から拾い集めた木切れを燃やすので、市内はどこも煙でいぶり、真っ黒になった。けむたくて涙腺をやられ、目ただれのようになった吏員がふえた。

 助役室の窓からは、大手町あたりの焼け跡に、点々と小屋が見えた。どの小屋も焼けトタンで囲ってあった、人間の住まいとは思えない小屋であった。私は、その小屋を見ながら、ああ、あそこにも悲惨な生活がある、とややもすれば挫けそうになる自分の心にムチを打った。』

 『季節の歩みは正確であった。中国地方の雄都「広島」が、つい数ヶ月前までここにあったーーとは、とうてい信じられないような、新しい廃墟にも春はめぐってきた。

 そういうある日、爆心地に近い国泰寺の大楠木の根元に、黒山のひとだかりがした。焼け残ったこの老樹は、一枝の葉もなく、枝も幹も黒焦げになって、かろうじて立っている様子であった。その根元から一メートルほどのところに、青い双葉の小さな芽が一つ、ぽつんと出ている。

 「あッ!芽が出ている!」

 通りかかった一人が発見して声を上げた。そばを歩いていた人たちがかけよって、楠木の根元を取り囲んだ。

 「ほんと!ホラ、青い芽が・・・・」

 中には、その薄茶色がかった青い一穂の芽を、なでさすらんばかりにして、涙ぐんでいる婦人もあった。

 七十五年間、草木も生えぬーーといわれた原爆砂漠に、一年もたたぬ翌年の春、こうして青い芽が吹いたのだ。それを見た感激の大きさ、それは被爆者ーー広島市民でなければ、とうてい理解できないことかもしれない。この一穂の芽は、市民たちに安心感と希望をよみがえらせた。陽気のせいばかりではない、市民の表情は明るくなり、活気がみなぎってきた。

 春が過ぎて、夏が近づくころのことであった。宇品の柿原政一郎さんが役所へ来て、

 「もうそろそろ、復興事業にとりかからねばなるまいが、それに着手する前に、一度公式に、戦災死没者の供養をしなければいけない。いまだに市中には、幾多の死体が瓦礫の下に埋まっているはずだ。その死体の整理と、犠牲者の供養をしないで、復興事業に取り掛かることは絶対に避けなければいけない」

 と、強い申し入れがあった。まことにもっともな話であった。考えてみると、その頃まで私たちはまだ戦災死没者をおがむ中心さえ持っていなかった。』

 読めば読むほど、今の震災の姿と重なります。また、市長選挙とも・・・。


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コメント

被災地の方々の状況や福島原発事故の今後のことを思うと、本当に毎日胸が痛みます。
そんな中で「原爆市長」の本のご紹介ありがとうございます。
是非この本を読んでみたいのですが、どうすれば入手できるでしょうか。
ネツトのアマゾン、古本屋で検索しましたが、当然在庫は無いようです。
図書館に行けばあるでしょうか。
是非読んでみたいです。
私達が今後どうすればいいのか、この本に中に指針が見つかりそうですね。

投稿: のぞみ | 2011年4月 1日 (金) 22時46分

先生、お誕生日おめでとうございます。私も4月生まれです。

「原爆市長」是非読んでみたいです。以前西区の図書館で見かけたように思いますので、探してみようと思います。

廃墟のあと、被災した方々をどうやって支えていくか、何より廃墟となった場所から復興に向けてどう進んでいくか。
日本人皆で今の東北の大変な現状について真剣に考え、1人1人が今自分に出来る事を実践していかないと・・と考えさせられます。


先日は、ありがとうございました。慌しくて落ち着かなかったのでは、と心苦しく思います。特にデザート大好きな先生に納得いくサービスが出来ず、申し訳なかったとシェフが申しておりました。


投稿: Zu | 2011年4月 2日 (土) 01時28分

このところとても忙ようですが、今日ばかりはゆっくりと、お誕生日をお祝いください。

改めまして
 
Happy Birthday to miyoko-sensei!

広島市は選挙まっただ中、こちらは無風状態から突然の三次市長選挙。あわただしい世の中です。

投稿: なんでも辛口 | 2011年4月 2日 (土) 06時29分

のぞみさま
原爆市長の本、人づてに探してもらっています。ごめんなさい。でも、是非読んでいただきたい本ですので。よろしければ、私のを読んで戴いたら、嬉しいのですが。こうのみよこ

投稿: こうのみよこ | 2011年4月10日 (日) 16時48分

Zuさま
とんでもない、こちらこそ、ご馳走になりました。デザートもとても美味しかったです。もう一つのコメント、本当にすみませんでした。アイパッドでコメントを読むと、途中までしか表示されなくって。ついアップしてしまいました。ごめんなさい。非表示にしています。許して下さい。こうのみよこ

投稿: こうのみよこ | 2011年4月10日 (日) 16時50分

なんでも辛口さま
辛口さまが立候補されたら。私、喜んで応援に行きます!!三次市長、いい人みたいだったのに、残念なことをされたものですね。お祝いのコメントありがとうございます。こうのみよこ

投稿: こうのみよこ | 2011年4月10日 (日) 16時52分

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