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医師として患者さんと向き合うということ。

 私のような職業についている者は、対象は「人」です。様々な立場にある、齢も異なる人たちです。これまで生きてきた背景も、それらに寄って作られた価値観も異なります。

 そのいろいろな立場の人たちに、寄り添うこと。それが私たちの基本的な姿勢となります。

 ただ、いろいろと気づかないで物事を考えている人には、そうでない考え方もあるよ、と、少しアドバイスをすることもあります。でも、決定をするのは、患者さん自身です。

「みんなに祝福されて出産しなければ」

と言う人には、あなたと彼が、またはあなた一人でも、「私はこの子を産んで育てよう」と意志を持っていれば、それで生まれてきた赤ちゃんが不幸だとは思わないよ。ということもあります。

 信じられないかも知れませんが、いまだに結婚前に妊娠したことを「順番がちがう」と叱られ、中絶することを回りから迫られるということもあります。世間体を気にする親たちによって。

「おろしてから、結婚しなさい」と。

先日も、「一旦ここはリセットして」と中絶を迫る母親に「お母さん、命はリセットできませんよ。」と言いました。

 私の友人で、母一人で育った人がいます。思春期の難しいとき、「どうして私を産んだんだ!!」とお母さんにくってかかったのだと。そしたら、お母さんに「私が産みたかったから産んだんだ!!それが悪いか!!」と怒鳴られて、それで、すっと心が落ち着いたと。そう言ってくれた人がいました。

 中絶を決めた人には、早く立ち直って強く生きていけるように。私は先日の熊本の高校生にも言ったのですが、「中絶をしたからと言ってその人の人生がそれでダメになってしまうわけではない」こと。あの内診台に上がって診察を受け、手術台に上がって怖い思いをした女性は、その記憶は決して消えるわけでもないし、平気でいるわけがない。ずっと心にしんどい思いを持っている人に、ずっと苦しめなんて、ハタから言わないでほしい。

 そんな体験は、男性がするわけではありません。女性は、身をもってその体験をするのですから、それだけ深く心も傷ついています。その傷は早く癒されてしかるべきだ思います。

 親に反対される中で出産することを決めた人には、「いつかは、親も孫がかわいくなる時が来るからね。」と、多くの人のその後を見てきた私は、そう言います。

 相手の男性にも反対される中で、出産を決意した女性には、一人で育てるそのノウハウを。仕事はやめないで頑張ること。職場に産休を要求するときの、その姿勢の持ち方。(いらないことは何も言わない。何を詮索されても、毅然としていること。ただ、淡々と出産する予定であることと、いつからいつまで産休、育休ことを伝えることなど。)保育所のこと。その申し込み方。役場での交渉の仕方。子育てをするときの姿勢。子どもとの会話。などなど沢山あります。

 中絶をしなければならない、でもその時期を過ぎてしまって、出産をしなければならない人には。それでも多くの彼女達は、自分で育てたいといいます。それなら、何とか自分で育てる方法を。周りに育児を支援してくれる人はいないか。いないのだったら、学校に行っている間は、赤ちゃんを施設に預かってもらって、会いに行く。自分が自活できるようになったら、引き取って育てる、それは出来ないか。また、通学しながら出産をするのであれば、学校をいつからどうやって休むか。学校にはどう伝えるか。産んだ後、いつから復帰するか。

 養子縁組のお世話は、最後の手段です。

 本当に様々なことがあります。決してこちらの価値観で、中絶はいけません、とか、産んではいけません、とか、そんな押し付けはしません。あくまでも考えるための材料の提供だけです。後は、患者さん自身が決めること。それに寄り添ってサポートすること。それが私たちの使命であると思っています。

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少し前に泊まったホテルのロビーで、偶然結構式に遭遇しました。出席者は、新郎側に二人、新婦側に三人の友人らしき人たちだけでした。見ている人たちみんなでしっかり拍手をしました。


コスモス薬局のHPの中に私の「体の相談室」と「著書」の販売があります。
ぜひ、覗いてみてください。

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コメント

先日とても衝撃的な話を聞きました

乳児院に勤めている人にです
近頃は、高校生でも簡単に出産して
しかも生まれた赤ちゃんを母親の親が
乳児院に連れてきて置いていくケースが増えているということです
そして、その赤ちゃんは存在すら忘れられて
その後、なにもなかったかの如く母親たちは生活をしているということに
なんだかすごくショックでした

先生が書かれているように
出産に関して本人も含めて周りのみんなの葛藤云々も
昔からある難しい問題ですけど

それ以前に
「生まれてきた子供をなかったこと」に出来る
そういう人たちが存在しているこに
どうしようもない怒りと失望を感じました

それと
昔は離婚しても子供は母親が引き取る場合が殆どでしたが
近年は父親が引き取ったり、
母親が子供を置いて突然家を出るケースをよく耳にします
私たちの年頃で孫育てをしている人が
結構いるというのも事実です

『母性』とか『人間性』とか
根本的に変わっているようで悲しいです

投稿: のりたま | 2010年11月30日 (火) 11時10分

ずっと以前、NHKで中絶の手術の映像が流される番組がありました。子宮に入れられた器具から小さな胎児が逃げようとするのを無理やり捕まえるような映像が流れたようです。私は見なかったのですがそれを見た人が是非、高校生の性教育に取り入れて見せるべきだと声高に私に言ってきました。
 養護教諭という職業がら、性教育の内容についてどう伝えるか、何を伝えるかはいつも考えていました。
外部から来ていただいた講師の中には中絶に使用する道具を持ってきて中絶の怖さを話される方もいました。でも、聞いている生徒の中にはつらい思いをしながら中絶の経験がある生徒もいました。脅しの性教育は許せないと思います。無知のまま性行為をしてその結果を一人で引き受けてつらい思いをしている人に追い打ちをかけるようなまねはしてはならないことです。先生のお話を何度か聞いて、妊娠の結果どうするかは本人(達)の選択が一番。考える時間をとっていろんな選択肢を考える手助けをしていこうとかんがえています。高校生の妊娠=中絶=悪という図式はなかなか変えられないかもしれませんが寄り添って逝きたいと思っています。

投稿: eko | 2010年11月30日 (火) 13時50分

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