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ある不器用な男の話。

 並外れた能力があるのに、生きるのにとても不器用な男がいる。頭が飛びっきり良くて、高校を卒業して現役で、T工大に入学した。と、そこをやめて、T大の理Ⅰに入学した。そこもやめて、今度は日本の受験生の最高峰とも言える同じT大の理Ⅲに入学。何とそれもやめて、T医科歯科大に入学。それもやめて、とうとう東京を離れ、故郷の広島に戻ってきた。そして広島大学の医学部に入学。結局は、彼は、そこに入学したくて入学したのではなくって、受験勉強が趣味だったのだろうとみんなでうわさした。

 もう、両親もいない、生活の手立てのない年とった広大生の彼の生活を、同級生や先輩がみんなで支えたという。今度ばかりはやめてはいけないと、みんなで叱咤激励。そして、晴れて卒業。医師免許も取れた。

 ところが、就職しない。「人の命に関わるようなこと、自分にはできません。」とのたもうたと。生活を支えてきた友人や先輩達も投げ出して、もう面倒は見ないと、縁切りを宣言したと。

 その男は私の高校の一級後輩である。そんな伝説の男がいるということは、男の生活を支えてきた一人である友人から聞いていた。私の友人である彼は、もう一切関わってはいけないと、ひどく奥さんに怒られて、縁を切ったのだと。それまでが本当に大変だったと。医学部の教科書代、高価だった。医師国家試験に通っても、登録のお金がいると、その度に彼にむしんに来たという。そんな彼にむしんされ続けた人間が何人もいる。

 だから、その伝説の男が私の前に現れたとき、本当にびっくりした。もう、金を出してくれる人がみんないなくなって。とうとう、会ったこともない私のところに来たのだった。お金を貸してほしいと。

 聞けば、医師免許は取ったものの、就職しなくて、生活ができなくなった。予備校の仕事はしていてもとても生活できるだけのお金にはならないと。で、とうとう就職する決心をしたと。今さら、医師の仕事は出来ないけれど、あるとても狭い分野の事だけなら、何とかできるかも知れない。その医師の募集をしているので、試験というか、面接に行きたい。でも、その電車賃もないと。ボロボロの着古したセーターに髪はボサボサ。

 びっくりして、私は悩んだ。どうしよう。これまで私の周りの沢山の人が彼を支えてきた、私は何にもしていない。初対面の私に、金を出す義務はないけれど、でも、ここで私が断ったら、彼に対してでなく、これまで支えてきたみんなに悪いような気がして。悩んだあげく、考えておくので、もう一度来てくれと一旦断った。

 夫に相談した。彼は、助けてあげたら、と言った。でも、お金は返ってくるとは思うな。上げるつもりでないと、後で悔しくなるよ、と。上げるって、、お金を上げるいわれはないけれど・・・。その頃行っていたお寺の先生にも相談した。先生も、お金を出してあげなさいと言われた。困っている人を助けるのは、徳を積むことですよ、と。それに、それだけ能力のある人だったら、何かをするかも知れませんよ、と。

 で、結局私は彼にお金を出した。往復の新幹線代。それに、いくらなんでも、その格好では。面接に行くのなら、せめて背広ぐらいは着て行きなさい、散髪にも行って、こぎれいにして、と。彼は、就職したら、お金は返しますと借用書を書いた。

 そして、それっきり。何の消息もなく。一体、面接にちゃんと行ったものやら、行ったのなら、受かったのやら、ちゃんと働いているのやら、何にも分からない。でも、きっと、持つはずがない。就職したとしても、彼のことだもの、辞めているに違いない。どこで何をしてるのやら、生きているのかどうかも分からない。

 あの、妻に怒られた彼に聞いても、何も分からない、あいつのことは、考えたくもないと彼は言った。そして、何年も何年も経って。そのうち、私は彼のことは忘れてしまっていた。借用書もいつしかどこに行ったか分からなくなっていた。

 そんな先日、例の妻から怒られた彼から電話があった。「おい、〇〇から連絡があったぞ」と。〇〇ったって誰なのか、ピンとこない。そしたら、「金を貸したじゃろうが」と。そして、遠い記憶が甦ってきた。(明日に続きます。)


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コメント

わお~、ココで話を切る?
ドラマのCMみたいでイライラしてきた。
明日といわず、さっさと続きを続けてくださいw

投稿: ⑦パパ | 2010年8月27日 (金) 09時52分

読みながら わくわくしてきます。

きっと その彼 白鳥に化けたお話じゃないかと♪

投稿: はるめ | 2010年8月27日 (金) 12時05分

もしかして、アメリカに渡り、ゴッドハンドと言われるドクターになっていたとか?

投稿: やんじ | 2010年8月27日 (金) 18時53分

ついに美代子先生もスリラー小説のライターになられましたか。

でたがりヒツジのはいじさんも「おっとっと」と、ビックリの“ショートストーリー”だと思います。

けど、「続きはどうなるんじゃろうか、オアズケは身体に良くないです」

投稿: なんでも辛口 | 2010年8月27日 (金) 23時07分

⑦パパさま、はるめ様、やんじさま、辛口さま
結果は、とても平凡で、ご期待に添えずすみませんでした。なかなか小説の様には行きません。コメントありがとうございました。こうのみよこ

投稿: こうのみよこ | 2010年8月30日 (月) 07時48分

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