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今クリニックで起こっていること⑨妻子ある人との妊娠

 20代後半の彼女。

 私が「うん?」となったのは、彼が「出来るだけ早いほうがいいから、早く病院に行くように」と言ったと、彼女に聞いたときです。

 私は独身で性交のある人には、産めるの?大丈夫?相手はどうなの?ということを必ず聞きます。ちゃんと避妊していない人、このままだと必ず妊娠するだろう、それも近いうちに、という人がとっても多いのです。「セックスというのは、妊娠する行為なんだから。」その自覚を持っていただかないと。

 その彼女は「産めません」と答えました。どうして?と聞くと彼は妻子ある家庭持ちだといいました。で、「彼はどう言ってるの?」との私の問いにそう答えたのです。「出来るだけ早いほうがいいって、何が?」と重ねて聞きました。「おろすのは早いほうがいいと。」と答えた後もう彼女は涙です。

 彼の中には「妊娠→中絶」と出来上がっているようです。「ちょっと待って。彼はおろすと決めてるの?最初っから分かっているのなら、どうしてちゃんと避妊しないの?」

 彼女は答えられません。「あなたは、妊娠するのが怖くなかった?彼にちゃんとコンドームを使って欲しいと言わないの?自分からピルでも飲んで避妊しようと思わないの?ねえ、妊娠したらおろすと分かってるのにコンドームも使わない男って、私から見たらはっきり言ってろくでもない男と思うんだけど。」

 彼女は聞きながら、うなづきながら、泣いています。

 私は「ねえ、一人で産もうとは思わない?」と聞きます。

 今の世の中、女一人で育てている人は沢山います。悩んだ末にそういう選択をする人も沢山見て来ました。周囲の説得など、産むまでも大変。育てるのも大変ですけど、でも、子どもの存在が生きがいとなって懸命に生きている人も、多く見ています。先日は、昔頑張って生んで、一人で育てた息子が東大生になったと報告して下さった人もいました。

 だから、男性達も彼女が妊娠したら、おろすのが当然と考えないほうがいいのです。「おろしません。産みます。」と決めたとき、男性の猛反対に会う人もいます。東大生になった子を産もうとしたとき、彼の妨害はそれはひどかったのです。私も、何度も彼と向き合いました。彼女たちが一人で産むと決めたとき。私は、彼女をできるだけサポートしたいと思います。

 30代後半になって、子どもを産んで育てる人生か、ずっと一人で生きる人生か、厳しく選択を迫られたとき、産むほうを選ぶ女性もあるのだと、そんなときには、男性もそれなりの覚悟をして頂かないと、と思います。女性がおろしてくれると軽く考えていたら、痛い目にあうこともありますよと忠告しなければなりません。

 まだ20台後半の彼女は、今どうするか考えています。多分彼女は中絶する道を選ぶでしょう。それは分かっています。でも、私は、ここで彼との関係も立ち止まって見直して欲しい、そういう思いで「ねえ、一人ででも産もうとは思わない?」と問いかけています。


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コメント

毎回このシリーズを読むたびに涙が出ます。なんて痛々しい人が多いのか。なんて悲しい人が多いのか。とりあえず目先の事で精一杯なんでしょうか。妻子ある無責任な男性のあまりにも女性を軽んじている態度も本当に腹が立ちます。不倫だけでも奥さんを裏切っているのに。もう1人の女性まで傷つけて。
男子だけでなく、男性にも性教育が必要ですね。マスコミによって快楽ばかりが追求されすぎです。メディアにも危機感を持った報道をしてほしいですね…。

投稿: ミセス・セブン | 2010年3月20日 (土) 09時52分

命の尊さを…簡単にリセット出来ないことを
理解して行かなければいけませんね。

先ずは大人が模範と成らなくては…

投稿: 直珍 | 2010年3月20日 (土) 12時24分

ミセス・セブンさんのおっしゃる通り,
男子だけでなく,大人の男性にこそ正しい性教育が必要なのではないかと思います。
男性に都合の良い性教育ではなくて!

浮気の言い訳として
「男っていうのは,子孫繁栄のために,あちこちで種を蒔く。
 そういう性なんだよ」
と言っていた人がいました。
いい年をしたオヤジがそんなこと言うんですよ!

腹が立ちました。
それなら,野生の王国にでも行っちゃえばいい。
そして子孫繁栄のために,
生まれた子どもを全員,命がけでしっかり育ててみなさい!と言いたいです。


20代後半のその彼女,どんなにか傷ついていることでしょう。
傷つき疲れ果てた心で,
たったひとりで大きな決断を下さなければならないというのは,
本当に本当にしんどいことだと思います。
でも,どちらの道を選んでもいいのではないかなと
彼女に声をかけてあげたいです。
ひとりで育てていくのもすばらしい人生だと思うし,
子どもを持たない人生だってありだと思います。

どちらを選んでも,
悩み抜いた彼女の選んだ答えは
どちらであっても彼女にとって正解だと思います。
その決断にどうか後悔しないで,
自分で自分を傷つけないで・・と声をかけてあげたいです。


投稿: Hoch | 2010年3月20日 (土) 12時37分

こんにちは、自分は男で女性ではありませんが・・・
ブログ内の記事において不特定多数に向けられたこの一文であるとするなら、

「あなたは、妊娠するのが怖くなかった?彼にちゃんとコンドームを使って欲しいと言わないの?自分からピルでも飲んで避妊しようと思わないの?ねえ、妊娠したらおろすと分かってるのにコンドームも使わない男って、

私から見たらはっきり言ってろくでもない男と思うんだけど。」

批判するでもなく肯定するでもなく淡々とコメントを入れさせていただければ喜びます。

地球上の生物で快楽を求めたセッスクがあるのは事実です。生殖以外にあなたも私も含めてセックスを必ずしているはずです。

かといって、望まれるべくもなく、出産・堕胎・罹患は常に女性の悲劇で終わらせるこの一文、

「私から見たらはっきり言ってろくでもない男と思うんだけど。」

求愛行動の中にピルとかコンドームとか成り行きの世界を否定するならそれはもう、人間の愛に対するさじ加減のなさと、自分の仕事と立場の上だけで人間の求愛行動を見ているとしか思えません。


この一文に対して、このブログコメント欄が誰にでもコメントを可とするならば書き込みしますこれは、女性の出産、堕胎、罹患について是でもなく非でもなく淡々と感じたことです。

人間って完璧なのでしょうか?
平岩弓枝さんの小説よりもすさまじい愛が人間には存在してて・・・だから人生・・・なのではないでしょうか?

投稿: 蔵さん | 2010年3月21日 (日) 13時00分

>蔵さま
愛しているから考えるのではないでしょうか。
だって、セックスは基本的に生殖行為なのですもの。
人間以外の動物は堕胎なんてしないと思います。(するのかな?)
私たちは考えることのできる動物だと思います。
だからステキな性が持てるのだと思います。

投稿: うさこ | 2010年3月21日 (日) 18時24分

河野先生
いつもお世話になります。昨日は合格のお祝いに素敵なプレゼントをありがとうございました可愛い袋とおしゃれな口紅どちらも私好みで嬉しかったです大事に使います(。・w・。 )

投稿: 親子でファン | 2010年3月22日 (月) 01時22分

ミセス・セブンさま
これは、作り事の世界だけでなく、現実に同時進行で私のクリニックで起こっていることです。言っても言っても変わらない、賽の河原の連続です。いつもありがとうございます。こうのみよこ

投稿: こうのみよこ | 2010年3月24日 (水) 07時46分

直珍さま
コメントありがとうございます。結局は大人の問題なのです。直珍さまのブログ、楽しいですね。これからもよろしくお願いします。こうのみよこ

投稿: こうのみよこ | 2010年3月24日 (水) 07時49分

Hochさま
でもね、大人に対する性教育の場はどこにもないのです。だから、学生の内にしっかりした教育をしておきたいのです。Hochさまのコメント、重く受け止めますね。ぜひ、この後の人のコメンとも読んでくださいね。こうのみよこ

投稿: こうのみよこ | 2010年3月24日 (水) 07時51分

>蔵さん氏
完璧じゃないからって、女性に不安・負担を押し付け、自分は放棄ってどこに愛があるん? っていう。
人生は手前ひとりのもんじゃないんだよ。相手にだって人生があるんだ。
避妊もせずにできたら堕ろせだとか、あんたの言う「成り行き」に責任が持ててないだろ。
悲劇がどこにあるのか、起こしてるのは何なのか、よく考えてみな。


汚い口調で河野さんには申し訳ないですが、あえてこのままコメントさせてもらいました。

投稿: 黄玉 | 2010年3月26日 (金) 15時49分

河野先生のブログをいつも拝見しております。この一連のシリーズの記事を改めて読み返させて頂きました。考えさせられることばかりですね。この記事に限って、シリーズの記事冒頭某氏、今回男性である書き込みと相まって、この記事内で思い込みによる他の方のこの記事内コメントが気になりました。。何度か読み返しましたが他の方からこの男性に対しての書き込みが男性の内容に対して、ずれているのはこの男性には大変お気の毒です。むしろ、このひとつ前の方の書き込みは同性でも大変に不快感があり、このブログに来る読者が同じであるように思われるのが残念です。しかし、河野先生の記事の内容はとても考えさせられることに違いありません。河野先生におかれましてはお忙しい中くれぐれもお体をご自愛いただきますように。長文をお許しください。かしこ

投稿: 読者の一人 | 2010年4月 4日 (日) 13時21分

こんにちは。お友達との話の中で、将来に火種を残さないためによろしければあえて書き込むことを望みます。1)成り行きだから堕胎容認とは、どこにもコメントしてない。日頃より子供たちに命の大切さを説いている自分にあろうはずがない。2)どんな高度な教育を受けようと完璧な人はいない。(医療従事者も然り)また、このことに絡み性教育をしなくてよいとは、コメントしてない。このシリーズとは無縁である。・・・・・以上2点を明確にさせてください。「人のゆるみの中で生きる」とは??~ということを河野さんのこの記事の中にて50歳手前で感じましたので誤解を恐れず書き込みました。河野さんも広島からの風の便りにて夏前に向けてお忙しくなるとのことなのでがんばってください。長々と失礼しました。

投稿: 蔵 | 2010年4月14日 (水) 16時05分

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