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みみっちい話を聞いて下さい。

 あまりにみみっちい話しなので。書くのも情けない話なのですが。ちょっと愚痴を聞いてください。

 乳腺炎を起こしてくる人がいます。授乳中、乳管が詰まって、しこりができて、赤くなって、高熱を出す人もいます。本人は、とてもつらいのです。

 そのような時、患者さんにはベッドに横になって頂いて、オッパイのマッサージをします。詰まっているところが通るように。しこりが解消されるように。出てくる母乳をガーゼに吸わせながら、とても時間がかかります。大体、30分近く。力もいるので、終わると手ががたがた震えるほどです。

 つい先日、その乳房マッサージが保険点数、35点。350円だと知りました。わあ、これだけ苦労して、350円なのか、と、ちょっとがっかりしました。もちろん患者さんは、その3割負担の105円、規則で切り上げの110円の支払いです。えらく安いんだあと。

 実は、私はレセプトの点検をするときにも、点数は、全く気にしないできました。それぞれの患者さんに何をしているのか、やったことと、病名があっているか、落ちがないかのチェックのみです。点数、すなわち収入については、私の中に変なっツッパリがあって、医療は算術にしたくないという思いで全く気にしないことにしてきていたのです。

 所が、ここに来て、そうも言っておれなくなりました。漫然と医療をしていて、厚生労働省の決めるとおり、医療費の削減で、どんどん保険の点数が低くなる、、それに沿って収入も落ちて来ました。実に素直に落ちました。「医療なんて、必要最低限にするもの」という意識もありました。余分なことをして収入をアップさせる、経営努力をしてこなかったのです。患者さんは沢山診ているにも関わらず、経営が危なくなりました。

 で、右手が骨折していた先日、マッサージの後、あまりに手がつらかったので、つい聞いたのです。これをすればいくらなのか、と、そしたら「35点」と言うことだったのです。がっかりしたけれど、これも患者さんへの一種のボランティアだと思うことにしました。

 ところが、昨日、レセプトをしていて、ふときづいたのです。

 これがみみっちい話しなのです。

 再診料というのがあります。71点、710円です。患者さんが来て、お話しをしたりすると、このお金がかかります。それに加え、お薬の処方をしたり、注射をしたり、検査をするだけだと、「外来加算」というのがあって、これが52点、520円加算されます。

 でも、乳房マッサージや、導尿や膣洗浄やなど産婦人科にありがちな「処置」をすると、この52点の加算が消えて、いただけなくなります。だから、乳房マッサージをすると、52点が消えて、その代わりに35点がいただける、と。そうなるのです。

 要するに、乳房が痛いと言ってきた人になんにもしなければ71プラス52点の1230円いただける、でも、一生懸命時間をかけてマッサージをすれば、71プラス35点の1060円いただけると、収入が下がってしまうのです。

 それに気づいて、もう、びっくり。一体いつからこんなことになっているのでしょう。全く気づきませんでした。それなら、マッサージはしても、保険での請求はしないで、なんにもしなかったようにした方がいいということになります。

 脳性まひで、排尿もままならない方がいます。いつもオムツなので、どうしても膀胱炎になります。この前から、それがひどく、お薬だけでは、改善しなくなりました。導尿をするとどろどろの尿がでてきたので、これはいけない、で、膀胱洗浄をしました。以来、来られるたびに膀胱洗浄をするのですが、なかなかきれいになりません。昨日、ふと「これ、いくら?」とたずねたら、60点、600円でした。膀胱洗浄をするのに、約30分かかります。乳房マッサージは私がしますが、膀胱洗浄は、ナース一人が付きっ切りです。

 でも、昨日、「もしかして、これも52点はだめなの?」と尋ねたら、そうでした。60点いただいて、52点消える、差は8点です。うーん、でも、その膀胱洗浄をするのに、220円のカテーテルを一本使います。そのカテーテル代はいただけません。ああ、やればやるほど収入減だ、と分かりました。でも、これも患者さんのためにはやめるわけにはいきません。

 昨日、出血する人が来られました。癌でも妊娠でもないのですが、子宮口に出血の原因がありました。で、電気メスの機械を出してもらって、それで焼いて止血しました。

 つい、これ、何点?と聞きました。「子宮出血止血法」といって、45点でした。でも、これでまた52点は算出できないと。70円のマイナスです。だから、会計に、止血術はしなかったことにして、といいました。こんなことは初めてです。

 そして、いやになりました。本当に自分がみじめになりました。こうして、いちいち医療行為に点数を気にしなくてはならない状況が、情けないのです。

 でも、こうして本当に10円、100円単位のお金をいただいて、その積み重ねで経営が成り立っているのですから。私は中絶もお産もしないので、10万円単位のお金なんて、夢物語です。

 今、本気でイヤになっています。いつの間にか、こんな仕組みにしている厚生労働省、それに対して、なんにも対応していない医師会や産婦人科医の団体も情けないのです。

 みみっちい話しといいましたが、経営を続けていけるかどうかの瀬戸際の今、本気でイヤになったら、あっさりクリニックをやめましょうね、とそう考えています。

 


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ぜひ、覗いてみてください。

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コメント

ひえ~、驚きです!こんなことがあっていいんですかお役人さんを引張ってきて計算するところを見てもらいたいですね。
先日うちの4男坊が保育園で耳が痛いと言って中耳炎らしいと耳鼻科に受信に行きました。結局は綺麗で炎症は無かったのですが、「お薬は、いりませんか」と訊かれ、「いりません」ときっぱり断りました。
「中耳炎じゃなかったのにどうして薬がいるんだろう」と不思議に思ったのですが、そういう原因なんですね・・・。良心的なお医者さんが納得のいく仕事を出来る方法を確立して欲しいですね。毎月薬だけ取りに来るお年寄りに、診察もせず必要ない座薬も出すようなことは止めて欲しい。(知り合いです)
このほうがよっぽど医療費の削減になると思うんですが・・・

投稿: トントンまま | 2009年10月 6日 (火) 10時06分

だから、医師の労働条件改善のため、政治の世界に行くか、市民運動をやるかと考えています。
クローン病による小腸穿孔で、救急搬送され、手術して下さった先生も、疲れてフラフラでしたからね。
みみっちくなんかありませんから、どんどん貴重なお話を聞かせて下さい。
やっぱりこういう仕事は国政でしょうね。

投稿: けん | 2009年10月 6日 (火) 10時57分

びっくりしました。良心的なお医者さんや病院はやっていけなくなります。じゃなくてやって。いけないんですね。なんか変ではありませんか?不必要な通院は良くないと思いますが、医療費の削減は、もっと別の次元のことのようですね。
 先生のお話から察すると、病院なんてきつくてきつくて、やってられないってことになりかねません。
 なんとかならないもんですか?一体、何がいけないのでしょう。

投稿: momoko | 2009年10月 6日 (火) 13時51分

さっき、書き損ないました。
 先生は全然みみっちくありません。クリニックが立ちいかなくなったら、大変です!!!困る人がいっぱい出てきます。
 この診療点数のことに加え、不払いの人もあると思います。ということは、ますます厳しくなるでわないですか。先生に苦しんでくださいと言ってるようで、気がひけますが、負けないでクリニックを続けてください。

投稿: momoko | 2009年10月 6日 (火) 13時58分

ほんとみみっちい話ですよ。赤ひげを見習わないといけないですよ。手数料を考えて保険を売るような人になってはいけないのです。
ライフプランナーとして私が一番気をつけていることです。

投稿: はるく | 2009年10月 6日 (火) 15時37分

役人の手下のようなDrがいますよね。
具体的には書きつらいのですが、、、、ちょっとぼかして書きます。
何人もの先生からお聞きした話↓
その先生の時間の速い手術がTVで取り上げられる度に
たった数分で出来るなら今の点数は要らないね、と厚生労働省が保険点数を下げるんだよ。と
だから、良い材料、ディスポの機材が使えなくなるとも

投稿: ⑦パパ | 2009年10月 6日 (火) 16時17分

どうしてこんな事に!! ひどすぎます!
誰が何のために考え出したのか。
現場を知らないお役人が、机上で作ったやり方
なのでしょうね。
これでは、先生のように心あるお医者さん達は
どんどん疲れてしまわれますよね。
どうか辞めるなんておっしゃらないで下さい。

私がお世話になっている病院で、受診日にうがい薬と
鼻炎スプレーを貰い忘れ、翌週行きました。

そうしたら、再診料123点、医学管理等225点、投薬
68点、合計416点。負担額は3割で1250円。
「薬を頂くのを忘れたのでこれこれをお願いします」
と言っただけで1250円とは(泣)
更に薬局で調剤報酬額3670円、3割負担で1100円。
うがい薬2本と鼻炎スプレー2本で2350円でした。

こんな事なら街の薬局で買った方が安かったかな。
これからは、ちゃんとメモして薬の貰い忘れが
ないようにするぞ!と思いました。

お医者さんが生きがいを持ってお仕事が出来る
診療報酬制度になりますように!!

投稿: 波 | 2009年10月 6日 (火) 22時21分

ちょ、ちょ、ちょっ……!?
改善のためにはどうすれば?
署名等で協力できることがあるなら呼びかけて下さい。

投稿: keiseiryoku | 2009年10月 7日 (水) 07時14分

なんと矛盾した医療…。。

やってられないと感じることでしょう
マジメ・患者のためと思うほど損する点数だなんて。

先生はみみっちくないですよ!

投稿: 一児の親 | 2009年10月 7日 (水) 09時03分

驚きました.
こんなシステムで命が守れるのでしょうか.
暗澹たる気持ちでいっぱいです.

日本の官僚は優秀だと言われていますが,医療費の抑制と言う数字の上にしか思いが及ばず.

人の命を守るという本来の使命を忘れてしまいました.人の心を失おうとしています.

ようやくそんな人の心を持たない政府から脱却できそうなのです.
あたらしい政権を長い目で期待したいと思います.

投稿: Apricot | 2009年10月 7日 (水) 09時08分

先生のご意見はみみっちくも愚痴でもないです!
はてなブックマークでこのエントリが話題になっています。URLを貼りますので、お時間あるときにご覧いただけると嬉しいです。

父が呼吸器系の疾患で通院しているのですが、ある事情でしばらく通院できず薬の服用をやめたら却って体調が良くなった事を思い出しました。
どうやったら制度を変えられるんだろう・・・

投稿: みさ | 2009年10月 7日 (水) 11時58分

ご苦労様です。
んじゃ掛り付けの医院にはいつも通りの処方だけして頂くのに通院した方がいいんですね。
以前「せんせー扁桃腺腫れちゃいました・・」って咽の膿を吸引してもらってスッキリしましたが、せんせーは赤字だったんだろうか。。

投稿: 誰やねんっ20号! | 2009年10月 7日 (水) 12時21分

診療報酬には、色々と実態に合わないことがあるらしいというのは聞いたことがありましたが、こうして先生から具体的にお聞きすると、言葉を失ってしまいますね。

私はもう長いこと精神科に通っていますが、ドクターとお話しして、お薬をいただくのは、「通院精神療法」というなかに入るらしいです。
詳しくは知らないんですが、診察時間が30分までは何点、それを超えると何点って決まっているらしいんです。
でも、30分を超えたからといって、点数がすごく高くなるわけではないみたいです。
私が調べてみたところでは、わずか30点の差でした。
具合が悪い時は30分以上お話を聴いていただくことはしばしばなんです。

インターネットで読んだ情報だったと思うんですが、精神科とか心療内科って、ドクターと患者がよくよく話をすることが大切なのに、病院の経営のことを考えたら、再診の患者ひとりの診察に15分以上かかっていたら経営に差し障るんだとか書いてありました。

それが現実なのでしょう。
私は以前主治医から、「あなたは街のクリニックに通院するのは向いていない」と言われたことがありました。それはゆっくり話を聞いてもらう時間が取れないことが多いからとのことでした。
15分以上かけていられないという情報を見て、このことだったのかと思いました。

だから私は、主治医の転勤が多いのは辛いことだけど、公立病院に通っています。
主治医はお昼ごはんもろくろく食べないで朝から夕方まで外来、病棟、リエゾン診療と駆け回っておられるようです。
私が診察に行くのはいつも午後だから、いつも、「先生疲れてないかな?おなかすいてないかな?」って心配になります。
でも、主治医が疲れているなあと思っても、自分の悩みを言わないわけにもいかず・・・

投稿: 迷い人@広島っ子 | 2009年10月 7日 (水) 12時54分

昨日この記事を読んでコメ入れしようかどうか迷ったのですが。今日消化器内科に行ってきてここに一言書いておこうと思いました。直腸から出血していたので止血剤の注射を打ってもらったのですが。お支払いは980円でした。。。おじいちゃん医なので問診も大分時間かかってたと思うし(看護士の通訳つき)しかもその医院は初診だったのです。安すぎないか?と思ったのですが、そういうことなのでしょうか。。。ほかの病院は風邪でも問診と薬代で2000円から3000円かかるのが普通なのに。

投稿: 通りがかりの主婦です | 2009年10月 7日 (水) 21時47分

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