私的平和考⑨誰のための研究か。
ABCC現放影研ついては、中国新聞社が渾身の取材、シリーズを掲載している。「放影研60年」。これ以上の記事はないと思う。私は、私の見たこと、経験したことを書くのみである。
被爆二世への影響について、これまでABCCも放影研も「影響はない」としてきた。では、私が読んだ論文は一体何だったのだろう。「二世にはわずかながら、クラインフェルター症候群が多い」とあった。クラインフェルターとは、性染色体の不分離によって起こる、男性の染色体異常である。普通、男性の性染色体は「XY」であるが、それが「XXY」だったり、「XXXY」だったり。体つきがやや女性っぽく、夢精子症である。
また、近距離被爆者の子供で、染色体異常の女性が妊娠したときには、広島大学の産婦人科の染色体研究室に紹介があった。私たちは、羊水培養をして、その胎児の染色体を調べた。二世の子、三世に異状な子が生まれる可能性があるからだ。
私は、二世の生活習慣病についての調査など、全く信じない。そんなことに影響があるなんて思わない。それに、今の二世検診なんて、あんなもので、何が分かるというのか。がん検診もない、ただ、ほんの少し血液を採るだけで。今行われているのは、アリバイ稼ぎの検査だ。
でも、染色体異常については、そうではない。被爆直後、沢山の被爆者が流産をした。流産のほとんどは胎児の染色体異常である。であれば、流産しなかった染色体異常の子が生まれる可能性はあるはずだ。詳しくは言わないが、転座型というのがある。本人は全く異状はないけれど、染色体だけ異常というもの。
これらを発表することが二世にとってよくない影響をもたらすのも分かる。差別につながる。でも、科学者は、人の検体を使って研究したなら、その成果は、検体の提供者にも示すべきだ。こそこそと英語だけでアメリカのみで発表されたのでは、日本ではほとんど注目されない。知りようがない。
もしも、本当にそんな恐れがあるのであれば、二世は、自分の染色体はどうなのか、調べればよい。もしもABCCで調べているのなら、自分の染色体の写真くらい、提供してもらってもいいはずだ。それを持って、自分の結婚や妊娠について、検討すればいい。結婚に反対する相手の親族に、自分の染色体はこうだから心配ありません、と示すこともできる。もしも異状があったなら、妊娠したときの流産の確率、全く正常な染色体の子を産む確率、自分と同じ染色体の子を産む確率などを自分でしっかり知ることもできる。
そもそも、強引にABCCにつれて行って、採血をし、裸にして調べた、それは何の検査をしたのか、一人づつに説明があったか。結果がどうであったか、それもデータの提示があったか。それがない以上、被爆者をモルモットにしたとしか言いようがない。
科学者は誰のために研究をするのか。やはり原爆という大人体実験をした、その成果を米国のために被爆者の体を使って調べ上げた。結果についても、シークレット。ちゃんと発表してくれない。私は、ABCCとはそういうところであったと思っている。

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コメント
河野先生、こんにちは。
私は、母が昭和20年生まれで、原爆が落ちた時はまだ赤ちゃんでした。自宅に残っていた祖父の無事を確かめるため、家族全員でいなかの疎開先から市内に入り、入市被ばくしました。
自宅で直接被爆し、家の下敷きになった祖父は奇跡的に助かり、天寿をまっとうしたという年齢まで生きました。入市被ばくの祖母も同じでした。
しかし、私の母は50代後半でがんで亡くなりました。
あまり詳しい検査はしてもらえない、それでも家庭の主婦のように他になかなか検診の機会のない人にとっては、被爆者検診はないよりましでした。
母のところにも、毎年、検診のご案内と検便の容器が送られてきていました。
しかし、無病息災が自慢だった母は数えるほどしか検診に行ったことがありませんでした。
検便という、ちょっと面倒ではあるけれど、体には負担のない簡単な検査、それさえきちんと定期的にしていたら、母は命までは奪われなかったかもしれません。しかし、腸は丈夫だから!と本人も周りも信じていたため、発見が遅れました。
私はそばにいた家族としてとてもとても悔しかったです。検便はもちろん万能ではないけれど、でも、私がもっと強く勧めていればと、今でも悔いが残っています。
実際に、被爆者検診の検便をきっかけに腸のがんが見つかったけど、発見が早く元気を取り戻したという話を聞いたことがあったからです。
母の病気が被ばくと関係あったかどうかそれはわかりません。でも、兄弟姉妹のなかで一番若い母が一番先に亡くなったことを考えた時、幼くして被ばくしたということが何らかの影響を与えたということの可能性をぬぐい去ることができません。
私は若い年代に入ると思われる被ばく2世です。
私はごく軽い先天性障害をもって生まれてきました。
それ自体はごくありふれた障害です。しかし、被ばく2世であるために、やはりどこかでわずかな関連でもあったら?と今さらどうしようもなくても考えてしまいます。
私の世代は、まだ学校の先生方のなかに被爆体験をもつ方がいらっしゃり、生の体験談を聞くことができました。祖父祖母伯父伯母からも色々と戦争のこと、原爆のこと、戦後の苦しい生活のこと、色々聞いて大きくなりました。
でも、今の20代ぐらいの若い人たちぐらいの世代になると、たぶん途端に、それらの体験談に触れる機会などが減ってきているように思います。
戦争や原爆が、「教科書のなかの出来事」になってしまっている感じがしてなりません。
偉そうなことを言っても、じゃあ、沖縄戦のことを知っているか、東京大空襲のことを知っているかと言われたら、恥ずかしいぐらい知りません。でも、せめて
「教科書のなかの出来事」ではなく、本当にあったこと、自分の大切な人たちが辛い目に遭わなければなられなかったひどい出来事だったと感じます。
ひとまず平和とされる世の中で、整った医療環境のなか、その時の最善とされる医療を受け、それでも遠いところへ行ってしまった肉親のことを思うと、それでも悲しくて悔しくてたまらないのに、いくら戦時下でいつ何が起こるかわからない時だったとしても、突然大切な人の命が消える、それがどんなに辛いことだっただろうかと胸が締め付けられます。
「よく知らない」は「何も知らない」よりは、知った時にそれをしまっておく引き出しがあるだけまだましなような気がします。
これからは私たちが、祖父母父母の世代の「もう戦争はあってはだめだ」という思いを何とか、1人はちょっとずつかもしれないけど、あきらめないで引き継いでいかないといけないなと思います。
投稿: 迷い人@広島っ子 | 2009年6月 7日 (日) 00時08分
迷い人@広島っ子さま
そうだったのですね。お母様、それはおつらいですね。あなたのそのつらくとも貴重な体験をどうぞ、大切にして、皆様に伝えてほしいと思います。思いをしっかり書いて頂いて、私もうれしいです。お返事遅くなってすみませんでした。でも、胸の痛い思いをしながら、読ませていただきました。また、直接お話しできるといいですね。こうのみよこ
投稿: こうのみよこ | 2009年6月10日 (水) 00時40分