「命の大切さ」を教えるということ。
性教育関連のある会議(としか言えないのがつらいところですが)で、若者の中絶を減らすための論議がされていました。そこで、あるドクターが、「体の仕組みなどをいくら教えても、中絶の減少にはつながらない。」と言い切りました。もっと「命の大切さ」を教えないと、と。
私は、体を知ることはとても大切だと思っています。だって、医療の現場で望まない妊娠をしてきた人たちに決まっているのは、体についてあまりに知らないということなのです。「知らないからこそ無防備な行動を取る。知れば知るほど行動は慎重になる」とこれは確固とした物になっているのですが。
私は、その場でちゃんとした反論を出来ませんでした。とてもいえる雰囲気になかったからです。でも、すぐに後悔しました。で、その会議が終わった後なのですが、その回の司会をされていた方にお話しました。
「命の大切さ」て何でしょうか。とたずねました。命の大切さを教えるということは、具体的には何なのでしょうか。中絶との関連は?と。そしたら、「中絶をしてはいけないということです。」と、答えられました。
「中絶をしてはいけないというのだったら、生んで育てる手立てを何か考えないといけません。」と言いました。「だって、先生ね、若者たちは、中絶があるからセックスをしているのではないのですよ。妊娠した若者たちは産む産むといいますよ。中絶は悪いこととおしえたら、それはもっとそうなりますよ。そんなとき、回りの大人たちが中絶を迫るのですよ。もし、中絶が悪いことなのなら、産んで育てよう、ということにならないといけません。中学生が産んでもいいのですか。」
本当にここのところがわかっていません。中絶は殺人だ、体に悪い、不妊になるかも知れない、と散々脅していたなら、おろせなくなるのは当たり前ではないでしょうか。若者たちの妊娠は、「妊娠という実感のないところでの性行動」の結果のなのです。セックスによって妊娠するということは誰でも知っています。その当たり前のことが自分のものになっていない、行動と結びついた、力としての知識になっていないのです。「これで私が妊娠する」「これで彼女が妊娠してしまう」と実感と結びついて行動してはいません。
だから、私は体を教えるということが必要だと思っています。「性というのは妊娠する行為。一回だって妊娠はする」ということも、それから、もう何回も言いました。月経週数の数え方、妊娠週数の数え方、いつまでが中絶可能であるか、いつが出産の予定日であるか、そんなことを教えるべきなのですね。それを知って何か悪いことがあるでしょうか。そんなことを教えると、若者をそそのかすことになると、なぜ言えるのでしょうか。
そして、昨日に続きます。こんなことをきちんと教育されなかったからこそ、今の大人たちの行動があるということも。だってちゃんとした避妊をしなければ、妊娠するというのは当たり前ではありませんか。
アメリカの副大統領候補のお嬢さんが妊娠五ヶ月だと話題になりました。でも、中絶反対派の彼女だから、ちゃんと結婚させて生ませるから、と。でも、おかしいと思います。だって、中絶反対の彼女たちの主義は「ノーセックス」なのです。結婚するまでセックスはしない、それが正しい教え方なのだと、そういう主義です。だって、同時に避妊は「悪」とされていますので。「避妊をしてのセックスは悪」で、中絶も悪で。ただただ結婚してのセックスのみ正しいとしている、それを見事に裏切って、高校生である娘が妊娠した、と。そこの所の説明は何もしていません。とてもプライベートなことなので、あまりそんなことは言わないほうがいいかも知れません。だったら、人々の前に妊娠している彼女やボーイフレンドまで引っ張りだして、人々に手を振るなんてことをしなければいいのに、と思います。だって、ノーセックスの破綻の姿をさらしているのですから。
私は、中絶と言うのは、産んでも育てられない妊娠をした女性の救済策としてある、ということをも教えないと、卑怯だと思うのです。セックスしたら妊娠するということを教えないで、避妊も教えないで、そして妊娠してしまったら、中絶は悪だと言っていたたはずなのに、大人たちが寄ってたかって「おろせおろせ」と言う。もう、彼女たちはぼろぼろに傷付いてしまいます。
何回も繰り替えしてすみません。でも、本当にこの事をわかっていただきたいのです。軽々しく「命の大切さ」なんて言わないでほしい。「中絶は悪いこと」と教えることが「命の大切さ」を教えることだなんて、違うでしょう。繰り返しになっても、それでも、やりきれない思いで、これを書きました。私が個人的に話した先生は、とても柔軟性のある方ですので、わかってくださるだろうと思います。でも、なかなかしんどい会議です。
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コメント
河野様
匿名で申し訳ございません
高校のときに拝読した河野様の著書を読んで救われた気持ちになり
またこうやって今でも望まれない妊娠について妊娠する側の立場に立って行動されていることを知り
とてもうれしく思いました
今回の日記も何度も見返したいと思います
本当にありがとうございます
(お忙しいと思われますし、あらかじめ返信は辞退いたします)
投稿: まき | 2008年9月19日 (金) 03時38分
まきさま
ありがとうございます。
強気なことを書いても、現実には、バッシングでへこんでいたりもするのです。そんなとき、まきさまのようなコメントを戴くことが、とても励ましになります。ありがとうございます。河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2008年9月21日 (日) 10時16分
(生んで育てる手立てを何か考えないといけません)
これは沢山ありますね?
ただ周囲の人は「できちゃった婚」これを良い物だと思ってない、反対する人が多い。本人達も少なからずそれはあると思います。子供の事を最優先に考えず、自己防衛に走る。
一番大切なのは本人含め、周囲の「決意の無さ」が問題ではないかと。
その決意に至るまでに、貴女が言う(知らないからこそ無防備な行動を取る。知れば知るほど行動は慎重になる)このことを各テーマに沿って一つ一つジャンル分けし、簡単で心に突き刺さる言葉を私達が考え、それを教え込む
。
これが一番、より確実で中絶を減らす運動に繋がるのではないかと考えます。
投稿: | 2012年6月 5日 (火) 19時43分
産んで苦労するか、産まなくて一生、後悔し続けて苦労するか、考えなくても結果は一つしかないのにね。
これを親が教えないと駄目。
投稿: | 2012年6月 5日 (火) 21時19分
何度もコメント申し訳ありません。
決意の問題。
命、云々も凄く大切だけど。
本人達の決意、親(周囲)の決意、の問題が、今の現状を作っているのかもしれませんね。揺るぎない決意が無い。
結局の所、親は世間の目が気になるから「出来ちゃった婚」を反対する。
命は大事だと分かってはいるけど、目に見えない命だから実感がない。その為、自己防衛にはしる。
そもそも親も子も思春期時代に日頃からチャントした現実(出来てしまった時の周囲の批判や差別があること、中絶後の批判や差別もあること)を教えてもらっていなかったのでは?※勿論その逆も教えないと駄目です。
それを教えない原因は、またその親も命の大切さより、周囲(家族)の反応が気になって言えない。
大人も子供も、知らないからこそ無防備な行動を取るし、何事も知れば知るほど行動は慎重になる。貴女の言葉その物ですね。
そこに初めてちゃんとした決意が生まれると思います。
投稿: | 2012年6月 5日 (火) 21時52分