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おっぱいを創る(1)

 久しぶりにやって来たAさんが、弾んだ声で言った。「センセ、おっぱいできたよ。」と。そして、胸を開いて、おっぱいをポロリと出した。ふっくらとしたいいおっぱいだ。でも、「あれ?あなた、もうおっぱいは出来てなかったっけ?」と言ったら「ウン。食塩水のバック゛を入れてね。でも、それを出して、これは本物の私のおっぱい」と言う。

 彼女は、性同一性障害で、高校生の時から、私のところに来ている。初めは、ミニスカートにルーズソックスの制服で、それはかわいかった。私のところでは、同じ病気の人のホルモン治療を沢山している。女性ホルモンを注射したり、内服薬を出したり、逆に男性ホルモンを必要とすれ人もいる。でも、彼女は、あまりに女そのもので、あまりホルモンを必要としない。顔も声も体形も。

 時々、節目節目にやってくる。高校を卒業後の就職の相談。それから、睾丸を取ったとき。初めのおっぱいを作ったとき。それから、いよいよ本格的な手術で、女性の体になったとき。「先生、見て見て。」と。名前はすでに家裁で変わっている。今度は、総仕上げとして、性別の変更だ。それを控えて、またおっぱいを作ったと。

 触ってみて、びっくりした。しっかりと弾力がある、でもふわふわとして気持ちのいいおっぱいだ。何?これ!と言ったら、「わたしの脂肪」という。よく聞いたら、以前に入れたバッグを引っ張り出して、そこに自分の脂肪を入れたと。脂肪は、肘から上腕の、そしてへそから、下腹の脂肪を吸引して、それに定着剤を混ぜて、バストに注入したのだと。でも、脂肪はなくならないの?と聞いた。それは、大丈夫なのだと。しっかりと定着するのだと。私はうなった。なんと立派なバストなのかと。そして、なんと見事な方法なのかと。

 この分野は、進歩が著しい。でも、私たちはそれらの情報を、患者さんから得るしかない。それは、ほかの患者さんへの情報となる。

 彼女は、今、完全に女性として就職している。誰にも性の変更をしたということを知られないで。でも、ここまで来るには大変な道のりだった。大体、体を作り変えようとすると、若くしてお金がいる。それを作るためには昼も夜も働かなければならない。大変な頑張りで、ここまで来たものだから。よくやったね、でも、良かったね、としっかりほめてあげた。

 明日は、逆の場合。女性のバストを男性のバストにした人のこと。これも、びっくりして、うーんとうなったので。その報告をします。

広島ブログ

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コメント

 私も数年前、乳房の形成術後を見た事があります。
乳頭は本人の物を形成して作ってありましたが、組織が壊死しかけていたのでその後どうなったのか分からないので心配ではありました。
 今では、刺青乳頭も出来るんですね。
 その子の母親は精神的にショックだったのか体調を崩し入院、それとは反対に生き生きした彼女(彼)が、印象的でした。

 書店に今生きる底力を子供たちに!を注文しました。読み終えたら続編を注文してみようと思ってます。

 先生の手の調子は如何ですか?
先生の手術当日に…御自分の手術前、先生の患者さんの手術を済ませてから ご自分の手術をされた事…もう言ってもいいですよね。
 自分の骨折の痛みに耐えながら、患者さまの手術され…想像に耐えません。そして骨折した手で患者さまの手術で使った為に、先生の手の骨がずれたり、腫れたりされたんですね。患者様に尽くす、そのお気持ちは特別です。言葉には表せません。
 
 先生の大切な体も一つです。頼りにされている皆さんの為にもどうぞご自愛を。

投稿: mariirn | 2008年8月27日 (水) 23時35分

maririnさま
ご無沙汰しています。また、もうすぐ手術に行きますので、どうぞよろしくお願いします。ええ、刺青というのは、これだけでなく、まだいろいろに使われるようになったのだそうです。たとえば、やけどなどで眉が泣くなってしまった人に刺青で眉を書くとか。
 手はもう少し痛みが残っていますが、ほとんど大丈夫です。ご心配をおかけしました。コメント、ありがとうございました。河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2008年8月28日 (木) 08時34分

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