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緊急の患者さんです。受けていただけますか。

 昨日新患できた若い女性から電話が入った。ひどくお腹が痛いと。すぐ来なさいと答えて、来院を待つ。痛いというだけで大体の予想が付く。昨日、妊娠反応が出ても、子宮内に妊娠している袋が見えなかった。このようなときは、①まだ早すぎて見えない場合。②子宮外妊娠の場合。この説明をして、もしもひどく痛いとか、出血があるとか、何かあったらすぐに連絡をするようにとよくよく話をしていた。

 病院に来たとき、彼女は歩くのもつらそうに痛がる。すばやく、あれこれ検査と診察で、もう間違いない、子宮外妊娠だ。それも、もうお腹に出血が始まっている。

 で、本人と話した上で、大学病院の産科婦人科に連絡をした。

 今日話したいのは、この時のことだ。

 「救急の依頼です。病棟医長かどなたか、責任者の方を、」と告げて待つ。そして電話に出てきた若い男性のドクターに「子宮外妊娠の疑いが極めて強い方です。受けていただけますでしようか。」と言った私に、彼は

「もちろんですとも。診させていただきます。どうぞ、来ていただいてくださいませ。」

と。私は、感動した。「もちろんですとも。」とか「診させていただきます。」こんな言葉は聞いたことがない。いつも緊急の患者さんをお願いするときには、こちらが小さくなって頼む、そんな癖がついていた。だから、うれしかった。涙が出そうだった。

 さらに、大学病院の地域連携室にFaxを入れる。患者さんの名前、生年月日、保険証番号などの情報と、走り書きで「産婦人科に連絡をしています。今から救急車で搬送します。子宮外妊娠の疑いが強い方です」と書いて。そしたら、本当にすぐすぐに電話が入った。「カルテを作ってお待ちしています。産婦人科からも連絡を頂いています。どうぞ、つれてきてあげてくださいませ。」と、それはていねいな電話だ。

 ここの地域連携室は、いつもテキバキと対応してくださって、本当に信頼できる。聞けば、ベテランの婦長(今は師長)を何人か配置していると。救急の場合でも、こうして電話を一本いただけることが、どれだけ心強くありがたいことか。またまた感謝で、電話の前で頭を下げる。

 で、救急車もすぐに来てくれたし、ナースが一人付いて、無事大学病院に運ぶことができた。

 今も、そのときのやりとりを思うと、涙が出そうだ。大学病院も変わった!!昔はとてもえらそうだった。今日うちに帰ってその話をすると、夫は、「大学病院といえども、客商売になったということか。」と言う。「いや、時代が変わったんだと思うよ。病院もいろいろと評価される時代になったんだから。」と私は言う。

 まさか、大学病院が患者さんがいなくて、患者さんを送ってくれることがうれしい、と、そんなことではないよね。たとえ病棟がいっぱいで、困難でも、とにかく患者さんは受けなさい、断ってはならない、という指導がいきわたっているのか。それにしても「もちろんですとも。診させていただきます。」と言ってくれたドクターの対応は、これは、彼の人間性がにじみ出ていたものと思うわ。きっとステキな育ち方をしているのでしょうね。そんな話を夫とした次第だ。

 先日の当番医で情けなかった話と正反対の、うれしかったことをお伝えしたくて。私も他の人から依頼されたときには、そんな風な、相手がほっとするような受け応えができる、そんな人間になろうと、あらためて思った。

広島ブログ

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コメント

「もちろんですとも。診させていただきます。」

本当に素敵な対応だと思います。この頃公務員や政治家が“したり顔”で「してやるのだ」「聞いてやるのだ」「それくらいなこと分かってるだろう」などと横柄な口を利きます。

かつて小泉さんも総理の時「そんなこと私に分かるわけないじゃないですか」と、木で鼻をくくったような対応をしたことを思い出します。

その理由は恐らく
「私は毎日大変忙しい職務をこなしているんだ。そんな細かいことをいちいち相談されても応えられるわけないさ」
「あなたたちは政治家や公務員の忙しさを知らないんだ」

みんなみんな説明不足です(都合の悪いことは隠します)。
礼儀を知りません(知ろうとしません)。
それが彼・彼女らの(仲間内の)特権意識です。

そんな中、素敵な対応をされる方に出会うと嬉しくなってしまいます。ちょっとくだけると“CHANGE”のキムタク総理みたいなキャラクター。

河野先生の話からそんな連想をしてしまいました。

投稿: h-masui | 2008年7月 3日 (木) 06時44分

このような若いお医者さんがいらっしゃるのですね。どのような育ち方をされたのか。相手を思いやる言葉、適切な判断、素晴らしいですね。
私の家庭医は私と同年齢ですが、今日のお医者さんのような心を持ち、行動のできる方です。特に高齢者に心遣いができます。しかし、儲けるほど薬を出さず、様子を見ながら、少しずつ症状に合わせて薬を出す方です。カトリックの信者さんと聞きました。

投稿: eastwaterY | 2008年7月 3日 (木) 06時52分

はじめまして。
先生の病院には、かれこれ20年近くお世話になり、いつもブログも拝見しています。
広島大学病院の事を拝見しながら、嬉しくてコメントさせていただきました。
私も昨年末から、広大にかかり2ヶ月通いました。担当の先生他、どの先生もしっかり話しを聞いた上、色んな方向性から原因を探して下さり、今はいい方向に進んでいます。実際に行く前は、あまりいい話を聞いた事がなかったので、嬉しさ倍増でした。
長々と書いてしまい申し訳ありません。
暑い時ですので、くれぐれもお身体には気をつけてお仕事頑張って下さいませ。

投稿: マフィン | 2008年7月 3日 (木) 08時21分

感動ですね!今は近くの総合病院ですら、救急を受けてくれなくて、また遠くの救急のある病院に運ばれるのに。
小さな呉市でもこんなことがあるのに。
広島市は素晴らしいですね!
今でも偉そうな勘違いした研修医がいますが、その若い医師の先生は本当に素敵な方ですね!
そんな医師がどんどん増えて、病院も時代に合わせて
変わっていくといいんですしょうね!

投稿: さや | 2008年7月 3日 (木) 13時05分

よかった。
前回の記事を拝見していたので、タイトルを見たとき、またあのようなことが起こったのかと心配しました。
とっても気持ちよく読むことができました。
今後もこういう場面が増えていきますように。。。

投稿: mejiha | 2008年7月 3日 (木) 15時44分

コメントありがとうございましたっ。
嬉しかったデス。。。
まけん子のブログのコメントのお返事にも入れたんですが、まけん子が中学の時、先生には何度もお会いしてたんですよっ。  
当時・・・先生の性教育のお話は、中学生の時、ある意味ビックリ。ある意味ショッキングーでしたわっ。
でも・・・すっごく解りやすい話だったことと、女は自分の体を大切に思わないといけない・・・教えていただきました。
これからも、何かと頑張ってください。
また、まけん子ちゃんのブログにも、ぜひっ遊ぶに来てくださいねっ。。。
 
 

投稿: まけん子ちゃん | 2008年7月 3日 (木) 18時51分

いま、先生のクリニックのすぐ近くで仕事中です。
この記事を拝見して不覚にもじわっと涙ぐんでしまいました。
(・・・つまりサボってるんですな^^;)

「もちろんですとも」
なんと暖かいお言葉でしょう!
私が何年も前に急激な腹痛で先生にお電話を差し上げた時、
「すぐにいらっしゃい!」
とおっしゃっていただきました。
痛みと心配でパニックになっていたときの
先生のお言葉がまだ耳の奥に残っています。
あのときの心強さが甦って来ました。

すぐそばにいながら、
なかなか検診にいけないのがくやしいです。
今月中にはなんとかガン検診を受けに行きますので、
よろしくお願いします!!

投稿: Hoch | 2008年7月 4日 (金) 11時13分

 困っている時に、予想以上の対応をしてもらうととても嬉しいですね。これって商売に大きな参考になる話ですね。

投稿: はるく | 2008年7月 4日 (金) 11時49分

学生の立場から見ても、大学病院でそういった対応ができるのは、すごいことだと思います。
広島大学の病院ですか?
システムと同時に、たぶん設備などもいいのでしょう。

しかしやはり全国的にはまだまだ大学病院に変化はないように感じます。私は地方の国公立の大学に所属していますが、救急はほとんど受け入れないという状況です。医者不足もあり、難しいことだと感じています。

投稿: みやび | 2008年7月 4日 (金) 20時03分

思わず涙。。。
感動しました。
一刻一秒を争う医療現場で丁寧な言葉遣い、気遣いができるということは、きっと普段の生活でもきちんとしている方なんでしょうね。
言葉の端々からその方の人間性がにじみ出ていると感じました。
心がとても温かくなりました。
そして、見習わなくては。と感じました。

投稿: ぷりもこ | 2008年7月 5日 (土) 00時02分

地元(もう亡くなられたとはいえ)の産婦人科のことです。嫁ぎ先の母の言うコトには・・・彼女の娘(私にとっては姉にあたる)は個人経営のこの医院にかかり・・・
「外妊がわからず、子宮管破裂でもわからず、死にかけた。だからあなたは総合病院にしなさい」・・・と。子宮管破裂で出血多量の上、血圧0になったそうです。幸い近くの総合病院がすぐ受け入れしてくださったんで助かりました

先生のお話と同じく、かなりお腹を痛がったそうですが・・・・

二十数年前の話です

たぶん・・・ここの総合病院は医師さえいらっしゃれば、受け入れされます。でも産婦人科はなくなったんです。あるのは婦人科のみ。
小児科も大学病院の通いの医師のため、救急受け入れなしです。

こうした地域の場合、行政側から救急受け入れを受け入れ先の行政にお願いしてくださると助かるんではなかろうか?!と思います

先生・・・広島市は恵まれているんですよ
100万人都市ですからでしょうかね

地方・地方が大事と言いつつ・・やはり置き去りのような気がします

でも今日のお話は昔の大学病院のようで・・良いお話だと読みました

お医者様個人は理想を持ってお仕事されてるんだなぁ・・って。

投稿: 匿名です | 2008年7月 5日 (土) 00時08分

h-masuiさま
そうなんです。本当にうれしかったです。翌日には、ちゃんと手術を無事終えました、との連絡もいただきました。ありがたいことです。今日は暑くなりました。農作業、どうぞ脱水にお気をつけてくださいませ。河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2008年7月 6日 (日) 09時33分

eastwaterYさま
続いてのコメント、ありがとうございます。本当に命の根幹にかかわるところでの、人の対応ということの大切さを、今回のことでまた学ばせていただきました。ステキなかかりつけ医はどなたなのか、いつか、そっと教えてくださいませ。情報として知っておきたいですね。こんどお会いできますか。河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2008年7月 6日 (日) 10時14分

マフィンさま
そうですか。大学病院に通われたのですね。昔と違って、どの科でもとても親切になっていると思います。今回、ことさらそれを痛感しました。あの、どなた様でしょう。今度こられることがあったら、教えてくださいね。よろしく。河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2008年7月 6日 (日) 10時26分

さやさま
そうですね。まだまだ医療界は改善すべきことが沢山あります。大学は、新しく医療人になる人を教育するところだからこそ、対応にも気をつけているのかも知れません。でも、うれしかったです。親戚に新しい命が生まれるのですね。うれしいことですね!河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2008年7月 6日 (日) 10時39分

mejihaさま
はい、本当にうれしかったです。とともに、以前のあのドクターたちの対応は、一体何だったのだろうか、と。今もトラウマになっています。mejiha様、お互い、ブログ大切にしましょうねえ。河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2008年7月 6日 (日) 10時42分

まけん子ちゃんさま
コメントへのご丁寧なお返事も、ここへのコメントもありがとうございます。もう面白くて、私、まけん子ちゃんのブログの大ファンですよ。これからも楽しいブログをよろしく!!河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2008年7月 6日 (日) 10時46分

Hochさま
すぐ近くで働いているのですねえ。この間知りました。今度、職場を覗いてみますね。いつか、無理をしないで健診に来てくださいね。河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2008年7月 6日 (日) 10時48分

はるくさま
ええ、まさに医療もお客様あっての医療、と、そのあたりにやっと気づき始めたところだと思います。特に、産婦人科はお産、それに対してのサービスというところで、患者さんから選別される、そうなって来たのだと思います。それは、どの科にもこれから問われてくるでしょうね。河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2008年7月 6日 (日) 10時52分

みやびさま
ええ、広島大学の大学病院です。産婦人科だけでなく、先日、ほかの科の移植をされているドクターに、患者さんと一緒に話しをうかがうことがあったのですが、とても丁寧で、本当に感動しました。だんだんと医療界全体がかわりつつあるのではないでしょうか。もちろん、医師不足の医療崩壊の問題はありますが、同時に、医療者の姿勢も問われることになっていると思います。コメント、ありがとうございます。これからも、時々覗いてくださいね。河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2008年7月 6日 (日) 10時57分

ぷりもこさま
ええ、私も今思い出しただけで、涙が出そうです。私たちも見習わなければ、と思います。コメント、ありがとうございます。河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2008年7月 6日 (日) 10時59分

匿名ですさま
大変だったのですね。昔は、子宮外妊娠というと、命にかかわるようなことでした。今は、妊娠反応が手軽にできるし、超音波も進歩したので、早くに分かり、対応できるようになりました。でも、医師不足、困ったことですね。行政が患者さんの受け入れをほかの行政に頼むというのは、なかなかできないだろうと思います。病院側が、行政の言うことを聞かなくなっていますので。自分で日ごろから情報を集め、防衛するしかなさそうです。コメント、ありがとうございました。河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2008年7月 6日 (日) 11時04分

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