高齢者の終末期医療費が医療費を増額させているのではない。
以前、終末期の医療費について一度書いたので、少しダブルところがあります。
「高齢者の医療の確保に関する法律の解説」という本があります。これの編著は、厚労省高齢者医療制度施行準備室室長補佐の土佐和男さん。例の、石川県での講演で「医療費が際限なく上がっていく痛みを、後期高齢者が自分の感覚で感じ取っていただくことにした。」と言った人です。
この本の中に<後期高齢者が亡くなりそうになり、家族が一時間でも一分でも生かしてほしいと要望して、いろいろな治療がされる。それが、かさむと500万円とか、1000万円の金額になってしまう>と書かれています。
ところが、東京医科歯科大学の川渕孝一教授が10万例以上を調査した研究リポート「高齢期を支える保健医療システムにかんする一考察」によると、死亡前一週間にかかった平均医療費は、悪性新生物が32.8万円。心疾患が38.9万円。脳血管疾患が22.3万円であったと。
また、昨日述べた毎日新聞のシリーズによると、厚労省が02年に死亡した人を対象に、死亡一ヶ月前の医療費を計算すると、約9000億円との結果だったと。これは、国民医療費の約3%に過ぎなかったと。日本福祉大の二木立教授は「そもそも日本の医療費がアメリカに比べて少ない理由のひとつに、終末期医療の医療費の少なさがある」と言っています。
なんだか、医療の進歩により、高額な先端医療のもたらす医療費の伸びを、高齢者の方たちのせいにして、お年寄りをいじめていると、そうなのだと思います。だって、後期高齢者終末期相談支援料2000円なんて、本当に馬鹿にしていると思います。終末期の医療が医療費を増額しているのではないのですから。
そもそも、このような終末期医療をそれもお年寄りのをもっと医療費をかけないようにさせる、その考え方に根本的な問題があります。
厚労省は、「後期高齢者にふさわしい医療」として、「心身の特性」を次のように挙げています。①治療の長期化と複数の病気②認知症③いずれ避けられない死を迎える、と。
どうせ死ぬんだから、あまりお金をかけないで、じたばたしないでさっさと死になさいよ。厚労省や政府与党は、こう言いたいのだとしか思えません。
お年寄りの病気だって、治療によって回復する人のほうが多いのだし、75才以上の方の認知症は、7%に過ぎないのですよ。みんながみんなぼけるわけではありません。そりゃあ、誰だって、今若い人だって、みんないつかは死んでいくのです。だからこそ、死を目前にした人に、情けない想いをさせてはいけないでしょう。
舛添厚労大臣は、盛んに「75歳を超えると、とたんに医療費が増える、これは医学的に証明されている」というようなことを言っています。とんでもない。そんなデータはどこにもありません。医療費は65歳以上は年代別になだらかに上昇しているのであって、決して75才のところに段差があるわけてはありません。あえていえば、64歳までと65歳からのところに、段差が見られるのです。64歳までが25万円。65歳以上が年間約66万円。70歳以上が約73万円。75才以上が約81万円となっています。【厚生労働白書図表2-1-2 年齢階級別1人当たり医療費(2004年度)ー資料:厚生労働省大臣官房統計情報部「国民医療費」(2004年度)】だから、高齢者医療として別立ての保険点数をつけるのであれば、65歳でくぎりをつけるというのであれば、根拠がないわけではありません。75歳に線引きをするその理由がわかりません。
それから、これも毎日新聞に出ていたことです。政府はこのままでは2025年度の国民医療費が現在の倍の65兆円になるとして、数々の抑制を行って来ました。しかし、25年度の65兆円は国民所得の12~13.2%と推計されると。04年度でも医療費は国民所得の8.9%。経済成長で国の「財布」の大きさも変わるため、名目額は倍増でも実質額はそれほど増えない、ということです。
このように、数字というのは、使いようによって、いろいろに変化するものなのです。だから、私たちはだまされないように、きちんと自ら検証すべきだと思うのです。このブログが、その一助になれば幸いです。
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コメント
ここ数日めったやたらと雑用があり、PCもあまり開くことができませんでした。
そんな中、今日は午後から雨になるとの気象情報だったので、朝6時から黒豆の種まきをし、タマネギやニンニクを収穫した後の黒マルチを撤去してトラクターで耕すという、農業に世話を焼きました。
すっかり「お疲れました」
私がこんなことをしたから雨が降ったのではなく、雨が降りそうだから・・・・・蛇足です。
ところで、先生の「高齢者の終末期医療費が医療費を増額させているのではない」という解説は、本当にわかりやすく、その訳が定量的な数値で示されているところがとても説得力があります。
では舛添大臣をはじめ、厚生労働省はなぜデタラメな発言や言い訳をするのでしょうか?
舛添大臣の場合は、阿倍内閣からの横滑りで大臣を務め、医療費はもちろん年金調査でも大きな黒星が目立ちます。彼は「テレビタックル」で田嶋センセイとバトルやってるくらいがお似合いではないでしょうか。
無知ならまだしも、ちゃんとその訳を承知していながら何故このように国民を愚弄するような発言を繰り返すのでしょうか。
河野先生のブログの中に(と言ってもこれまでのものをずっと読んでいると・・という意味ですが)その訳は示されていますが、私たちは自分自身でもキチンと分からなければいけないと思います。
もしこのコメントを読まれ方は(釈迦に説法かもしれませんが)考えてみてください。
またまたエラそうなこと書いて失礼しました。
投稿: h-masui | 2008年6月28日 (土) 19時08分
こんにちは。
前回の記事にこういう硬い文章は読む人を疲れさせると思うけど・・とありましたが確かに(笑)
でも、私は知らないことが多すぎて、ここを読んでは「そうだったのか!!」と合点がいくことが多くて(疲れるけど)こういう話大歓迎です。
いろいろ考えるきっかけを与えてくださってありがとうございます。
投稿: つゆまめ | 2008年6月28日 (土) 21時11分
h-masuiさま
農作業お疲れさまです。でも、私にとっては、退職後に農業をするという、理想的な生活をされていることをうらやましくもあります。後期高齢者医療制度については、もっともっとおかしいところがありますので、また書きますね。どうぞ、これからもよろしくお願いします。河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2008年6月29日 (日) 21時11分
つゆまめさま
励ましていただいてありがとうございます。ずいぶん元気が出ます。またがんばって書きますので、これからもよろしくお願いします。私の出版記念会、みやかぐさんのイベントが近くて、ご無理でしょうねえ。きていただくとうれしいのだけれど。河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2008年6月29日 (日) 21時13分
政府は、最終的には消費税増税やむなし、強引に持って行きたいのだと思われますね。
小泉さん自体が「消費税を上げてくれと国民が言うまで社会保障をカットする」などと言ってます。
だから、年寄りに金がかかる。だから、消費税増税か、医療費カットか?と迫る狙いだと思われます。
しかし今の自民党を前提にすれば、消費税は社会保障には回らない。
お金持ちや大手企業減税の穴埋めに回るのが落ちでしょう。
大手企業に減税した分が国の赤字になり、それを国債をかってもらい、また大手企業やお金持ちに利払いする。
その穴埋めに消費税も社会保障カットもつかわれるのが関の山です。
最初からお金持ちに税金をきちんと払ってもらえば、官僚の無駄を省きさえすれば済む話。
それをしないから、かなり手の込んだトリックを弄し、国民を苦しめているのではないか、と思われます。
投稿: さとうしゅういち | 2008年6月30日 (月) 22時50分
河野先生、久し振りに「広島ブログ」に帰って
きました。はじめの出会いは塩じいさまでした。
正に後期高齢者79歳のrekoです。この歳で
ブログを発信するものは少ないのでより多くの
趣味に繋がる友人を期待して「美術ブログ」に
エントリーしていますが、全然反応なしです(笑)
車に乗れない老夫婦の後期高齢者、一病息災で
静か過ぎる生活に刺激が欲しく、ブログ遍歴を
繰り返しております。
古い団地は高齢化が進み、静か過ぎます。
75歳以上の後期高齢者、若い時とは体力に自信
はありませんが特に線引きする必要はありませんね。
突然、送られて来た保険証、天引きされる介護保険
と医療保険で、最近は何を節約しようかと頭を
悩ませております。
欲張りな老ブロガー、先生の説明に納得です。
塩爺さま、相変わらず、お元気そうですね。
投稿: reko | 2008年7月 2日 (水) 10時40分
さとうしゅういちさま
本当に、どうやって国民からお金をむしりとるか、それが政治の中心になっています。いいかげん、国民も気づかなければならない。大企業やお金持ちの人のための政治ではなく、真に国民のいのちのために政治をせよと声をあげなければ、と思います。お元気そうでなによりです。河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2008年7月 4日 (金) 07時46分
recoさま
コメント、ありがとうございました。ブログ、拝見いたしました。何とねステキな絵の数々でしょう。このような静かな充実した生活を送る方の生活を、さらに苦しめる一方の政治、このたびの後期高齢者医療について調べれば調べるほど、知れば知るほど、怒りがこみ上げてまいります。どうぞ、広島ブログ、これからもよろしくお願いします。shiozy、相変わらずお元気で、ステキです。これからもどうぞよろしくお願いします。河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2008年7月 4日 (金) 07時52分