天井からアンパン-ああ、宮迫千鶴さん!!
宮迫千鶴さんが亡くなったと、今日の新聞が一斉に報じていた。ああ、知らなかった。彼女の具合が悪いとは、まったく知らないままに、この訃報に接することになってしまった。早すぎる。若すぎる死だ。
彼女との思い出は数々とある。知り合ったのは大学時代。彼女は広島女子大で、大学は違ったが、あの全共闘運動の中で、違う学校の人たちもよく広大に来ていた。しかし、本当に話がはずむのは、もっと先になってからだ。彼女が画家、文章家として世に出た後の話だ。
この本は、1988年、今から20年前に京都の松香堂出版の、全608ページのでっかい本である。ボストン、女の集団が出した本を、松香堂の中西豊子さんが中心になって、プロジェクトチームを作り、多くの関西を中心とした女たちが翻訳などに携わった。50名近くの女たちが大変な格闘をして、三年間の時を経て、出版にこぎつけた本だ。
この表紙は宮迫さんの作である。私は、本全体を通して医療面の校閲を行った。この本のしょっぱなに、私は「日本語版発刊に当たって」Ⅰ女から女へのメッセージという文章を書いている。Ⅱが荻野美穂さん、Ⅲが藤枝澪子さん。20年前。まだみんなが若かったころだ。
以後、何回か宮迫さんと会い、話をし、また会わずとも、さまざまなメッセージを送り、送られてきた。中でも、私の「さらば悲しみの性」をめぐって、フェミニズムの学者さんたちといろいろとあって私がしんどかったとき、彼女が心配して、がんばれと言ってくれたときのその暖かさがとてもうれしかった。
また、私が勤務医をしながら、性教育の講演に走り回っていたとき、「河野さんは、時には、林の道を歩いて、土や木に触れるような生活をしないと、このままではつぶれてしまう。」と、人を介してアドバイスをしてくれた。伊東の田舎にすんで、そんな生活をしている彼女をうらやましいとは思ったが、私はとてもそんなゆとりのある生活ができなくて、ずっとそのままだ。
彼女の著書、「超少女へ」「ママハハ物語」は、クリニックの図書においていたが、今日探してみると、ない。ただ「サボテン家族論」があるだけだ。一体、どこに行った?私は彼女の本が好きだ。中でも、少女時代、性に目覚めるころの学校での出来事はとても楽しくて。広島のカソリックの女子校での出来事だから、身近に感じることができるという面もあった。女子ばかりの学校で、男性がとても気になる。学校にパンを売りに着ている若い男性が気になって、何人もが近づいて話しかけたり、という様子がおかしい。
また、女子高に赴任した若い男性教師、自意識過剰で女子生徒を見ることができない。天井ばかり見て授業をしていたその教師に、生徒たちが天井からアンパンをぶら下げていたのだと。そして知らん顔をして授業を受けたのだと。これは、宮崎さんの先輩たちの仕業で、彼女がそれを聞いて、いたく感心したと書かれていた。私にもこれは強烈な印象を残した。天井からアンパン、これって、最高のいたずらだ。これ以上の面白いいたずらはないのでは、と思っている。こんな楽しい話をも書く人だった。
「サボテン家族論」これには、今をときめく「上野千鶴子」さんの文章への痛烈な批判が書かれてもいる。「この文章を読んだ時、私は都会の真ん中でスカンクの強烈な臭気ガスにあてられたような気がした。何しろひどい文章である。「認識」も「論理」もでたらめだ。あまりの驚きに、私はつい、何度も芸をさせられたのに約束のバナナがもらえないチンパンジーが抱え込んでいるであろうフラストレーションについて考えてしまったほどだ。こういう人の「性の解放」はどうやら主体的には「性的抑圧」と思い込んでいるものが、客観的には「性的無知」であるにもかかわらず、その「性的無知」をそのまま社会にさらしていることのようである。」まだまだ痛烈な批判が続く。あの上野さんををここまで言い切ることができるなんて、なんとすごい人であるか、と感嘆したものだ。
ああ、しばらく話をしないままに、突然の訃報は、つらすぎる。また、ステキなやさしい味方を失ってしまった。合掌。
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コメント
人間の死
宮迫千鶴さんが亡くなられたこと、私も昨日の新聞で知りました。面識は全くありませんでしたが、絵を描いて、文章を書いて・・エッセイも鋭くて優しいと思っていました。河野先生とお知り合いとは知りませんでした。
それにしても60歳は残念です。人間は"生まれた瞬間から死への秒読みが始まる”ことは分かっているのに、そのこと「死」を意識することはありません。不思議なことですが、それは人間の生きるということを優先させるDNAのせいなのでしょうか。
私の父は54歳で旅立ちましたが、父の年を越えること10歳、多分彼の生きた時代よりはるかに住みやすく(物質的にだと思いますが)描いて・書いて・読んで・遊んで・釣って・語って・飲んで・・・遊び呆けている自分。
高校の同級生の物故者も9/96で、そのうち女性1/9と、圧倒的に男性が早く亡くなっています。同じように子孫を残す能力を持ちながら、出産できるのは女性だけ。
子供を成人させるために、女性の生命力がより必要という仕組みなのでしょうか。男性としては少し淋しい気もしますが、そうそう、近所に一人暮らし96歳のおじいちゃんが健在で、私はその方の田んぼ7.5aを借りて農作物を育てています。
その元気なおじいちゃん、秘訣はできるだけ人の手助けを受けないことだと言って、草刈をしたり、トラクターに乗ったり(私は危ないから止めてと言うのに、聞く耳もたずです)こんな人生もあるのですね。
宮迫千鶴さんの訃報、河野先生の追悼の言葉から、いろいろなことを回顧したり、考えさせられた6月23日の朝です。
投稿: h-masui | 2008年6月22日 (日) 06時28分
コメントの文末、間違いに気がつきました。ボケの始まりでしょうか。
6月23日朝 → 6月22日朝です。失礼しました。
投稿: h-masui | 2008年6月22日 (日) 06時31分
h-masuiさま
早速にコメント、ありがとうございます。人の死は悲しいです。自分もいつかは避けられないのですが。それにしても、友人たちを次々となくしていく年になったということですよね。今を充実して生きようと思います。宮迫さん、いい人でした。河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2008年6月22日 (日) 18時47分
宮迫千鶴さんというキーワードでこのブログに辿り着きました。広島から千葉に越してきて22年。広島にいた頃から河野さんのご活躍存じ上げていました。 宮迫さんは、中高の同級生です。彼女の「少女物語」を、本来の主旨は主旨として、少女時代の思い出として読んでしまいます。 宮迫さんがライフステージのその時その時に提示してくれるものに、刺激され、共感し、励まされ、癒されてきました。早すぎる訃報に、呆然としました。辛くて、残念です。
投稿: oxalis | 2008年6月25日 (水) 21時26分
私も、80年代に「ママハハ物語」をはじめ数々の本に励まされてきた者です。お会いしたこともないのに、いつも本の中で、お会いしているような気持ちでした。河野美代子さんの『性幻想』にも(なんと21世紀になってから読んだのですが)励まされました。
先達の魔女のような、、、宮迫千鶴さんのご冥福をお祈りします。
★自分がブログに書いた追悼文に、この河野さんの記事を紹介させてください。
投稿: こぞっぺ | 2008年6月26日 (木) 10時47分
おわびです。『性幻想』はお名前がよく似ている河野貴代美さんの本でした。たいへんごめんなさい。
河野美代子さんのブログの記事にはとてもあたたかいものを感じました。先輩方の営為のつながりに感謝のみ。
投稿: こぞっぺ | 2008年6月26日 (木) 17時41分
oxalisさま
コメントありがとうございます。同級生でいらっしたのですね。本当にステキな人を亡くしてしまいました。今日、お葬式だったはず。行きたかったげ、かないませんでした。河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2008年6月27日 (金) 00時57分
こぞっぺさま
ブログ、読ませていただきました。ご案内ありがとうございます。河野貴代美さんは、私も大好きです。私のブログ、今後もぜひ時々は覗いてみてくださいませ。私も読ませていただきます。ありがとうございました。河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2008年6月27日 (金) 01時00分
はじめまして。こんにちは。
宮迫千鶴さんを検索していたら、こちらに。
実は昨日お邪魔していました。コメントは、もう少し後にしようかと少し戸惑い・・・。
そう。検索したのは、昨日は宮迫さんの葬儀が行われた日・・・。
10年以上前ですが、私が画材店のアルバイトをしていた頃、お店に、ご主人の谷川晃一さんと立ち寄って下さり、数度お話を。1度は、可愛い小物をお買い求めでした。もう1回、ご自宅で個展(夫婦でされていたと思うのですが・・・)をされた際、やはりお話をした気がします。
柔らかい笑顔が印象的です。
主人も絵を描くので、その繋がりで谷川先生と接する機会もあり(最近は、ないのですが)、宮迫さんを、勝手にですが、身近な人に感じていました。
今回、更に身近に・・・。心の中を、淋しい風が吹いていくようです。
最近手がけ始めたピアノ曲があります。(ど素人のピアノ弾きです^^;)宮迫さんに捧げたい、贈りたい曲になりました。宮迫さんを想いながらの練習です。
天までとどけ。
何となく、宮迫さんのことを、誰かにお話したくなりました・・・。宮迫さんをご存知の方とお話したくなりました。突然の訪問で・・・。
投稿: ちゃっくばぁ | 2008年6月27日 (金) 14時11分
宮迫さんの事をあれこれ考えていた告別式の朝、
洗面所の電気が 急に点滅?
不思議に思って 時刻を調べに 行き、
戻ってくると また 点滅!
でも その後は 正常です。(点滅なし)
これって 宮迫さんの オチャメ!?
投稿: 杉子・・かんがえ | 2008年6月30日 (月) 22時03分