医療崩壊(1)医療費高騰、医師の偏在は本当か
このシリーズは、「アジェンダ 未来への課題 第20号」(星雲社) 【特集「少子化ニッポン」の子育て事情】に、寄稿したものを加筆、修正し、ここにあらためて提示するものです。
ここに来て、日本の医療が崩壊すると危機感を持って議論されている。
その原因は、何よりも、政府の低医療費政策によるものだと考える。
少子高齢化に伴い、高齢社会となって医療費が高騰し、国の経済を脅かすほどになっているという。その医療費を抑制する政策のために、中堅の病院、とりわけ多くの自治体の病院はのきなみ赤字となり、そのために人件費抑制に動く。勤務医は少ない人数で過酷な労働を強いられ、その結果さらに病院を辞めるものが増え、多くの病院で勤務医不足となっている。
特に小児科、とりわけ小児救急と、産婦人科の医師が不足していると言われている。
しかし、実際勤務医が不足しているのは、この二つの科だけでなく、外科医も麻酔科医もそして、地域によっては内科医も不足している。
厚生労働省は、医師が都会に偏在しているから、地方によって、医師不足となっていると言う。
しかしながら、医療費が高騰し、国の経済がおびやかされるほどになっているというのは、本当であろうか。たしかに、高齢者が増えれば、医療費は必然的に上がる。しかし、今、日本の医療費の対GDP(国内総生産)比はOECD(経済協力開発機構。ヨーロッパの国々を中心とし、アメリカ、日本などを含め30カ国の先進国が加盟する国際機関)諸国で30カ国中22位である。
人口当たりの医師数もOECD平均より少ない。しかも、日本では医師の数は、医師免許を持っているものの数を医師の数として計算している。高齢で医師を辞めた者まで、あたかも医師の活動をしているかのごとく数に入れている。それでも他の先進国に比べて医師の数が平均より少ないのである。
であるから、厚生労働省の言う医師の「偏在」ではなく医師の絶対数が不足しているわけだ。最近よく報道される「救急車のたらい回し」という出来事は、決して一部の地域に起こっていることではなく、全国的な現象でもある。
それにもかかわらず、日本の医療は世界でもトップレベルであって、まさに医師、医療者の献身的な働きで、医療レベルが保たれているとも言える。
さて、私は、勤務医を17年前にやめて、クリニックを開業している産婦人科の医師である。産婦人科医が不足しているというのは、医療界の内部にいても、ひしひしと実感することである。

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