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医療崩壊(5)医師不足は産婦人科だけではない

 もう少し、医療事故について。(財)日本医療機能評価機構の医療事故防止センターが、行っている「医療事故情報収集等事業」の報告によると、報告義務対象医療機関273施設(国立病院機構や特定機能病院など)から、昨年一年間に1266の医療事故が報告され、うち142の死亡事故があったとのことである。科としては、整形外科、外科、内科の順に多く、場所としては、病室、手術室、検査室、トイレなど様々な所での事故である。このように、医療現場の事故はとても多い。だからこそ、単に医療者個人の問題にするのではなく、防止のためのシステムをつくって対応しなければ解決の方向には行かないということを示している。

 昨日述べた福島県の産婦人科医が逮捕された件、このドクターに対する検察の論告求刑は禁固一年、罰金10万円というものであった。彼が大量に出血する患者さんを必死で治療していた4時間は察するに余りあって、人ごとではなく、胸が痛い。しかし、検察の論告を読むと、あたかもすべての医療は、すべての患者さんの命を救うことが出来るべきである、という立場に立っている。

 医師とて不可能な場合はあるという、この観点が抜けている。家族は、法廷で、この医師にたいしての厳罰を望むと証言したという。判決はまだであるが、このドクターがもし刑事事件で有罪であるとの結果が出れば、おそらくまだまだこの医療崩壊は進むであろう。

 具体的には、医師は、どんどんと責任がある立場にはなりたくない、出来るだけリスクが少ない立場の医師を選択するということになるであろう。実は、産婦人科医はいる。でも、お産を扱う産婦人科医が激減しているということである。たとえば、私の様に。私の廻りには、いわゆるビル開業、外来患者さんのみを診るという産婦人科医が半径一キロ以内に12人もいる。入院患者さんを診ない。外来のみだと、そのリスクはとても少なくなる。私たちは、もうさんざん働いたあげくの開業であるが、若い人たちがはじめからそのような立場の医師になることを望むのは、残念である。

 救急医療も大変で、救急車のたらい回しが良く報道される。断った病院が悪いと言われても、多の患者さんを診ている最中に、ほかの患者さんをも診られないのは当然だ。激務の救急医も足りない。

 小児科医もしかり。小児科医は夜昼ないこどもの急患に常に対応することが求められる。また、物がしゃべられない、自分をちゃんと訴えることが出来ない子どもの場合、ちょっとしたことで容易に症状が悪化したりもする。それだけ医療事故に繋がりやすい。小児科医を希望する医師はこれも激減している。

 一方、ある美容整形外科医が、タレントとしてテレビに出ては、医師の仕事はとてもお金がもうかる、年収ウン千万円以上に人としか結婚しないというようなことを平気で公言している。楽をして、お金がもうかる職業の代表として医師があるかのような発言は不快である。

 また、刑事事件としての訴追は、医師だけでなく、看護師等他の医療者にも及んでいる。看護師の逮捕が度々報道されるようになった。責任が重く、勤務も不規則で、また子育てをしながら勤務出来る社会の体制も不十分である今、看護師の資格をもちながらも、看護師としての仕事に就かない者が増えている。どこの病院も看護師不足に悩まされている。この度、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院は、看護師不足から、病棟を一つ閉鎖することになったと発表した。さまざまな環境が整っているはずの大学病院でさえ、しかりである。

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コメント

私は親としても女性としても思うのですが、一般人は医療の知識が足りなさ過ぎます。
赤ちゃんが40度以上の熱を出したら救急車を呼んででも病院へ行け、という知識がない人もいれば、救急病院は夜でも開いているから、昼間仕事で医者に行けないから夜行けばいいや、という人もいる。救急の意味がわかっていませんよね。
福島の産婦人科の事件でも、遺族は患者さんがどれだけ危険な状態であるかを知らないから「厳罰に」などと言うんだと思います。お産は安全にできて当たり前、というおかしな常識もまかり通っているから検診も受けず、出産間際に病院に飛び込む妊婦さんも増えている。妊娠は常に危険が伴うことを知らないんですね。
私は医学が好きなのでいろいろ勉強して覚えているけど、覚えていて損なことはありません。むしろ必要なことなのに知らない人が多すぎる。もっともっと医学的知識を学校で教えて欲しいと私は思います。自分のため、家族のためであり、ひいては医療負担の軽減につながるのではないでしょうか。

投稿: 文月 | 2008年3月25日 (火) 12時47分

初めまして。先生の意見に共感したので、書き込みをさせていただきました。ほんとに、働きにくい世の中になってきましたね。
患者さんを悪くしようと思って、医療をしている人なんていないと思うのですが、結果論で物事を判断されてしまいますよね…。マスコミも医療事故ばかり取り上げないで、勤務医の先生達がどれだけ頑張っているか、一般の方にわかるような報道ももっとして欲しいです。。。

投稿: びおら | 2008年3月26日 (水) 14時52分

文月さま
そのとおりと思います。とてもためになるコメントありがとうございました。私もかねがね、「体を知ろう、知った上で、自分で自分の体の管理ができる、そんな大人になりましょう」といい続けてきました。でも、なかなかです。これからも、どうぞよろしくお願いします。河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2008年3月28日 (金) 00時42分

びおらさま
コメント、ありがとうございました。本当にしんどい社会です。いつか、この社会が成熟していい方向に向かうのではないかと期待しながら、がんばらないといけないのかなあと思っています。これからもどうぞ、よろしくお願いします。河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2008年3月28日 (金) 00時46分

はじめまして。私は小児科医で、先生の記事に共感してお便りさせていただいています。
小児科は産婦人科とお産の場で仕事をする機会が多いので、産婦人科の先生の忙しさ・ストレス、そして訴訟の危険度はよく分かります。
また、帝王切開や早産で生まれた赤ちゃんを診てきていますので、小児科が撤退した病院でのハイリスク出産を産婦人科のみが受けるのは大変なことなのではないかと心配しています。どんな環境、どんな相手、どんな時間でも完璧な医療を求める今の世の中では、産婦人科撤退もやむを得ないのかもしれません。

その一方で、医師免許を持っているというだけで、タレント業やコンサルタント業をして高い収入を得ている医師も居れば、命を削って激務に携わり、訴訟の危険にさらされている医師も居る・・・。なぜ世間は勤務医を叩き、タレントには何も言わないのでしょうか。
マスコミで、本当の臨床医でもないのに医師として間違った情報を流す医師免許所持者は、自らを恥じ、方向を転換して先生のお話するような問題について一般に啓蒙していただきたいと思います。

投稿: かしん | 2008年3月30日 (日) 23時25分

かしんさま
貴重なコメント、ありがとうございます。本当に大変なお仕事、ごくろうさまです。産婦人科も小児科も、行き先は決して明るくありません。でも、特に小児科は、これから長く生きる子供を助ける貴重なお仕事です。どうぞ、疲れすぎないように、ご留意なさって続けられますことを!!これからも時々は覗いてくださいませ。ありがとうございます。河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2008年3月31日 (月) 00時56分

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