今日も薬害肝炎の被害者の方達の記者会見が開かれていた。国の和解案を拒否すると。被害者である患者を、投与の時期によって差別するとは許さないと。被害者のほとんどが、女性達である。それは多くの方が出産に伴う出血で、フィブリノーゲンを投与されたからだ。女性達が命をかけて闘っている姿は胸を打つ。
福田内閣の支持率が、急降下していると報道されている。それは、年金の問題と、この薬害肝炎に対する国の態度が国民に受け入れられていないからだと。両方とも厚生労働省のからみで、だから、あれだけ期待された舛添大臣もここで馬脚を現した。
私は、以前にも述べたが、大臣がはじめて薬害の被害者の原告団に会った時、にこにこと笑顔で、謝罪もなく、「心を一つにして、共に困難な途を乗り切りましょう」と言った。何と、分をわきまえない人かと思った。被害者と加害者は、立場が違う。これまで裁判で闘って来た相手とそんなに簡単に心を寄せ合う事なんて、出来る訳がない。大臣という立場だの偉い人だから、その偉い人が会って上げるのだから、ありがたいでしょう、という魂胆が見え透いて、本当にいやだった。
私は、産婦人科医で、大学病院で10年学んだ後、救急病院の責任者をしていたので、痛恨の極み、確かにフィブリノーゲンの投与をしている。大学病院時代からだったと思う。お産の大出血は、即、命に関わることで、だから手順を厳しく鍛えられた。素早い血管確保、酸素吸入、子宮収縮剤の投与、用手での子宮の圧迫、昇圧剤の投与、そして止血剤とともに、フィブリノーゲンの投与、それから、輸血。どうにも止血しない時には、手術で子宮を取ることも。これらを素早くやらないと、出血死だけでなく、DICという全身の出血と多臓器不全に陥ってやがて死亡する。お産をする産婦人科には、フィブリノーゲンは必須の薬剤で、必ず常備すべきものであった。だから、ほとんどの産婦人科でフィブリノーゲンを使っていたと思う。
何としてもお産で患者さんを死なせてはならないから、それは大変だった。救急の時には、産婦人科医、ナース、総動員で、また麻酔科のドクターにも来てもららって救命の措置をする。
大学病院にも、その後勤務した病院にも、よく救急車で出血が止まらなくなった患者さんが運ばれて来た。お産の後だけでなく、まだ胎児がお腹にいるままで、胎盤の早期剥離であったり、前置胎盤であったり。救急の手術の体制もICUも整っていて、だから他の産婦人科からの転送はよくあった。
救命出来た後、患者さんの肝機能が上がることがあった。多くの方に、輸血もしているし、沢山の薬物を使っているので、一時的に肝臓に負担がかかったからかもしれない。まだ初期の頃は、輸血後肝炎と言って、B型肝炎がうつってしまったこともある。そのうち、B肝は日赤の血液センターではチェックされるようにはなったが、新鮮血は、チェックが間に合わないこともあった。そして、そのうち、ノンAノンB肝炎と呼ばれる肝機能障害が起こるようになった。このまだ名前がない肝炎が後にC型肝炎と言われるようになる。
でも、まだノンAノンB肝炎が、後に命まで脅かすようになる肝炎だとは、夢にも思わなかったし、まして、フィブリノーゲンが汚染されているとは、全く知らなかった。ある日、みどり十字の社員が尋ねて来たことがある。そして、フィブリノーゲンで、肝機能が悪くなることがある、これはこちらの病院では、心臓外科のドクターにはお伝えしていた、でも、産婦人科の先生には伝えていなかったので、と。どうしても使わなければならい時には、肝臓が悪くなることがあると言うことを承知の上で、患者さんにも説明の上で、使って欲しい、と。
その時、私は怒った。どうして、心臓外科だけなのか、と。産婦人科でフィブリノーゲンを使うのは、当たり前でしょう。どうして私にそれを言ってくれなかったのか、と。この病院の産婦人科でもフィブリノーゲンを使うとは知らなかった、と、その人は言った。「救急病院じゃないの。救急車が運んで来るじゃないの。」そして、フィブリノーゲンを使った患者さんを調べて見ると、みなさん、肝機能が上がっていた。でも、まだその時は、一時的な現象だと思っていた。肝機能が上がった人には、追跡してその後も来て戴いて検査をしていた。多くの人の肝機能はそのうち、落ち着いていた。でも、その後が分からない。
C型肝炎の検査が出来るようなったのは、もう私がその病院を辞し、開業した後のことである。あの頃の患者さん達はどうしているだろうか、と、ずっと心が痛い。ただ、フィブリノーゲンを使った病院の一覧表が報道された時、その病院の名前もちゃんと載っていたし、お産の出血が多かった人は、検査を、と呼びかけてもいた。私がその病院にいるのだったら、自分でカルテをひっぱり出して調べもするが、もう止めた病院に入る事も出来ない。何人かの人が、私の所に来て、自分は使っているか、と尋ねられたことがある。はっきり覚えている人もいるし、覚えていない人もいる。
救命のための投与ではあるが、何人かの人にフィブリノーゲンを使ったことは間違いない。その私が報道を見ている。どうしたらいいのだろうか、と、ずっと心が痛い。せめて、投与した人には、全員の救済をするべきだ。救済と言っても、せめてお金の保証をするだけで、健康を取り戻せる訳ではない。早くに知っていたなら、インターフェロンで治療をすることもできるのに、知らないままだったと言われると、その通りなので、ますます心が痛い。
少なくとも、国はこの汚染した薬物の認可を与えているのだから、その責任はある。使った時期によって患者さんを差別するのはおかしい。イラクの戦争を続ける為に、莫大なお金をかけて給油を続けようとするよりも、苦しんでいる国民の命を救済する、そのために貴重な税金を使うのは、だれも文句は言わないと思う。
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