女性ホルモン・男性ホルモン(4)
私は、以前10年に渡って月刊家族に「更年期ダイアリー」を連載していた。それを抜粋して本にしたのが「産婦人科医河野美代子の更年期ダイアリー」である。この本に、ホルモンについて書いた一文がある。以前私の患者さんであったアメリカ人が広島に来た時に、一緒に温泉に行った。その時に、彼女がアメリカでホルモン補充療法をしていること。そして、女性ホルモンと共に、少量の男性ホルモンをも飲んでいると聞いた。性欲が減退しているのをアップさせるのだと。それには驚いた。アメリカでは更年期の治療を性欲まで配慮するのか、と。その事を書いたものである。
そしたら、それを読んだ東京の産婦人科の大先輩の堀口雅子先生から連絡があった。日本でも、少量の男性ホルモンを投与しているドクターがいる、と。そして、そのドクターにも連絡をしてくださって、ドクターから私に論文を送って来た。島根の産婦人科医である。
その論文には、女性ホルモンだけでなく、少量の男性ホルモンを投与することにより、テンションが下がっていた患者さんに活気が戻って来るという物であった。そうなんだ!男性ホルモンは人を活気づけるのだ、とよく分かった。
そして、その投与している「男性ホルモン」が、大東製薬工業株式会社のチューブに入った軟膏であった。それを塗ればいいのだと。そんな薬があるなんて知らなかったから、もうびっくりした。やはり病院ではなく、薬局で売っている薬であると。そして、その会社の方がクリニックに尋ねて来られた。地味な会社で大々的な宣伝をすることもなく、ひっそりとこつこつと、女性ホルモンと男性ホルモンの軟膏を作っているということであった。女性ホルモンは「バストミン」といい、男性ホルモンは「グローミン」という。でも、多くのドクターは、こんな薬があるということを知らない。
私は男性ホルモンは、不妊症で性交があまり出来ない人と、性同一性障害で女性の体から男性の体にしたい人にも使っている。でも、後者は注射による男性ホルモンの投与がメインで、グローミンはあくまでも補助的な物だ。それから少し高齢で、性的なこともふくめて、ポテンシャルが下がって希望する男性にもお出ししている。これは、とても好評だ。体が元気になって活気づいて、気分も明るくなると言われる。
私自身、多くの患者さんに接して来て、そして自分自身も体の変化を感じて来て、体にとってホルモンはとても大切な物なのだと思っている。若い頃にはホルモンいっぱいの体で、そのことを何も感じなく過ぎて来ても、この年になると、いろいろと感じる事がある。
少し前、精神科の大先生と同席した時に、ホルモン補充療法を「自然に枯れて行けばいいじゃないですか。」と言われたことがある。あたかも、若さを保とうとしてホルモンを使うのは、とても不見識、と言う言い方であった。でもそのドクターだって、多くの安定剤や抗うつ剤や自律神経調整剤や睡眠薬などを患者さんに出されている。自然でいいじゃないですか、と言うなら、それらの治療をすることも自然ではないことなのだけれど。ホルモン補充療法は、決して若くありたくて使う物ではなく、あくまでも、体や心ににさまざまな障害が起こるから、その治療として行う物である。やはり更年期治療に対して、他の科のドクター達はまだまだ理解をしていないようだ。皆様も、もし、しんどければ、少しだけ医療の力を借りて、元気に生きることも選択肢の一つであるということをお伝えして、このシリーズを終えたい。

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コメント
大きく頷きながら読みました。
連れあいは30後半ですが、ここに書いてあったほとんどの症状が出ています。
薬に頼っていては治るものも治らないからダメ、副作用の怖さのみを医療関係の知識が中途半端にある人に限ってやいのやいの言うので困っています。
最後の、しんどければ、少しだけ医療の力を借りて、元気に生きることも選択肢の一つである、という言葉に救われた思いです。
投稿: きり | 2007年11月12日 (月) 00時23分
きりさま
パートナーのお具合が悪いのですね。どうぞ、病院に連れて行ってあげて、治療を受けるようにしてあげてくださいませ。更年期なのかどうかは、検査をして見ないと分かりません。単なる、自律神経失調症やうつ症状かも知れません。廻りは、確かにあれこれ言いますので、多くの人には言わない方がいいのではないでしょうか。あくまでも、プライベートなこととして、お二人だけで共有なさったほうがいいと思います。何かあれば、またご連絡下さいませ。河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2007年11月12日 (月) 18時19分