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秘密を守るということ

 今日は、午後からひどく忙しい。夜中までびっしり予定が入っている。原稿の仕上げも出来ていない。レセプトも山ほどある。これをやらないと、私のクリニックはお金が入らなくって倒産する。だから、新幹線の中でそれをやって、ホテルから宅配便でクリニックに送ることにする。こんな時にはブログを書くのはとても無理だと思うから、今のうちに。

 昨日のテレビのニュース、今朝の新聞でも、少年事件の鑑定の資料を本の著者に見せたとして医師が逮捕、起訴されたと報道されている。そこに、報道の自由への挑戦と、さかんに言われている。報道の自由と言うのであれば、著者は、絶対にその情報の提供者が分かる形で書いてはならないと思う。それを守らなかった著者と出版社は失格と思う。

 でも、それ以上に、私は医師がそれらを見せた責任は多いにあると思う。私たち医師は患者の守秘義務がある。これは侵してはならない義務だ。

 先日、ある患者さんの職場の上司から電話がかかって来た。その患者さんについて、話を聞きたいと。それは、患者さんのことを思いやって、善意での問い合わせであるということは十分に察せられた。それでも、私は言った。「申し訳ございません。患者様個人の事は、これは個人情報です。私たちには患者様の秘密を守る義務がございます。その方がいらっしているかどうかということも含めて、お電話ではお話出来ません。それに、お出でになってお話を聞かれるのでも、ご本人の了承が必要です。」と。

 これは、親だと名乗る人からでも、妊娠の相手の男性だと名乗る人からでもすべて同じである。もう、ずっと昔、高校生の親だと名乗る人からの電話で、彼女について話したことがある。そしたら、それは患者本人の親ではなく、友人の親であった。そして、それを学校に密告され、患者さんが処分されるということがあった。痛恨の極みであった。それ以来、絶対に電話では話さない。その私の対応に怒る人がいる。それでも私は、申し訳ございませんと、謝りながら、絶対に言わない。

 未成年の場合、親が来院されれば、これは仕方がない。親に養育の義務があるのだから、カルテをみながら話す。成人の親や夫が来た場合、ご本人の了解を得ていらっしゃいますか?と問うが、得ている場合はとても少ない。これは、時と場合による。患者さんの利益になるかどうかの判断をしなければならない。あくまでも「患者さんの」であって、「来た人の」ではない。時には、嘘はつけないけれども、事実を伏せなければならない事だってある。

  これらは、親などのごく親しい身内の場合であって、第三者にする事ではない。ましてジャーナリストに、患者さん本人の立ち会いや了解もないところで、決して話してはならないし、ましてやカルテや鑑定書を見せるなんて、絶対にしてはならない。だから、私は今回の医師のやったことは許せないと思っている。医師が秘密を守ってくれる、というのは、患者さんの信頼のもっとも基礎の所であって、これが守られないと、我々の仕事そのものが根底から崩れる。これくらい大変な事であって、この医師はこれまで患者さんの秘密を守ると言うことをして来たのだろうか、疑問に思う。

 これは、医師だけでなく、公務員にも必要な義務である。これも、ずっと以前、妊娠した高校生が出産することとなり、私の指示で保健所に母子手帳を取りに行った。そしたら、そこの保健婦(今は保健師)さんが、彼女の高校に電話をし養護教諭に「あなたの高校の生徒が妊娠しています」と伝えたのだ。そして、学校から退学を迫られ、退学してしまった。もう少しで二年が終わるという三学期。私たちは、二年の終わりまで行って単位を取って、三年から通信の高校に転校しようという計画を立てていたのに、二年の単位がダメになってしまった。私は許せなくて、二年終了まで戻してくれ、と大変な闘いをしたことがある。結局彼女は二年の単位は取れて、通信の高校も無事卒業。今は、四人の子の母親である。保健婦は、大変な守秘義務違反、おおきなお世話だった。私は、そのおかげで、当時決まっていた教育センターの講演もすべてキャンセルされたし、あれこれ言われて苦い思いもした。

 まあ、長い間こんな仕事をしていればいろいろなことがあるものだけれど、それらの経験を通しても、秘密を守るということは、とてもとても大切で重いことなのだと、私は今回の事件に怒っている。

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コメント

今回逮捕されたお医者様のお書きになったものを
いくつか読ませて頂いたので、正直言ってショックでした。

発達障がいは、見た目にはわからない場合が多いので、
なかなか周囲の理解を得ることが難しく、
また家族も本人も気づかずに成長する場合も多いのです。
これは本当につらい日々で、
そのために起こる二次障害も問題になっています。

おまけに、最近では
ショッキングな少年犯罪が起こるたびに、
発達障がいとむすびつけた報道がなされる場合が多いので、
確かにリスクファクターではあるがイコールではないのだと言うことを、
より多くの人に知って頂きたいという想いでいます。

でも、だからといって、
必ずしもこの度の本のような形でなくてもよいはずだと思います。
事件を特定せずとも、
真実を伝えることはできるはず。
(確かに、ああしたセンセーショナルなタイトルなら売れるかもしれないけれど・・。)
「報道の自由」を盾にしても、
その盾を傷つけられたら、
やがて盾そのものが使い物にならなくなるおそれだってあると思います。

話が横に行っちゃいましたが、
患者は、時には命を守るために、
自分の体と心の全てをお医者様に委ねます。
それが、第三者に伝わることなんて考えていません。
いくら社会的に大きな事件だったからと言って、
それが漏洩されるようなことがあってはならないはずです。
逮捕された先生には、
その情報を、今後の多くのケースに活かすために、
もっとたくさんの方法があったはずだと思います。

本当に残念でたまりません。

投稿: Hoch | 2007年11月 3日 (土) 22時16分

こんばんは
私の父が先日大腿骨を骨折して救急に運ばれました。運んでくれたのは義理の兄になるのですが状態や処置の説明などはその人にはできないということでした。私が到着してやっとある程度の説明を受けることができましたが妻である母が一番ですからということでは母が到着してから もう一度医師からの説明を受けました。最近は本当にプライバシーもさることながら どういう処置をしていくのか患者や家族に説明がされ承諾をえるということも 細かにされているなあと実感しました。一緒に暮らしている義父母にも知られたくないという状況があるので(お酒飲んで脚立から落ちたものですから・・・)今の病院でよかったなぁとつくづく思っています。

投稿: 茶種 | 2007年11月 4日 (日) 00時02分

Hochさま
私は、今回の事件のことを「僕は父を、、、」というタイトルを付けたことも許せません。だって、その様なタイトルを付けて書くことが出来るのは、彼自身だけか、または彼が誰かに頼んで書いてもらった場合だけだと思います。あたかもも自分がすべて分かったかのように書いた著者は思い上がっていると思います。
Hochさん、ご苦労、良く分かっていますよ。リスクファクターではあっても、決してイコールではないということも。また、お話しましょうね。河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年11月 4日 (日) 00時38分

茶種さま
今日、お会いできなくてザンネン。遠いですものね。また、いつかふわふわを見せていただきに行きます。お父様のこと。とてもちゃんとした病院で良かったですね。でも、脚立の事故はとても多くて、命に関わることも良くあるので。これからも気を付けてもらってくださいね。河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年11月 4日 (日) 00時40分

職業上知った情報を、いらんことしいで洩らされるのは困ります。
洩らす方は正義感か何かで、「ぜひそうすべきだ!」と思ってやっているのかも知れませんが。
とてつもない鈍さみたいなものを感じて本当に嫌です。気持ちが悪い。
どうしても洩らしたくなる人は、その職業から降りてくれよと思う。
なんか、独り言みたいになってすみません。

投稿: ひろ | 2007年11月12日 (月) 19時00分

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