行政の責任と癌検診。
日本女性会議が開かれているその日に廿日市の市長選挙が行われた。女性会議の分科会「災害と女性施策」を担当し、二年かけてその準備をして来た井上さち子さんが、市長選に立候補した。だから、女性会議を一緒に準備した多くの女性達は、会議の準備と井上さんの応援とで、ずいぶん大変だったようだ。30人の市議のうち、28人が相手陣営に着いたという不利な状況の中で、井上さんは落ちたとはいえ、大健闘だった。24000対16000票。3対2の割合だった。井上さんの応援に行く中で、驚いたことがあるので、それを。もう選挙が済んだので、ここで述べてもいいだろう、本当は、選挙中に言いたいことだったのだけれど。
私の職場には、女性が子宮癌検診を受けに沢山来られる。広島市の人は、「葉書が来ました」と多くの人が言う。20才以上の女性で、職場で検診を受けるチャンスがない人には二年に一回、市から葉書が来る。来たと言ってもらえば、それで市の健診として千円で癌検診をする。それが市民にも医療機関にも定着している。乳ガン検診は、以前はやはり葉書でうちのクリニックでも触診をやっていたのだが、もう、乳ガン検診は40才以上のマンモグラフィーになったので、うちでは出来ない。だから、患者さんの住まいから行きやすい所を選んで、そこの地図を渡す。たとえば、広島市の健康増進センターへは、月曜日から金曜日の午後1時から3時まで。予約はいりません。行けば、健診をしてくれます。今日でもついでにいってください、と。同時に、自己触診の指導をする。マンモグラフィーだけでなく、日頃から自分でも触る習慣を付けましょうと。今、乳ガン患者の70%以上が自分でしこりを見つけた人だ。
でも、広島市以外の人はとても困る。そこそこのシステムが分からないから。で、よくこちらから問い合わせをする。廿日市の場合。問い合わせに対して、患者さんが住んでいる、その地域はもう健診はすみました、と言われた。では、どこか他でやる所まで出向いて行けば、やって下さいますね。と言うと、「もう、申し込みは済んでいますから。」と言われて驚いた。今、どこの行政でも、癌検診の受診率を上げることに一生懸命なのだが、そこの対応は、まるで受けて欲しくないような対応だったから。
子宮癌や乳ガンだけでなく、広島市では当然、肺癌検診、胃癌検診、大腸癌検診すべて住民には報せが来て、受けることが出来る。で、先日も、廿日市の人でお腹が痛い方に、「一度、大腸癌検診を受けて下さい。これまで、受けたことがありませんか。市から報せが来ませんか」と言うと、うちの市にはそんなのはありません。貧乏な市ですから。と言われる。いえいえ、これは国、厚生労働省の方針で、どこの行政でもしなければならないことになっているのですよ。きっと市の公報か何かあるはずなのだけれど、気が付きませんでしたか。貧乏と言ったって、廿日市には箱物は、いっぱい建っているではないですか。という、そんなやりとりをした。
で、井上さんの個人演説会の会場で、私は聞いて見た。「この中で、市のお金で子宮癌検診を受けた事がある人。では、乳ガン検診を受けたことがある人。」100人弱の人が来ていた3つの会場で、いずれも0だった。お年寄りでもう仕事をリタイアしている人たちが多く、職場での検診ももちろんない人たちだ。そして、驚いたことに、そのような検診は、行政が責任を持ってしなければならないことになっているのですよ。ということをみなさん、知らなかったのだ。知らないから、それが当たり前と思ってしまう。検診は、自分でお金を出して受けなければらないことだと、思いこんでしまっている。そして、市が検診のために組んでいる予算はおどろくほど少しであるということを聞いた。それで、私が電話をした時にまるで受けて欲しくないような対応をされたことの納得が行った。予算が限られていたのだ。
住民の福祉や健康のためのサービスが出来ていない行政は、決していい行政とは言えない。私は、よそ者だから、そこの悪口を言うと、聞く人も気分が悪いだろう。でも、これからの時代、ちゃんと自分の住んでいる所の行政をウォッチングして、行政が向かっている先を見極めないと。住民達の為のサービスが不十分なままに、財政が悪化している、その再建をいかにするか、という議論がされている。そんなことがちゃんと分かった上での投票だったのだろうか、と、私は有権者の方々に問いたい思いである。よそ者なのに、いらないことを言ったようで、廿日市市の方、ごめんなさい。

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コメント
20年以上前からお世話になっておりますが、
ブログにははじめておじゃましました。
そして、初めて、検診がお国からのお達しで行政がすることだと知って仰天しています。
医療崩壊について考え始めたのがきっかけで
様々な行政のあり方に??疑問を持ち始めていますが
これにもまた驚いた!
宣伝させて頂きます・・・「河野先生のブログで知ったんだけど」って。
投稿: kay | 2007年10月24日 (水) 00時53分
kayさま
始めてなのですね。読んで戴いて、コメントも戴いて、ありがとうございます。本当に知らなかったのですね。では、知らないのは廿日市の人たちばかりではないのでしょうか。あっ、でもkayさまがどこにおすまいなのかわからなかったですね河野美代子。
投稿: こうのみよこ | 2007年10月24日 (水) 01時44分
薬害訴訟の厚生労働省と製薬会社の証拠隠しをしての偽証は、双方の利益のため。
防衛省の接待は、自己の利益のため。
行政のハコものは、住民の健康より得るものが多いのでしょう。
行政をする人、政治家(議員)にとって、リターンの多いものにお金を使っているように感じます。
広島市が政令指定都市になるとき、周辺の町と合併したとき、住民への行政サービスが低下するといわれ、そのようなこともあったと思います。
今の市長になって、ずいぶんと充実してきたように感じます。住民の多くがそう感じたから。だからこそこの前の選挙で大勝したと思っています。
隣の市である廿日市ですが、住民サービスや財政のことより、リターンの多いものを望む議員が多いのでしょう。その議員にぶら下がる組織もそうなんでしょうね。
投稿: やんじ | 2007年10月24日 (水) 09時40分
マンモグラフィーの検査を受けましょうとよくテレビで言ってますが、どこの医療機関に行けば受けられるのかがわかりません。
市からのハガキには「最寄の病院」とありますが、公立総合病院では時間がかかるし、個人病院では備えてある病院がわからなくて。
こういうのを一覧にしてHPや役所において欲しいですね。
投稿: 文月 | 2007年10月24日 (水) 13時29分
今まで行った行政の不正をアピールする方法はないのでしょうか?住民が不在の行政と医師会頭にきます。
投稿: poke | 2007年10月24日 (水) 17時09分
私もどうすればいいのか考えることがよくあります。すごく疑問な行政だと思うのですが、保健事業を担う保健センターや保健福祉課といった部署の長が、ほとんどの場合、医師や保健師ではありません。昔のように、保健所が数あれば、保健所長は医師なのでしょうが・・・・国や県はここまで考えてなかったのでしょうね。いまは合併問題もあり、保健事業にかける予算は低下したと聞いています。また、保健師の40代、50代の人は専門学校出で高校卒になり課長クラスになるのも難しいです。私のような保健学科からでたものは30代になっていますが、ちょうど少ないですし、そういう場合はたいてい出世せずに、つぶれていくのも多いですね。いまは逆に大学卒は多いのですが、これまた問題多しですしね。いろんな面からも、公衆衛生にかかわる保健師の質(意識)も、低いなぁと情けなく感じています。どうすれば変えていけるのかなぁと考えます。
投稿: しゅんぼうママ | 2007年10月24日 (水) 18時38分
やんじさま
おっしゃる通り。その通りです。広島市も財政がとても厳しくて、倒産させないために大変な努力だったと聞きます。それでも、財政再建をするに当たって、市民への福祉は徹底して後退させない、と。箱物は、市民のためになるものを、という基準で順番を付けられたのだそうです。だから市長は業界には評判が悪くっても、市民から支持されているのでしょう。でも、本当に廿日市の人たちが気の毒でした。自分達で気づいていないという、そこがまたよけいに不憫でした。河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2007年10月25日 (木) 02時09分
文月さま
コメント、ありがとうございます。ピンクリボンキャンペーン、ご存じですよね。ぜひ、マンモグラフィーを受けて下さい。葉書には、ホームページのアドレスも、問い合わせの電話番号も書いてありますので。それを活用して下さいね。私は11月1日に子宮癌も乳ガンも胃ガンも、肺ガンも全部の検診を受けます。河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2007年10月25日 (木) 02時13分
pokeさま
これからをしっかりウォッチングし、要求して行く事だと思います。これまでのことは、選挙で信任してしまいましたので、ね。私、友人には、「私も乳ガン検診を受けたいのですが、どうしたらいいでしょうか」と、行政に要求しなさい、と伝えました。多くの住民がそうしたら、きっと行政も気づくでしょうね。今までがおとなしすぎたと思いますよ。河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2007年10月25日 (木) 02時17分
しゅんぼうママさま
そうですね。現場にいらっしゃる方達の働きはとても大切です。でも、行政の方針については、現場のレベルではなくって、もっと上のトップの方針だと思います。何を優先して行政を行うか。私、箱物を沢山作る為に、住民の健康や福祉を犠牲にして、そして、なおかつ財政破綻だなんて、本当に住民が気の毒で。もっと住民は怒らなければ、と思うのですが。でも、選挙で住民がこれまで通りを選んだのだから、横から口を出すべき事できはないのかも知れません。それにしても、、本文にはあえて書きませんでしたが、人口12万の市、女性が半分以上、それもお年の方が多くて、二年に一回の検診で、当事者は年二万人を越えるでしょう。50%の受診率でも、1万人。でも、年間の乳ガン検診の予算は何と、140人分と聞きました。びっくりです。こうのみよこ
投稿: こうのみよこ | 2007年10月25日 (木) 02時32分
その予算、びっくりです。そこまでとは知りませんでした。別の市ですが、新生児の訪問件数をできるだけ、少なくしようとわかりにくくしているという保健師の策はしっていましたが、予算からしてちゃんと人口に見合った数でないのですね。それなら、そんな保健師の広報や活動に納得です。140人って、考えられない人数ですね。
投稿: しゅんぼうママ | 2007年10月25日 (木) 11時32分
しゅんぼうママさま
そうなのですよ。ひどいでしょう。やってないのと同じ、ただいい訳のため、アリバイのためにしているとしか考えられません。住民がまたそのひどいということを知らない、というのがたまりません。河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2007年10月26日 (金) 02時02分