« 医師会と医師政治連盟 | トップページ | 忍者のデザート「原始晩餐会」 »

ピルとバッシング

 昨日は東京での産婦人科医のネットワークの会で、またまた大いなる刺激を受けて来た。北海道から九州まで、30人余りのドクターと、傍聴の方達、計50人ほどのこじんまりとした会だけれど、そこではものすごいエネルギーが満ち溢れていた。

 私がもっとも感動したのは、二つ。一つはピルについて。もう一つはバッシングへのそれぞれの闘い、工夫について。

 ピルについて。私はこのブログで月経痛は我慢させてはいけない、と書いた。痛み止めを飲みなさい。それに、強い月経痛については、低用量ピルという方法があるよ。と言うふうに。

 でも、この会に来ている、性教育の実践をしている全国のドクター達は、鎮痛剤よりも低用量ピルを、と、どんどんと拡めている。たしかに、単なる月経痛は元より、子宮内膜症などのひどい痛みもピルで楽になる。

 何よりびっくりしたのは、関東地方のドクターが、学校からの依頼で「受験生のためのピル講座」を開いたと。受験生とその親達でいっぱいだったそうだ。ピルにより、痛みや量が楽になること、それに、受験日に月経がぶつからないように、楽々移動させることが出来ることを話すと、生徒も親もひどく感心して、生徒達がクリニックに沢山来ているという事であった。進学校では、生徒たちが、何人どこに入学した、という実績が学校の経営にも関わって来る。だから、体調が一番いい状態で受験して欲しい、と考えての講座の設定であるし、生徒やその親たちも、真剣であると言う。そこでは、受験生のためのカレンダーを作り、一人一人に応じて、ピルの飲み方を設計している。早くに来ていただければ、センター試験、前期試験、後期試験、これに私立を加えて、受験日をきれいにはずすことが出来る。私の所でも、やってはいるが、これほど本格的に、大々的にやっている訳ではない。

 月経なんて、自然なものなのだから、そのまま受け入れればいいではないか、という人がいる。しかし、本当につらい人は、受験で力が十分に出せないこともある。それに、トイレが遠かったり、女性用トイレが長蛇の列だったりすると、とても困るしそれがストレスにもなる。予定直前に中用量ピルで動かすのでは、吐き気がしたり、眠くなったり、逆に力が発揮出来なくなったりする可能性がある。秋から準備していれば、無理なく対応できる。

 その先生ではないが、別の岡山のドクターの所では、低用量ピルをのみながらの受験生が、今春の受験で東大10名、京大5名、阪大8名、早稲田、慶応などの私立大学多数合格した、と言う報せがあってみんなしびれもした。私ももう少し積極的になってもいいのでは、と思った。

 もう一つ、やはり性教育に対して県議の圧力で講演がつぶれそうになったり、事前のチェックが入ったり、とても苦労している人たちの報告もあった。そんな中で、関東のある若い女性医師は、学校当てや校長宛では、つぶされる可能性があるので、高校と中学校の養護教諭にダイレクトメールを送って、「養護教諭のためのセミナー」を開催したと。沢山の教師が個人的に集まってくださったと。やはり現場の先生たちも知りたいのだと言うことが良く分かったと。

 そうだ、私だって、直接個人的に呼びかけると言う方法もあるのだわ、といたく感心してしまった。まずは、広島でも「受験生と親のためのピル講座」を呼びかけてみよう、と思った次第だ。

 さらに、この9月に出たばかりのイギリスの論文も配ってもらった。イギリスの大論文で、1968年5月から36年間にわたって、経口避妊薬を飲んでいる人たちの追跡調査の発表である。あらかじめピルを飲んでいる人23000人と、飲まない人23000人が募集されたのだが、結果的には、ピルの服用者744000人。非服用者339000人が登録された。まさに、100万人の36年間に渡る追跡調査である。その約100万人の人たちの36年間に癌に罹った率の比較である。まことに、壮大な計画の元にきっちりと追跡された、ものすごい論文である。これによると、乳ガン、子宮体ガン、卵巣癌など、軒並みにビルを飲んでいる人の方が少なかったというデータが示されている。体ガンや卵巣癌は半分というデータであった。もちろん、これはイギリスでのデータであり、そのまま日本に当てはまるかどうかは慎重にならなければならないだろう。

 でも、日本では、なぜか「ホルモンをのんだら癌になるよ」という風説があって、これが更年期などでも治療を躊躇させる元になっている。これについての明確なデータはないのだけれど。低用量ピルでも、多くの人が副作用が心配と言う。どんな副作用かも分からないままに、漠然とした不安をみなさん持っている。これらに対して、どう丁寧にお話するか、それが課題なのだけれど、いろいろなデータを示すことも大切だ。

 まだまだいろいなことを学んだが、続きはまた、機会をみてぼつぼつお話しましょう。

|

« 医師会と医師政治連盟 | トップページ | 忍者のデザート「原始晩餐会」 »

コメント

先生に質問です。ピルは普通、健康保険の対象外ですが「生理不順の治療」で処方されれば保険は効くのですか?中高生くらいの子は生理不順の解決策で出されてもおかしくないと思うのですが。

投稿: 文月 | 2007年10月 1日 (月) 13時18分

先生、先日はありがとうございました。

さて、思い返せば、
試験やら試合やら演奏会のたびに、いつも生理だった私の青春時代・・・。
友だちからは「またぁ?呪われてるんじゃないの~?」と笑われていましたが、
笑い事ではなく、
いつも実力を発揮できず悔しい思いをしたものです。
(いや・・もともとその程度の実力だったかもしれないけれど、
 今となってはそれはナゾ・・・)

そうそう毎回移動させることはできないにしても、
入学試験のような時に、
そのスケジュールに合わせて生理をずらすことができるなんて、
本当に素晴らしいと思います!
これから多くの女の子達がその恩恵を受けるようになるのでしょうね。

娘時代、生理の痛さ、不快さでブツブツ言うと、
「昔の女の人達なんかもっと大変だったんだから、
 そのくらい我慢しなさい」
と、よく母に言われて不快度がぐーんとアップしてましたが、
今までみんな我慢してきたんだから、
これからも我慢し続けなさいなんてやはりおかしいと思います。
未来の女の人達は、もっともっと痛みや不快感から解放されていきますように。

イギリスでの追跡調査は、
かなり迫力のあるデータだと思います。
日本にそのまま当てはめることはできないにしても、
ピルに対する風説を何となく受け容れていた私は、
がつんと蒙を啓かれました。

自分の体のことなのですから、
もっと「がつん!」といかなきゃダメですね。
いろいろ反省シテマス。

投稿: Hoch | 2007年10月 1日 (月) 17時46分

私自身生理痛がひどくて一時は内膜症の治療もしていました。社会人になってからは、男女雇用機会均等法のおかげ?で生理休暇を取れる制度はったものの、実際には個人差があることから、生理休暇を利用して遊びに行っていたとばれた先輩がいて、制度はあっても会社ではなかなか使い難い状況でした。
社会人になってからは自己判断で鎮痛剤を飲んでしのいでいましたが、学生時代は本当にきつかったです。痛みで救急車で運ばれたこともあります。
子供たちがそんな思いをしないように祈るばかりです。ピルは私自身使ったこともないし、昔は安全性の面で疑問視されていたので副作用の心配があったのですが、安全性が立証されれば、女性にとってとても便利な薬ですよね。
出産で生理の痛みはかなり改善されましたが、PMSの方がつらいときがあります。最近やっとそれに気づいたので、その時期は誰にも会わないようにひっそりと過ごしています(笑)
そのコントロールもできるなら、本当にすばらしいですよね。

投稿: sana | 2007年10月 1日 (月) 19時34分

大事な時は外す。

上杉謙信が月経のために小田原城を何回も包囲しながら退却したという仮説を思い出します。

それはさておき根拠なき迷信でベストな対応ができないのは困ります。

自然なままが良い、などというのはきれいごとだなあなどと最近思うようになりました。

自然なままがいいから性教育反対、という議員に限って地元では公共事業で自然破壊しまくりとか、その議員がまた国政では、野党をバラまきと誹謗する与党を応援したりとか、「いい加減にしろ」と思う今日この頃です。

投稿: さとうしゅういち | 2007年10月 1日 (月) 20時26分

文月さま
コメントありがとうございます。確かに、生理不順の若い女性に低用量ピルはとても有効ですが、でも、低用量ピルは保険適応がありません。保険の薬価が設定されていません。中用量ピルは治療として保険が使えるのですが、低用量は治療薬として認められていないのです。単に避妊の目的としてのみ許可されている、避妊には保険は適応されないと言うことなのですね。だから、あくまでも私費で、月に3000円ちかくのお金が必要ということなのです。高校生などだと、親がスポンサーになってくれないとなかなか無理ということですね。   河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年10月 1日 (月) 23時51分

Hochさま
本当にあなたも、数々苦労したのですね。つい最近まで、いえ、今でさえも、月経についは数々のタブーがあってそれによって若い人たちがとても苦労しています。みんなが楽に過ごせるようになるといいなあ、思います。また、お会いしましょうね。 河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年10月 2日 (火) 00時03分

sanaさま
コメントありがとうございます。子宮内膜症はとっても痛いし、不妊になったりもするつらい病気ですが、低用量ピルで、とても楽に過ごせるようになります。PMSもですよ。その時期、ひっそりと過ごすのがご自分にとって快適な過ごし方であるのならいいのですが、もし苦痛なのなら、どうぞ、ピルも試して見てくださいませ。  河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年10月 2日 (火) 00時08分

さとうしゅういちさま
上杉謙信の話って本当に?私はそんな仮説知らなかったけど、物知りのさとうさまだから、知っているのですね。おっかしい話ですね。でも、本当に今の政治家達の性や性教育やジェンダーについての無知とバッシングはひどい限りです。何とかしないと。 河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年10月 2日 (火) 00時11分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/205567/16628400

この記事へのトラックバック一覧です: ピルとバッシング:

« 医師会と医師政治連盟 | トップページ | 忍者のデザート「原始晩餐会」 »