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若者の無知(3.人工中絶が出来ない)

 若い人が、妊娠してるのではないかと言って来院した時に、最終月経からずいぶん経っていることがあります。私は、ドキドキします。間に合うのだろうか、と。

 多くの大人達は誤解しています。今時若者の性というと、どこか、家庭的の問題のあるつっぱりさんが、出会い系サイトだの、不特定多数ととか、時には薬物を伴ったり、とか、非行として捉えています。たしかに、うちの来る子の中で売春している子とかいますが、ごく一部です。そして、そんな子は、まだ安心なのです。友だちについて来てもらって、産婦人科を受診することが出来ます。叱られることを覚悟して、「お母ちゃん」と、SOSを求めることも出来ます。でも、これまで何ごともなくすくすくと来た子ほど、大変なことになったというのが先に立って、自分一人で抱え込みます。一人で病院に行くこともできず、誰かに助けを求めることもできず、ただ一人抱え込んでいるうちに、あっという間に時は経ってしまいます。来た時には、遅い!もう産むしかない、と言うそんな時、これが私は怖いのです。

 こんな子に出会って見て思うのは、例えば「妊娠週数、月数の数え方」「出産予定日はいつごろか」「いつまで人工中絶が可能なのか」そんなことを何にも知っていません。例えば「妊娠する原因になった性交から、二週間、二週間前を思い出してごらん。つい、この前でしょう。性交から二週間経った時点ですでに妊娠二ヶ月と言うんだよ。」と言うと、生徒達はがやがやとなります。まして、出産の予定日なんて、10ヶ月ではありません。性交から、8ヶ月と少しで予定日は来ます。この特殊な数え方を知らないと、性交から一ヶ月経ったから妊娠一ヶ月、二ヶ月経ったから、妊娠二ヶ月と、これが当たり前の数学の数え方なのですが、そう思っていると、とんでもない。そして悩んでいるうちにあっという間に時は経ってしまいます。やっとの思いで来た時には、もう遅い!となってしまうのです。

 産むしかない!こうなってしまうのは、本当にそれまで何事もなく来た子達です。家庭的にも問題のない、学業もちゃんとしている、そんな子が突然、子どもを産まなければならなくなったなら。本当にその一家は大変なことになってしまいます。こんな出産をしなければならなくなったのは、ほとんどが中、高校生ですが、私は小学生の出産にも二人関わっています。最低年齢は、11才。5年生での妊娠です。小学生の妊娠は、まず100%出産となります。誰もまさか小学生が妊娠しているとは思いません。生理が不順でも当たり前です。あっと廻りが気づいた時には、遅かった、ということになります。

 もうすぐ、高校の受験がある子、大学の受験がある子もいました。こんな子が、途方にくれて、子捨て、子殺しの犯罪者となったり、自殺に追い込まれたりするのです。私は、自分が関わった人の中から、犯罪者と自殺だけは出したくない、と、それが最低限の私のスタンスであると考えて来ました。何があっても、助ける。「こんなことであなたの人生がダメになってしまう訳では決してない。道はいろいろとあるから」と。

 出産しなければならないのなら、その赤ちゃんをどうするか。誰がどこで育てるのか。そして、もし、その子が学生であるのなら、学業はどうするのか、学校や廻りにはどこまで知らせるのか、知られないようにするにはどうするか。具体的に肉体の隔離だけでなく、住民票の移動、戸籍の移動など、何でもします。何をしてでも知られない工夫が大切になる場合もあります。

 私は、これまで60人の赤ちゃんの養子縁組のお世話もして来ました。国内にも国外にも、いろいろな所に赤ちゃんが引き取られて、そして大切に育ててもらっています。その後の報告を戴いていますし、会うこともあります。赤ちゃんは大丈夫。でも産んだ女性は。

 私はいろんな女達に出会って来ていますが、育てられない出産をしなければならないほど、悲惨なことはない、と思っています。みんな、産まなければならないと分かった時点で何とか自分で育てたい、と言います。では、どんな方法で。もし、相手の男性が

「よし、分かった。赤ちゃんが生まれるのなら、頑張って二人で働いて二人で育てよう」

と言ってくれたなら、いろいろと大変ではあっても、結果的には笑顔で赤ちゃん抱いて退院していけます。でも、もし、男性が困る、と言ったなら。赤ん坊なんて、自分にはまだ育てられない、と言ったなら。今の日本の社会で女一人で子どもを産み、育てるには、年齢的にしっかりして、職業、収入もあるのなら可能でしょう。でも中学生や高校生が一人で産み、育てるにはこの日本の社会はあまりに冷たい社会です。まず、不可能と言っていい。

 さんざん、悩んで苦しんで、そのあげくでのこどもを手放す、という結論です。彼女達は、みんなどれだけ泣いたことか。泣き泣き赤ちゃんを手放していきます。私は、そんな彼女たちのしんどい姿を本当に見て来ました。

(今回は長くなりました。明日は、いや、もう今日ですね。ある県で朝から夕まで講演をします。そのために、ホテルに入っています。移動のために安倍首相の退陣のニュースがほとんど見られなくってザンネン。また、この続きをお話します。)

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コメント

久しぶりにコメントを書きます。河野さんが「若者の性」に対して、勢力を傾け、不幸な人を増やさないように連日悪戦苦闘していらっしゃる様が分かりました。これだけ、愛情を持て心配してくれる人は、いないと思いますよ。
我が家には24歳の一人息子がいます。ガールフレンドとは4年の付き合いです。河野さんの「さらば 悲しみの性」は高校生の時に読むように渡しました。そのときに「女性と付き合うときに男性は、その女性のことをよく考えなければいけない。自分の感情だけで突っ走ると、結局は女性が悲しむことにになる。あなたは、まだ社会的に自立もしていないし、そうなった場合に責任も取れない。そのことをしっかり考えてほしい。自分の責任が取れるようになるまで、しっかり考えて欲しいと言いました」
親としては、彼がガールフレンドがいることは嬉しいし、良いともいますが、常に「自分の責任」のことを考えているか?と思います。また、河野さんが仰るように「彼女自身も考えているか?」と思いますが、そういうことをまだ、言い出しかねています。

投稿: eastwaterY | 2007年9月14日 (金) 10時55分

eastwaterYさま
コメント、ありがとうございます。かなりばたばたしておりまして、更新もとぎれとぎれになっていますが、今、ここで全身で性教育について語っておきたいのです。私は、男性の親は、息子に対してのみ、しっかり伝えていればそれでいいのでは、と思います。それに、息子さんはもう大人ですね。大人のカップルは、もう、ふたりに任せていいのですよね。なんか言うと、姑根性になりそうで。私も、もうすぐ息子結婚式で、やれやれです。  河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年9月14日 (金) 14時41分

いつも読ませていただいてます。
安芸たかたマリリンから花かんざしに改めました。よろしくおねがいします。
お恥ずかしいことですが、はじめて知る内容も多くて子育てを終えた今勉強させていただいています。
孫たちに(まだですが・・・)しっかり伝えていきたい(いかなければ)と痛切に思います。
これからもずーーっと読者になりたいと思っています。

投稿: 花かんざし | 2007年9月15日 (土) 22時40分

花かんざしさま
素敵なお名前に改名、おめでとうございます。ブログ、読んで下さって、そしてはげましていただきまして、ありがとうございます。一生懸命書いているのですが、ふと、書いてても、意味があるのだろうか、と、自身がなくなったりするのですが。もう少し、頑張って書いて置きたいとおもっています。ありがとうございます。  河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年9月16日 (日) 02時32分

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