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性教育の講演(終章)

 今日木曜日は休診の講演日でした。島根県の益田まで車を運転して行きました。一昨日の夜中にソウルから帰り、昨日はてんてこ舞いで診療をし、貯まった雑用を片付けていて、ふと気づくと申し込みをしていた広島ブログの会の終わった時間でした。本当に申し訳ないことに、すっぽかしてしまいました、私もとても楽しみにしていたのに、そしてみなさんへと思って韓国のお菓子をどっさり買って来ていたのに、もう、ザンネンでした。皆様本当にごめんなさい。

 そんなことで、やや疲れていて、益田への車の往復の運転が少し心配だったのですが、かんかん照りの残暑の青空に、緑がとてもきれいで心なごみながら行って来ました。益田では、看護学校の学生さん達に話しました。近い将来、医療の現場で働く方達です。高校生に話す内容に、大人に話す内容をミックスして話しました。この性教育の話のシリーズも、いよいよ終章です。今日話したことも含めて、ここに記します。

 私は、「性」と言うものは、決していやらしいもの、恥ずかしいものとは思っていません。そうではなくってとても大切なものだと思っています。大切で、さらにとてもいいもの、素敵なものと思っています。私は、若者達に素敵なものを素敵なものとして実行できる、そんな大人になって欲しいと思っています。そして、素敵な性を実行するために何が必要なのでしょうか。何よりも、びくびくしながらの性、後ろめたさをもった性、例えば「妊娠したらどうしよう、誰かにばれたらどうしよう、親に知られないかしら」これらは、絶対に素敵なものにはなりません。

 そして、「この人はどんな人なのかしら」という警戒心を持ちながらの性。これは、「出会い系サイト」での性にしばしば見られるようになりました。今、出会い系サイトでの被害が急増しています。私は、以前はこの話はしていなかったのですが、どうしてもこれは話しておかなければと思い、若者向けの講演の時には、入れるようにしています。出会い系サイト、携帯やパソコンにどんどん飛び込んでくるでしょう。出会い系サイトは、決してメールの交換だけでは終わりません。これは、会おうと言うもの。そして、会う目的はセックスです。はっきり言います。これは、セックスが目的なのです。

 若い人たちは、「会ってもいいじゃん。会ってみて感じが良かったらご飯をおごってもらったり、カラオケぐらい行ってもいいかね。まあ、一回くらいホテルに行ってもいいかね。感じが悪かったら黙って帰ったらいいんよね。」と言います。「感じが良かったら、悪かったら」会っただけで人を見る目が出来てるなんて、思い上がらないで欲しい。まだ君たちは未熟ですよ。私くらいになってやっと、患者さんと話してて、「ああ、この人はいろいろな社会を背負っているな」と言うのがやっと何となく分かって来ているのに。君たちはまだ未熟だと認識しないとね。

 私の所で一番多いのは、やはり妊娠です。妊娠が分かって告げたとたん、携帯を変えられて連絡がつかなくなって、中絶の相談をしようにも、お金の相談どころか同意書にサインすらしてもらえなくって途方にくれる、というケースが度々あります。

 優しそうな人だと思ってホテルについて行って相手が裸になったら、全身に入れ墨があって震え上がったという患者さんもいました。もっとも、入れ墨がある人、即、悪い人と短絡的には言えないけれど、「外見からはとてもそんなに見えなかった。怖かったよう。」と私に訴えました。

 それから、私の患者さんではないけれど、私の性教育の仲間の教師の生徒だけれど、ホテルに行ったら、相手ががらりと変わって、いきなり殴られたと。殴る人、いわゆるサディストだったのですね。いいですか、密室の中に二人っきりになるというのは、命を危機にさらすことなのです。声を上げたって聞こえはしない。逃げようとしたって逃げられはしない。殴られて、蹴られて、ほほの骨が折れて、鼻も折れて、そうしてレイプされた、と。殺されなかっただけ、まだ良かったのだけれど。殺人事件にならないと、こんなのは報道されないけれど、殺される人もとても増えているのですよ。

 相手に対して、すべての警戒心を解き放って、心まで裸になって、裸の心と心で向き合う性でこそ、とそう思います。どうか、焦ることはありません。何よりも、しっかりと自立した大人になること。そして、素敵なパートナーと心から望んで、コミュニケーションが取れ合った、素敵な性が実行できる、そんな大人になって欲しい、そう思います。

 私は、こんなことを話しています。まだまだその場によって立ち会い分娩のこととか、性感染症のこととか、性風俗のこと。それから、大人の方へは、自らの性意識を点検して欲しいこと、熟年離婚が増えている今、本当にパートナーとコミュニケーションの取れ合った関係であるか、とか。そんな話を盛りだくさんにしています。

 これまで、性教育について、何をどうしたいのか、私の話をさせて戴きました。性教育について、誤解をしたままに(というより、意図的にねじ曲げて)反対している人たちの力が強くて、今、社会では性教育が後退しています。そうして性教育が出来なくなったとたん、私のクリニックでも中学生の妊娠が相次いでいます。私は、性教育とは生きる底力をつける教育であると思っています。すべての若者がしっかり学んで、素敵な大人になって欲しい、心からそう願っています。そんな日がいつかは来るであろうことを期待して、一旦、性教育について、終了とします。でも、これからも、私の現場で出会ったこと、考えたことをその時々に書かせて戴きますので、これからもどうぞよろしくお願いします。

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コメント

性教育=生きる底力をつける教育!
感銘しました。

投稿: 吉原 | 2007年9月20日 (木) 22時20分

子どもの中学校の役員をしていた時(十数年前)、PTAの講演会に河野美代子先生に来ていただこうと提案して、公民館の方が連絡を取ってくださったのだけれど、先生のスケジュールが合わなくて叶いませんでした。
今ここで、しっかり勉強させていただきました。
義務教育での性教育。本当に必要な授業だと実感しました。
が、頭の固いお偉いさんや宗教団体のせいで、それが出来なくなっているとの事。
美代子先生の声を教育委員会やまともな政治家に届けるために私たち母親に出来ることはありますか?
まず広島から、いのちと平和を考えることの出来る教育を!

投稿: うららさん | 2007年9月21日 (金) 11時58分

再度、おじゃまします。
「ビジネス界」との和解、おめでとうございます!
"正義は勝つ”ですね!!
10月15日発売の11月号、必ず読みます。
ここで、カンパ~イ!

投稿: うららさん | 2007年9月21日 (金) 18時07分

先日はわざわざ遠いところから来ていただきありがとうございました。講演を聞きました。
今日もニュースで出会い系で知り合った男性に女性が殺された事件を聞きました。やはり若くても自分の行動に責任を持てる、自分の体は自分で守れることはこれから大切だと思いました。
裁判が判決するとおっしゃっておられましたがどうなりましたか?

投稿: まめ | 2007年9月21日 (金) 19時42分

 彼とは6年前に出会い系サイトで知り合いました。
 その頃の私は22才、男の人と話すのが苦手で、合コン・カラオケなんて行ったことありませんでした (今も合コン カラオケは進んで行きたいと思えません苦手です)
学校が終わったらまっすぐ家に帰るっていう感じです。
 サイトも適当に見てたと思います メール→電話→手紙→会う
 出会った頃は、夜遅くまで電話をしてました 彼は宮城県、私は広島と、かなりの遠距離恋愛
 ですが、寝ても覚めても彼の事しか考えれない状態でした 電話はどちらかと言うと彼からかかってくる方が多かったです。 私は、会いたいし寂しいから、よく泣いてました 仙台に行って…住むみたいな事も言ってました…
 
 2年前から電話もなくなり私は自然消滅したんだと思っていました
 ですが突然今年の7月にメールがきて電話で話しました 「この2年どーしてたか、何か新しい出会いはなかったのか、家族とはどうか、 あの頃お前は、寂しさでこっちに来るみたいに言ってたけど 俺はあの時来られても支えきれなかった
もっと自信を持てって  俺が悪かった…」
などいろいろと言われました。

彼は小学校の先生で今年32才になります
前から私の事をいろいろ考えてくれる人で、心配はしてくれます
私は、こう思ってる考えてるってすぐに言えなくて黙ってしまうタイプです。
 学校の先生だと世間体が気になると思うし、どこで知り合ったのか聞かれるし、そういう事も含めてやっぱり彼とは結婚は無理なんだと…恋愛って何?彼氏なの?私は何??
 この前の電話で気付いたんですが、彼は遠回しに別れようって言ってると
はっきり私から今までの気持ちと別れましょうって言おうと それか手紙を書いてからかなぁ

先生のメッセージを見て、セックスが目的…  なんか泣けてきます。そうだとわかっててもそう思いたくない…私…

投稿: 泣き虫 | 2007年9月21日 (金) 22時35分

河野さんが連続して書かれた性教育、性に関するブログを読んで、河野さんがいかに「人間を愛し、未来を創造していく若い世代のことをどれだけ案じ、少しでも彼等に正しい”性”を知って欲しい」と思っておられるかがよく分かりました。その情熱が一時のことではなく、長い間にわたっているということをとても尊敬いたします。村瀬さんの『ニュー・セクソロジー・ノート』に、これまでの日本では「生のあり方は、その人が決めることとか、性は一人ひとり個人のもの、人権であるという考え方が存在しなかった」ということ、「性を学ぶとは、”関係”として性を考えることである。そのために、自らの性のみならず相手の性もよく理解し、のぞまし関係づくりを進める力を身につけることである。この点で”自信の性”から”関係の性”へとは、”別性の性”から”共生の性”へということと同意である」と書いてあるような日本になっていけば、お互いの性の自立が進み、相手も自分も大事であるという肯定感が持てる人になれると思います。

投稿: eastwaterY | 2007年9月22日 (土) 15時25分

吉原さま
超ご多忙の中、ブログを読んで戴いて、そしてコメントまでいただいて、ありがとうございます。私も一段落です。お忙しいようで、たいへんでしょうが、でも、仕事がないよりは恵まれていると思ってやっつけてくださいませ。でも、、、時には休んで下さいね。
河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年9月23日 (日) 01時23分

うららさんさま
コメント、二つもありがとうございます。私、診療をしながらの講演ですので、休診の日、木曜日か日曜しか講演にはいけなくて、スケジュールが合わないことがずいぶんありました。土曜日の要請がとても多いのですね。でも、土曜日は一番診療がきつく、沢山の患者さんが来られますので、講演は無理なのです。
これからも、ぜひ保護者の方に声を上げて戴きたいのです。直接生徒に話すのが無理でも、PTAであれば学校の許可を少々強引にでも取り付けられると思うのです。まず、保護者の方に私の話を聞いて欲しいですね。そしたら、子どもたちにも性教育が必要であるとわかってもらえると思うのです。これまではPTA協議会の会長を相手に裁判をしていましたので、なかなか難しかったのですが。ご声援ありがとうございました。河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年9月23日 (日) 01時46分

まめさま
益田の方ですね。講演聞いて下さってありがとうございました。将来、医療関係のお仕事につかれる若い人たちにお話を聞いていただくのは、とってもうれしいことなのです。どうぞ、これからも、頑張ってりっぱな医療者になってくださいね。あっ、生徒さんですか。もしかして、先生かしら。もしそうだったら、失礼しました。それから、裁判、22日のブログに書いています。これからも、時々はブログ、覗いてくださいね。河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年9月23日 (日) 01時51分

泣き虫さま
そうだったのですか。前のコメント、そんな事情があったのですね。それはしんどいですね。その後彼との交流は続いていたのですか。うーん、ごくごく稀なのだけれど、出会い系サイトの出逢いでゴールインする人もいるけれど、それは奇跡みたいなものですよ。私、それよりも、今、現実に身近にいる人たちとの出逢いに積極的になって欲しいと思いますね。仕事と家との往復だけでなく、いろいろ、サークル活動とか、ボランティア活動とか。公民館や習い事でも、、、いろいろな所に出逢いはあると思うのです。実際の姿をお互いみせながらの会話が欲しい、と思います。また、お話しましょうね。河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年9月23日 (日) 02時07分

eastwaterYさま
これまで、度々のコメントで、私を支えて下さってありがとうございました。講演という限られた空間で限られた人たちを対象に話すのと違って、不特定の方達に発信するブログというのは、いろいろと制限があって、十分に話せないこともあリましたが、一応、話せたと思っています。ありがとうございます。村瀬先生のおっしゃる事は、本当に正論で、私も多いに勉強させてもらっています。今度、先生をお呼びする時には、必ずブログでも呼びかけますので、ぜひご参加下さいませ。河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年9月23日 (日) 02時17分

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