首相の約束
今年の原爆記念日の祈念式典に安倍首相が参加し、その前日に被爆者代表と面会をした。その際、原爆症の認定の見直しを早急にすると首相が言ったと報道された。その発言を受けて、参加していた被爆者団体の方々の反応はいろいろではあったが、やはり喜んでいる雰囲気が見て取れた。その中でも、一番大きい団体の代表の人が、とても喜んで、「もう、これで大丈夫。一番のトップが言ったんだから、もう右向け右で大丈夫でしょう。」とあまりに無邪気に喜んでいらっしゃるものだから、私は違和感を覚えた。
テレビの前で「あんなに喜んでいいのかね。もっと、これまでさんざん苦労して認定される事なく亡くなった人たちのことを、まず怒らないといけないのでは」と言った。だって、もし近藤幸四郎さんが生きていたなら、きっと彼は怒ったと思う。近藤さんは肺癌、胃癌、喉頭癌の三つも癌になって、原爆症の認定を申請しても却下されたのだから。それが原爆に影響された病気であるか否かとの判断ではなく、ただ、決められた予算があって、その範囲でしか申請が認められない、そういう仕組みになっている。また、認定するか否かは爆心地からの距離のみが左右している。そこをしっかり怒らずして、まるで権力者に対してこびるかのような発言に聞こえて、だから、違和感を持った。それに、いくらトップが「はい」と言ったって、なかなか官僚、行政が動くものでないことは、これまでの数々の事例が物語っている。
案の定、そう言ったその舌の根も乾かないうちに、原爆症の認定訴訟で国が敗訴した判決について、国は高裁に控訴している。その交渉の場で、なぜ、控訴を辞めよ、と、強く迫られなかったのか。いえ、せまられたのかも知れない。でも、それについてはちゃんとした答えがなかったのかも。あるいは、老いた被爆者に期待を抱かせるような事を言っておいたのかもしれない。そして、後になって期待を裏切るようなことをしたのかもしれない。私なんぞは、はじめっから、そんな魂胆なのではないかと、警戒をしてしまう。
輸入血液製剤によりHIVに感染させられてしまった人たちの裁判で、控訴しないように、という署名を沢山集めて、何人もで厚生省(当時)の大臣室に提出に行ったことがある。署名集めの苦労、重い署名用紙を風呂敷に包んで広島から何人もがよっこらよっこらと持って行ったその苦労、そして、広島出身の衆議院議員の紹介で面会を申し込んであったにもかかわらず、大臣は結局逢ってくれなかった。そしてそのすぐ後に地元の後援会の方達が大臣室に来るからと、そそくさと追い出され、確かにその大臣の後援会の名前が前に貼ってあるバスが何台も駐車してあるのを見た時のいやあな気持は忘れない。結局、この裁判については、国との和解が成立した。それも、当時の厚生大臣である菅直人氏が強引に厚生省のお役人を指揮した結果であったと言われる。しかし、それとても、国民の側の盛り上がりと、なによりも多くの感染させられた方達がまさに命をかけて国を告発し、裁判を闘った、その原告たちの頑張りがあったからこそである。
このように、一筋縄では行かないことが見え見えなのにあんなに喜んでいいのかなあ、と危惧したそれは当たっているようだ。早急に、といっても、それが具体的にいつであるのか、全く表明されないままでいる。
一昨日のサンデープロジェクトで言っていた。例の、5000万件の年金の行方不明事件、首相は一年で解決すると言った。しかし、まだ全くそれには手がつけられていない、と。ごくごく一部、本人から申し出のあった十件あまりが第三者委員会に諮られて認められた、と、それだけだと。だって、本人が申し出ても、それが証明されるのに、何ヶ月も経つようなのに、5000万件も一年で出来る訳がない。それは、やはり選挙のためにそう言っただけのことで、現場では、やる気は全くないと。
この間の防衛大臣と事務次官との争いを見てみても、もう、全く今の首相をはじめとして閣僚は、ばかにされている。大臣が言ったって、そう簡単に官僚は動きはしない、そう番組で言っていた。さもありなん。だから、首相が言ったからといってそう単純に喜んではならないし、また、そう単純に喜ばせておきながら、裏切るように控訴した国、首相に対して怒りを持つのだ。

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コメント
この安倍総理というお方は憲法を変えると参院選でマニフェストに掲げて戦いながら、「憲法の規定を遵守し」と平和宣言でさらりといってのけるんですから軽いですよね。
自民党といっても昔はどしりとした人が結構いましたが、今は軽い人ばかり。他人をなめきりまくりだと思います。
投稿: さとうしゅういち | 2007年8月21日 (火) 23時25分
私も安倍首相のいとも簡単に「原爆症の認定の見直しを早急にする」といった事に違和感を持ち、嘘っぽく感じたことを覚えています。参議院選挙の直前に、たった一人の人の年金問題を解決し、これからもどんどん調査し、解決していく姿勢を見せた事にも、騙された思いをしました。ところで、原爆手帳について、私は不信感を持っています。実は、私は被爆距離の関係で原爆手帳ではなく「健康診断受信者証」を持っています。今のところ、私はコレステロール値が少し高いので、毎日1錠の薬を飲んでいますが、それ以外何の問題もなく、いたって健康体です。だから、私の家庭医も「原爆手帳に切り替える必要なし」といわれ、私もそう思っています。ところが健診にいくとそのたびに「なぜ、原爆手帳に切り替えないのか」と、そこにいる健診スタッフの人たちに言われます。「原爆手帳に切り替えれば、医療費はただだし、健康保険手当てもでるのに・・」といわれるのです。私はそのたびに「私は、その必要がないと言われています」といっても納得されないのです。それほど健康体の人が「健康診断受信者証」を「原爆手帳」にきりかえているのでしょうか?それって、おかしいと思うのです。公務員の人達の考え方は、そういう感覚なのでしょうか?先生は医師として、どう思われますか?私は私の家庭医が正しいと思います。
投稿: eastwaterY | 2007年8月21日 (火) 23時43分
終戦記念日に、不戦の誓いをしましたよね。
不戦という意味さえ知らない人。
この国の一番の悪者は、マスコミじゃ何のでしょうか?
何もしていない。
年金の報道さえもうしていない。
不戦の誓いをした首相に対して、集団的自衛権の捻じ曲げた解釈を用いても、アメリカと戦争をしようとしていることについて、何も追求していない。
また民主党もどうなんでしょうか?
早くからわかっていた情報を、参議院選挙用に持ち出したとしか思えません。
原爆に被害については、未だに科学的に全て検証されてはいないのではないでしょうか?
ならば、認定の根拠に正当性は存在しないでしょう。
厚生労働省(厚生省)は、いままで国民を守ることは一度もしていないように思います。
族議員のため、自民党のため、官僚の天下りのためのお金を捻出するためには、国民の生命財産はどうでもいいのでしょうね。
年金をそのために流用(政治献金等)する法案を作っているのですから。
投稿: やんじ | 2007年8月22日 (水) 00時19分
さとうしゅういちさま
いつも、コメントありがとうございます。そうですね。今、私たちに出来ることは、首相をはじめ、政治家達の言動をしっかりウオッチングすること、そしてそれを忘れない事だと思います。そうでないと、ホント、だまされっぱなしなのですもの。河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2007年8月22日 (水) 23時57分
eastwaterYさま
首相の嘘っぽいというのは、本当にその通りと思います。老いた被爆者をだましている、だから怒るのです。それから、eastwaterYさま、わたしは原爆手帳については、ちょっと違うのでは、と思っています。手帳は、病気の人だけが持つものではありません。それは、その人が今は健康であっても「被爆者」であることを国に認めさせることである、と思っています。保険証は、病気になって初めて持つものとはちがいますよね。もし、あなた様に手帳がもらえる条件があるのであれば、今の内に、ちゃんともらっておいた方がいいと思います。其れは、国に対しての権利なのですよ。手帳は、病気の時だけでなく、様々な使い方があります。くどいようですが、国に認めさせることなのです。「黒い雨」の地域を「被爆者」と「そうでない人」とに分断する国に対して、根強く被爆者としてみとめよ、と運動している人たちもいます。それは、とても大切な運動であると私は捉えています。河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2007年8月23日 (木) 00時08分
やんじさん、
そのとおり!!ずいぶん鋭くなっていますね。そんなことを自分のブログに書けばいいのに。このごろ、お休みが多くて、?です。河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2007年8月23日 (木) 00時10分