医の原点をみた
先日、県北のとても奥深い所の診療所を訪ねた。そこに開業しているのは、広島で名医といわれた外科医である。過疎地に開業して、妻と二人、地域医療に徹している。私がもう暗くなって行った時、患者さんやスタッフと共に待っていて下さった。そこで、皆さんの話を聞いた。
その地の人たちは脱水だとナースである妻が言う。農作業をする人は、できるだけトイレにいかなくてもすむように、水分を取らない習慣がついていると。水分不足は、結果、血液が濃くなって血管が詰まる。脳の血管が詰まると脳血栓だし、心の血管が詰まると心筋梗塞だ。それに、血圧が下がったり、脳貧血になったりもする。待合室にはいつでも水やお茶が飲めるような機械が置いてあるけれど、あまり皆さんが飲まない。だから、午前11時になると待合室の皆さんにアクエリアスを出して飲んでもらう。朝起きると彼女はなべにいっぱいの雑炊を作る。そして、脱水の人には点滴をしながら雑炊を食べてもらう。私も「これは患者さんに出す雑炊だから、食べてみて」とごちそうしていただいた。お野菜がたっぷり、それに卵も入ってとてもおいしい贅沢な雑炊だった。それに、患者さんが帰る時には、ペットボトルのお茶を一本持って帰ってもらう。これを夜寝る前に一口、途中目が覚めたらその時にも一口、朝起きたら一口飲みなさい。一日にこれを二本か三本分は水をのむのよ、と、指導をする。もちろん、アクエリアスや雑炊や持って帰ってもらうお茶もみんな無料のサービスだと。だいぶ皆さんに水分を取ることの大切さを分かってもらって来たけど、まだまだだと。
ここの診療所は朝6時にはじまる。朝の内に胃カメラや超音波の検査をすますのだと。だから、冬は大変。彼女は6時までにバス停から玄関まで雪かきをしておかなければならないのだと。そして、9時の診療開始時には、もう患者さんは4~50人待っている。待合室では、体操の指導をしたり、地域の歌手の方に来てもらって、ギターをひきながらみんなに歌唱指導をしてもらって、歌うのだそうだ。味気ない病院の椅子だけが並んでいるような待合室と違って大きな机をかこんで、まるでサロンのようになっている。
地域の人たちは本当に幸せだと言われるし、私もそう思った。単に病気の方を診るだけでなく、生活指導から栄養指導から、予防医療など、トータルに地域の方達の健康づくりを担っていらっしゃる。地域ぐるみの勉強会や研究会は自分の所のスタッフだけでなく、地域のケアマネージャーやヘルパーさんにも力をつけてもらうようにとの目的もある。
すっかり話し込んで遅くなった。彼女は、私を一人では帰らせられないと言う。こんな山道を一人では絶対だめ。そして彼女が私の助手席に乗って、先生が後ろを付いて走る、と。そんな、あすまた早いのに、大丈夫、私は一人で帰られるから、と、固辞するもダメだった。だって山道は狸がでるのだと。狸は、車のヘッドライトに向かって突進して来ることもあるのだと。山の中では携帯もつながらない所もあって一人て゜はどうにもならないこともあるから、と、先生にまで言われて、結局高速のインターまで一時間半も付いて来てもらった。そして山道で本当に狸が三箇所で出たのに、びっくりした。
インターで分かれて、一人高速道路を走らせながら、つくづく考えた。同じ医師の資格があってもこのご夫婦のように、採算は二の次にして地に足の着いた医療を住民のために取りくんでいる人がいる。私は、今、何をしようとしているのだろう、と。でも私は立候補することを決意してから、県内様々な所に様々な人を訪ねて行き、本当に多くの方から多くのことを学ばせていただいている。これだけでもありがたいことだとも思う。明日は宮島に行く。またどんな出逢いがあるのだろうか。

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コメント
素晴らしいご夫妻ですね。
読ませて頂いて、ああ、私も脱水だ!と思いました。
20代の頃、出張が多い仕事をしていて、
移動距離も長かったのですが、列車のお手洗いというのが苦手で、
水分をなるべくとらないようしてしまっていました。
そのせいもあるのか、今でも他の人に比べて水分を摂っていないようです。
気をつけなくちゃだめですね・・・。
こうの先生も、「医の原点」にいらっしゃるお医者様です。
先生は私の人生のお医者様です。
「いのち」の大切さを教えて下さった尊い師です。
先生との出会いがあったからこそ、
私も子どもも、
生きていることの歓びを見出すための日々を送ることが出来ています。
投稿: Hoch | 2007年6月 6日 (水) 00時06分
Hochさま
昨日は事務所に来て戴いてありがとうございました。
お忙しいのに、本当に恐縮です。感謝です。
水分は、しっかり取ってくださいね。水は腎臓が悪い人以外には健康の源ですので。 河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2007年6月 6日 (水) 07時31分
仕事ややるべきことは、
地位や名声でなく、本来自分自身が求めていたこと。
そんな仕事を見つけられることは、素敵なことですね。
きっと笑顔と優しい声に囲まれた、楽しい時間がたくさんあるんでしょうね。
私は、まだまだ、だめですよ。
投稿: やんじ | 2007年6月 6日 (水) 13時00分
やんじさま
確かに、集まっていただいたクリニックのスタッフの皆さんも住民のみなさんも、にこにこと笑顔でしたよ。私もそうありたいものです。 河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2007年6月 7日 (木) 02時03分
はじめまして。
すっかり日々の生活に追われて忘れてた「自分の本来やりたかったこと」を思いだしました。私は中国山地のてっぺんあたりの山の中の出身です。まわりの農家のおばあちゃんたちは、若い頃からの重労働がたたりほぼ全員が膝関節変形症。曲がった腰と足でバランス悪くあるく姿を見ながら、いつかこの地に戻ってきて楽しい老人デイケアを作ろうと思ってました。
そんな夢を抱いて広大の保健学科で学んだ頃を思い出しました。
今ではすっかり医療の道からはずれてますが、月に2回ほど団地のご老人の集まるサロンにて、体操したり健康についての小話をしたりというボランティア活動をしています。
すっかり昔抱いていた夢は忘れていたけど、知らず知らずのうちに少しは近いことをしてるんだなぁ、とそんな自分が嬉しく思いました。
よい話をきかせてくださってありがとうございます。
投稿: つゆまめ | 2007年6月 7日 (木) 21時07分
はじめてコメントします。shiozyの友人です。こんな本当のお医者さん、恵まれた患者さん達が、その思いをぶつけ、受け止める人がいなかったのです。河野さんこそその人です!
昨日みんなで集めた基金をわずかですが振り込みました。元々今回のために集めたのではないのですが、みんなの賛同を得て、カンパしました。私たちの尊敬する先輩が病に倒れたとき、かつての仲間に募って集めました。完治はしませんが最悪の状態を脱し、頑張っておられます。ちょうどよいときにshiozyが決意し、後援会に入りましたので、先の提案をしたものです。詳しくは後日彼がしますが御利用いただければ幸いです。
広島の皆さんはこんなに素敵な、立派な候補者を選べるなんて、幸せですね。はるか京都の地から応援してます。
いずれ我が先輩も意を決してそちらをお尋ねするはずです。
ブログ毎日楽しみに読んでいますが、はらはらします。御自愛下さい。
投稿: yaasan | 2007年6月 8日 (金) 00時11分
つゆまめさま
はじめまして。コメントありがとうございます。そうですか。「自営業の奥様」も保健学科で学ばれたのですね。私、県北もいくつもの特別養護老人ホームなどの見学をしています。どこも需要はいっぱいですね。今なさっている活動もつゆまめ様にしか出来ない大切な活動ですね。私もつゆまめ様のブログを読んで、ほほえましい写真を見させていただいて、私の子ども達を保育所にあずけながら働いていた頃のことを思い出しました。また、よろしくお願いします。河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2007年6月10日 (日) 01時23分
yaasanさま
本当にありがとうございます。コメントを読んでびっくりしました。何ともありがたいことで、どうお礼を申し上げていいのか、とまどいと共に、深く感謝申し上げます。皆様の貴重な財産を戴くこと、私のきもに命じて、ご期待に応えようと思います。本当にありがとうございます。どうぞ、これからも見守ってくださいませ。それに、お礼が遅くなってすみませんでした。 河野美代子
投稿: こうのみよこ | 2007年6月10日 (日) 01時30分