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いのちが生まれるということ

 昨日のお昼時間は帝王切開だった。以前、子宮の手術をしている人のやっとの妊娠、出産で、だから、帝王切開での出産と決まっている人だ。出産予定日はまだだいぶ先だけれど、収縮などの症状があって、早めに手術をということになった。私はクリニックに病棟を持たない。だから、入院、手術が必要な人は、信頼する友人の病院に入院してもらって昼時間に出かけていく。そして、無事に2800グラムを少し超えた元気な男の子が生まれた。ちょっと早めなので、まだしわがあって、お母さんになりたての彼女は「わあ、しわだらけ」なんて、言ったりして。やっぱり赤ちゃんの誕生はいいなあ、と感動する。

 私が性教育の講演をする時には、途中で文部省選定の20分の「妊娠と出産」という映画を上映する。立った20分でも、本当に手際よく、体や妊娠の説明がされ、そして出産が映される。それを上映する前に、必ず子どもたちに話す。

 いのちの誕生というのは、決していやらしいことや恥ずかしいことではないね。すでに先に生を受けている私たちだれもが歓迎してあげるべきこと。私は、産婦人科医になって35年も過ぎるのに、まだ慣れない。無事に赤ちゃんが生まれてぎゃあーと泣いた時には、まだ胸がきゅうっとなって、涙が溢れそうになる。そして、「おめでとう!良く生まれてきたね」とためらうことなく言える。それに、赤ちゃんを産んだ後の女性の素晴らしくきれいな笑顔、産み終えた女性はみんなこんな笑顔をするよ。10何年か前、皆さん達はみんなこうして生まれて来たんだよ。この中には何人か帝王切開といってお母さんのお腹を切るという手段で生まれた人もいるだろう。それはそれで親も大変だったんだけれど。ほとんどの人はこの映画のような生まれ方をした。そして10何年か前、皆さん達の母親は、皆さん達を産んだ後、みんなこんな笑顔をしたんだね。その笑顔も是非見て欲しい。

 こんなことを言って、映画を上映する。子ども達は出産を見て、こぞって感動する。私の所には、沢山の感想文が寄せられる。ある大阪の中学校で講演したときのこと。二年生で、拒食症にかかって入院していた子がいた。病院から学校には通学している。その子の感想文。「講演の後、病院に帰らないで、家に帰った。そして、家でお母さんにお母さん、私を産む時大変だったんだね。産んでくれてありがとうね。もう、これからは自分で自分の体を傷つけるようなばかなまねはせえへんよ、と言ったら、お母さんが涙を浮かべていました。」彼女はいのちをみつめたね、と思った。

 今、性教育がバッシングに遭っていて、出来なくなっている。出産を見せるなんて、という攻撃もあるが、そもそもこの映画は「文部省選定」である。このお墨付きはとても強い。「文部省選定ですよ」というと、学校の管理職の人たちは、ほっとされる。赤ちゃんが生まれること、新しいいのちが誕生することをいやらしく捉える人こそいやらしい。貧しい性意識を持っているに違いない。

 いのちを大切にする教育をと言ったって、「いのちを大切にしましょう」と百回言っても通じない。それよりも、いのちの誕生と、そして、いのちの終わり、「死」を教えること。少し前まで、性教育の仲間は「死」の授業も含めて、いのちを真っ正面から見つめる教育をしていた。それがほとんど出来なくなって、ほんとうにこれからの子どもたちはどんなに育つのだろうと考えたら、暗澹たる思いでいる。

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コメント

大志とか信念がないのでしょうね。
誰かのためにするんじゃなく、
自分自身を守るために
自分自身が責められないようにするために、
逃げている、それも他の人のせいにして。

人を導く立場の人が、政治家が、大企業が、
そんな姿勢であるように思えます。

責任を取らないで済む方法、
義務を果たさないで済む方法、
そのための努力やお金をつぎ込んでいるように感じます。

政治の世界でも、自分たちで作った法律で、
自分たちを守っています。

水道光熱費を大量に使うということは、
環境破壊を推進しているということ、
そんな人が農水大臣。

与党政治家などは、世間には流通していない5万円札を持っているのでしょうか?

投稿: やんじ | 2007年5月24日 (木) 07時24分

はじめまして
お忙しい方なのに、コメント入れてしまいました。ペコリ
今日のブログを涙を浮かべ読んでます
我が家は3人目を
自宅出産いたしました。
目の当たりにした、出産は感動モンですね
それを2人のわが子達に見せれたことも
大変貴重な経験だったハズ
命の大切さが分かってくれたと信じてます。

投稿: あんこや | 2007年5月24日 (木) 08時17分

府中市の友人に河野先生のことを話したら、偶然にもその友人は何年か前に広島で先生の「性教育の講演」を聴いたそうです。
友人は3人の子供がいるから、当然のごとく性教育には感心があるので食い入るように聴いたそうです。
私は悲しいかな子供がいませんが、友人の子供が私の子供だ!との思いで接しています。

以前、「人間行き着く先は「死」だ。だから後悔せんよう、精一杯生きたいし、その時がきたら悲しまず拍手で送って欲しい」と私が師として仰ぐ人に言われていたことがあります。
私もせっかく頂いた「命」、しっかり大事に生きたいと改めて感じています。
先生の「性教育の講演」チャンスがあれば聞きたいです。そして、少しでも私の身の回りにいる子供たちに伝えたいです。

投稿: Masa | 2007年5月24日 (木) 15時40分

 やんじさま
そうですね。本当に今の政治はおかしいことだらけです。だからこその立候補の宣言でもあるのですが。
でも、もう少し国民が政治に関心を持って声を上げるようになったら、ちょっとずつでも変わるのではないか、と思います。その前に多くの人があきらめていたり、政治にはしらけてしまっていたりで、残念です。
           河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年5月24日 (木) 16時32分

あんこやさま
ブログを読んで戴いてそしてコメントまでありがとうございました。自宅でみんなで赤ちゃんを迎えたお話、ブログで読ませて戴きました。新聞の記事、楽しみですね。きっと素敵なご家族なのでしょうね。これからもどうぞよろしくお願いします。 河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年5月24日 (木) 16時45分

Masa様
コメントありがとうございます。
私、本当に多くの人たちに講演を聞いて欲しいのです。いのちの教育をしっかりすること。でも、どうやったらいいのか分からないままに、放置されていたり、何の興味も持てない話を聞かせておしまいにしたり。教育現場は混乱というより、あきらめ気味で悲しいです。   これからもよろしくお願いします。
        河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年5月24日 (木) 16時48分

私の手術の時のことを思い出しました。
検査の結果を聞かされた前日から手術の直前まで、
おなかの中の赤ちゃんは死にかけているんだろうか?
という不安で頭の中はぐちゃぐちゃ、
そして手術の準備に入ってからは、
おなかを切るのだという未知のことへの不安でいっぱい。
諸般の事情で、たった一人のお産だったので、
赤ちゃんにもしものことがあったらどうしよう・・と、本当に不安でした。


けれど、看護士さんにつれられて手術室に向かう途中、
すでに手術衣の河野先生が手術室で待っていてくださり、
「もしあなたが手術することになったら、私が行くからねって言ったでしょ?ほら、ちゃんと来たわよ!」と声をかけて下さいました。
先生のお顔を見て、どんなに力づけられたことか。
私は一人じゃない!と思うと、
有り難くて嬉しくて思わず泣き出したことを今でも覚えています。

手術が始まると、情けない話ですが、
不安と恐怖で息が苦しいくらいの、静かなパニックを起こしていました。
そうしたら河野先生が、
「もうすぐだからね。生まれてくる赤ちゃんのことだけを考えるんよ!」と
声をかけて下さり、そこではっと我に返ったのでした。


先生、「いのちの誕生」というのは、
本当に素晴らしいことですね。
生まれてきた小さないのちによって親になることが出来、
子どもを育てることで、自分も育てられていることを
しみじみ感じています。

性教育はいのちを知ることですよね。
どのように生まれてきて、
どのように死んでゆくのかを知ることで、
人は自分のいのちも他人の命をもいとおしむことが出来るのだと思います。
性教育へのバッシング、ゆゆしきことだと思います。

投稿: Hoch | 2007年5月24日 (木) 17時21分

初めまして先生に、診てもらっている患者の一人です。

幼い子から、学生まで、汚い大人の欲望に
振り回されて、悲しい思いをする子がたくさんいます

子供達には、そんな状況を回避出来る知恵を、与えて欲しいと、
いつも思っていますし、私自身も教えて欲しかったなぁと思います。

性が尊くて、自分がとても大切な存在なのだと、分かっていれば 
身を守ることだって、立ち直る事だって出来ます。

今の大人には、目を背けず、人事だと思わず、子供と向き合って欲しいです。
私は先生の講義を聞いて 知らない事や自分の知識の浅さにビックリしました。
大人も子供と一緒に性教育受けましょう~

投稿: 藍 | 2007年5月24日 (木) 17時39分

初めてコメントさせていただきます。
性の乱れを嘆く割に、性教育に尻込みする守旧派諸氏の矛盾に疑問を持ちます。
商業主義的メディアが「セックスは気持ち良い」しか語らず、どんどん誤った性情報を垂れ流すなか、正しい性知識を身につけなかったら、待っているのは中絶やSTD感染しかないと思います。
 某Y谷参議院議員のように、「行き過ぎた性教育の是正」を謳いながら、その実、時計の針を元に戻すだけの「懐古趣味」が事態を収拾したためしなどありませんよね。

性教育に関しては「寝た子を起こすな」ではなく「あなたたち、目覚めなさい!(BY女王の教室)」ということではないでしょうか。

末筆ながら「愛と性の十字路」と「さらば悲しみの性」を性知識の基盤としてきた私としては、先生のご健在なることをうれしく思います。選挙区が大きく違うため(関東某県在住)のため、投票はできませんが、先生のご検討を陰ながら祈ります。

駄文、失礼いたしました。

投稿: めかちゅーん | 2007年5月24日 (木) 19時25分

Hoch様
本当に大切で貴重な思い出を語ってくださってありがとうございます。たいせつな「いのち」をどうぞ、大切に育ててくださいね。また、機会があれば会わせてくださいね。     河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年5月24日 (木) 22時16分

藍さま
応援ありがとうございます。性教育のバッシングにたいしては、こうして性教育を応援して下さる方のお声がとても大切で、意味があることなのです。私だけでなく、多くの人が元気づけられます。また、どうぞお声を下さいませ。      河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年5月24日 (木) 22時21分

ねかちゅーんさま
遠方からの応援ありがとうございます。(ネットの場合は距離は関係ないかな?)でも、本当に私の言いたいことを代弁してくださってありがたいです。どうぞ、今後も見守ってくださいね。  河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年5月24日 (木) 22時25分

ずっと読んでみたい と思っていた先生の著書 「さらば悲しみの性」を読みました。(自分のブログにも書きましたが、)読んでいて 涙があふれてきました。

そして今、中3の娘に読ませています。

やはり性教育の根本は 命の教育だと思います。
自分自身が大切にされ、初めて人にやさしくなれる そう思っています。

先生と直接お話できるブログがあって、よかったです。
これからも応援しています。

投稿: チェリー | 2007年5月25日 (金) 01時13分

いつも拝見しています。
どのご意見にも賛成!!ですよ。
政治や行政に対しては、手の届かないところにあって、本当にうんざりしてあきらめムードです。
ぶつかっていこうにも、権力の前には太刀打ちできませんでした。

先生へのバッシングや中傷記事の件も、人前では「未来を担う子供たちのために・・・」なんて言ってる人間が、かたよった考え方で起こしたものですね。

私の力は限られてますし、なかなか先生のお手伝いもできないのが現実ですが、あきらめませんし、先生のよい所口コミでも広まるように頑張りますよ!!!

投稿: ママ | 2007年5月25日 (金) 07時52分

チェリーさま
さらば、を読んで下さってありがとうございます。
ブログも読ませていただきました。お嬢様の風邪、ご心配ですね。咳、私も長く続いて困った時、耳鼻科に行って、また違った視点で診ていただいて助かりました。早く良くなりますように。また、どうぞよろしくお願いします。     河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年5月25日 (金) 08時07分

初めまして、お邪魔いたしますm(_ _)m
少し前よりブログを拝見させていただいていました。

中学時代に先生の「さらば悲しみの性」を読んで、深く感動したことを
いまでも昨日のことのように覚えています。
そして、HIV関係で、ふたたび先生と「巡り逢った」ことに、不思議なご縁を
感じてしまいました。

いつかは母になりたい、そう思っていましたが、事実上のハードルは多く
実現の見通しは立ちません。。

いざ子供を持ちたいと思ったときに、それができない。そんな若い人を
絶対に増やしてはならない、強くそう思っています。

河野先生、逆風に負けないで、是非頑張ってくださいね。心より応援しています。

投稿: momo | 2007年5月25日 (金) 11時24分

コメントでは、お久しぶりです。
一つ前の「命が生まれるということ」とShiozyさんの死や、介護に関するブログを読ませていただき、死と生あるいは、性は、生きていくうえで全て繋がっている大切な事として、改めて感じました。
何故だか、コメントなども拝見しつつ涙が溢れてきて・・・・。
先生が、これまで主張し、求め、信念として貫いてきている生き様を、医業の場だけでなく、政治の世界でも生かせるために、どうか元気で頑張ってください。先生を応援しつつ、身の回りの方に対する自分の接し方から、そして足元から見つめなくては・・・。と反省しています。

投稿: せんごくテンペ | 2007年5月26日 (土) 08時58分

momoさま
コメントありがとうございます。HIV関連って。こんどお会いした時に、是非声をかけてくださいませ。よろしくお願いします。   河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年5月27日 (日) 17時44分

せんごくテンペさま
コメント、ありがとうございます。テンペ様のようなコメントが本当にありがたいのです。また、元気をもらったような気がします。今後もどうぞ、よろしくお願いします。   河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年5月27日 (日) 18時13分

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