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赤ちゃんが生まれて...

 今日は山口県のある市の産婦人科に一日中いた。朝8時から診療。早いので、前夜から個室に泊めていただく。8時に外来に降りて行くと、もう待合室はいっぱい。ここは産婦人科と小児科のみの開業医だけれど、ものすごく沢山の患者さんが来る。お産は月に100。外来患者も一日約100人。それも圧倒的に妊婦健診。それを産婦人科は院長一人で診るという、めちゃくちゃな病院だ。といっても、一人常勤のドクターが来るというのが決まっていて、だから二人で診る体制で病院を新しくしたのだと。ところが、来る予定のドクターは沖縄で、沖縄も産婦人科医が不足していて、今勤務している病院が手放さないのだそうだ。でも、患者はどんどん来るし、お産もいっぱいあって、SOSを求められた。私や友人の産婦人科医が時々手伝いに行く。今日は、午前中は院長と二人だから診療ははかどる。でも、午後は院長は医師会に出かけて、私一人。

 朝、お産で入院している人が4人いた。午前中に一人生まれた。後三人。一生懸命外来を診ていると、「お産です」。で、走って分娩室へ。一人、無事生まれて、良かった良かったで外来へ戻る。また必死で外来を診ていると、また「お産です」でまた分娩室に走る。このごろのお産は、産婦が一生懸命力むという事はしない。できるだけ力をいれないで自然な子宮の収縮と赤ちゃんの力で出てくるのをひたすら待つ。初産でも、会陰切開はほとんどしない。助産師さんが、一生懸命会陰保護をするが、それでもやっぱり破れる。破れた会陰を縫うのは医師の仕事。一人目のは初産だったから、なかなか縫うのもしんどくて、腰が痛くなった。二人目は二度目のお産の人で、簡単だろうと思った。無事に元気な男の子が生まれて、また良かった良かったで。ところが、後産、胎盤が出ない。助産師さんがへその緒を一生懸命引っ張って、私がお腹をマッサージして、でも出ない。とうとうへその緒がブッチンとちぎれた。必死でマッサージをしながら、10分経っても20分経っても出ない。癒着胎盤。福島県で、癒着胎盤の胎盤を無理に出そうとして産婦さんが失血死したとして、ドクターが逮捕された。こんなので逮捕とはあまりにひどい。日本中の産婦人科医が怒った。そのことが頭をよぎる。助産師さんはギブアップ。「先生、お願いします」と言う。私はナイロンのピンクのエプロンをし、滅菌の手袋をして、子宮の中に手を入れて、胎盤をはがし引っ張り出すという「用手剥離」をした。産婦さんは悲鳴を上げてつらいし、こちらも、力づくで必死。幸い、うまくいってちゃんと胎盤は出て来た。出血もほとんどなくて、やれやれで、どっと冷や汗が出てきた。傷を縫ってまた急いで外来へ。まだまだ沢山の患者さんが待っている。

 赤ちゃんが生まれるといのは、本当に感動的なことで、大好きなのだけれど、まさか癒着胎盤なんて、めったにないことに当たるなんて。しみじみ感動を味わうこともできなかったわ。やっぱりお産というのは何が起こるかわからないことで。時には、命がけにさえなることなのだ。

 残りの一人の産婦さんは、心音がおかしい。陣痛とともにかなり下がる。おかしいなあ、と警戒しながら外来においてあるモニターを見ていると、やれやれ、やっと院長が帰って来た。羊水も濁っていると助産師さんの報告。これは、帝王切開をしないといけないかなあ、と院長がつぶやく。「そうですね。あぶないですね。」とは言ったけど、わあ、しんどい。私はもう疲れている。院長は一人で帝王切開も出来る人だし、スタッフの体制もしっかり取れている。なにしろ開業医でも、助産師が10人もいるのだから。で、私は帰らせていただいた。それでなくとも、約束の時間よりうんと遅くなってしまったのだから。

 この病院で診療すると、広島のビルで診療しているのと、ずいぶん違う。三人目、四人目のお産という人が沢山いる。五人目という人だって。それに、早産しそうな人に入院を勧めると、みなさん、「はい」と実に素直に入院される。上の子はおじいちゃんやおばあちゃんなどの家族がちゃんとみてくれる。家も狭いアパートでなく、圧倒的に庭のある一軒家がほとんどなのだから。ここにいるかぎり、少子化なんて、一体どこのこと?とさえ思う。

 やっぱりなあ、人間らしい生活をしようと思ったら都会より田舎の物よねえと思う。

 雨の中、車を飛ばして広島に帰る。遅くなって申し訳ない、と事務所へ。もう、これで大体の約束は終わったから、後は診療以外は事務所に入り浸ることができるから。と、いい訳めいたことを言う。みなさん、怒りもせず、疲れたでしょう、と肩なんぞをもんでくれたりして、ありがたいことでした。

 

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コメント

少子化の時代子沢山の所があるんですね。
でも、産婦人科医不足は深刻ですねえ。ネット友のママさん達、二人目三人目と思っても社会的に受け皿が無い。保育所不足は私達の時代と変わってなくて育児休職明けに入所できる保障が無くみな不安を持っています。当の厚生労働省も大臣自らあのような発言をする時代、安易に子供も産めないですね。
しかし、医者不足でこの様な応援で賄っているのはちょっと危険な気もします。私がかかっている神経内科も先生が土曜日に応援に来られます。病人は増えるばかり、医師は不足なんですね~。知りませんでした。

投稿: 初ちゃん | 2007年3月16日 (金) 13時01分

河野先生、はじめまして。まることいいます。よろしくお願いします。

私は会社(中国新聞情報文化センター)で、キャプママくらぶという育児サイトを作っています。
私のブログは個人のじゃなくて会社サイト内なので、広島ブログには登録してないのですが・・・。
shiozyさんのブログを見ていてこちらにお邪魔しました。

“子宮の中に手を入れて、胎盤をはがし引っ張り出す”というのには、びっくり・・というか驚いてしまいました。
出産は、一つ一つが違ってドラマなんだなぁと改めて思いました。

それに3人め、4人めのお産もたくさんあるっていうのは、広島とは随分違うんですね。
母親だけが子育てをするという環境ではなかなか難しいと思います。

投稿: まるこ | 2007年3月16日 (金) 17時06分

初めまして!!!
先生のブログを拝見させていただきました!!
お仕事も大変ですのに、素晴らしい活動や生き方!!
先生のフルパワーに驚いています。
同じ女性として、見習わなくては・・・!!
なんだか目の前に、先生の生き生きとされたお姿やお顔が思い浮かびそうです~~(*^。^*)
ますます頑張ってください!!
応援しています!!
その分!私の人生も頑張らなくちゃ!!はい!

読んでて感動したり、泣きそうになったり、現在の医療の実態に驚いたり…ですが、このブログを楽しみにしてますので、これからもよろしくお願いいたします!!!!

投稿: 松子ちゃん | 2007年3月17日 (土) 07時19分

松子ちゃん様。コメントありがとうございます。つたないブログを読んでいてくださって、少し恥ずかしいけれど感謝です。私も日々順調ばかりでなく、悩んだりつらかったりもします。これから、そのあたりも徐々に出て来ると思います。どうぞ、今後もよろしお願いします。
           河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年3月18日 (日) 02時06分

まるこさま
サイト、のぞかせていただきました。面白そう。これからも寄らせていただきます。育児、私が子育てしていたころは、こんな情報交換なんて、なかったから。少々うらやましくもあります。これからもよろしくお願いします。
        河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年3月18日 (日) 09時25分

私は里帰り出産をしました。それまでは河野先生に診ていただきました。微弱陣痛でかなり辛かったけど、助産師さんが一晩中腰をマッサージしてくれてとても助かりました。お産は妊婦も先生も助産師さんも体力が必要なんですね。。。
次の妊娠のときも、先生診察をお願いします!

投稿: いおママ | 2007年3月22日 (木) 10時13分

いおママさま
コメントありがとうございました。どなたでしょう?
今度いらっしたらコメントを書いたこと、教えてくださいね。赤ちゃんもお元気ですか?ぜひ連れて来て、私に会わせてくださいね。
         河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年3月22日 (木) 16時44分

一度クリニックに赤ちゃんを連れて行きました。
25日の秋葉さんの出発式に子供を連れて行く予定なのですが、先生も来られますよね?
もし、先生を発見したらご挨拶に行きます。

投稿: いおママ | 2007年3月22日 (木) 18時14分

わあ、大歓迎ですよ。赤ちゃんと一緒に出発式に来てくださるなんて。もちろん、私は早くから行っていますが、でも、今の予報だと雨だそうです。一応テントを作っていますので、その中に入ってください。どうぞ、遠慮なく入ってくださいね。車いすの人とか、ご高齢の方とか、そういう方達のために用意しています。赤ちゃん連れもそうですからね。では、楽しみにしていますね。
          河野美代子

投稿: こうのみよこ | 2007年3月22日 (木) 20時46分

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